132試合目 ところで君は

「ところで彩花は一年生……ってことだから今年入学したんだよね??」

 すでに京極彩花は俺たちの輪の中に入っていた。彼女は輪に取り入るのがとてもうまい、立派な才能だ。

「そうっすね!! でもまだクラスはみんな黙りこんでてなんだか気まずいっすね。まあ友達はできたんすけど」

 大体最初はみんな同じ不安を抱えている。だからこそ自分から前に出られるものは少ない。もちろんこれは徹も経験した……。が、俺にはこの春馬というプライベートスペース爆殺怪獣がいたからすぐにみんなは仲良くなれた。

「まあ……そうだな。当たり前のことだ。すぐにみんな輪を作って仲良くなるはずだ」

 俺は的確なアドバイスを出すことはできないので、何となく落ち着かせるワードを選んでおいた。

「そうっすよね!!! 先輩流石っす!!!」

 その結果、後輩にヨイショされた。


「ふ~~ん? そうなんだ」

 家に帰るとまず正座させられた。

(で、ですよね~~)

「私が?? たまたま先に帰ったら?? また新しい女の子侍らせたんだ?」

 柚希激おこ、俺こわい。

 俺は恐怖からか心で考えられる文字数が極端に減ったことに気がついた。

「ハイ……スミマセン」

(ここで『侍らせてなんかない!!!』なんて反論した日には俺はおそらく死ぬまで言葉のデンプシーロールを食らってしまう。

 男は我慢って偉い人が言ってた。そう、我慢だ)

「覚悟できてるんですか?」

 すごい形相でこちらを見ている。

(やっぱ無理かも)

「覚悟……とは……??」

 俺はまるでワニに真正面から近づくかの如く恐る恐る問いを発した。

「一応兄さんは女性から告白をされている身なのです。それをないがしろにして新しい女性に手を出しては示しが付かないというもの……。私はそんな兄さんは見たくありません」

 柚希にしてはまじめな回答だった。しかも胸に刺さるタイプの。

(確かにそうだ。俺は告白をされ、それを保留している身……。このままでは俺はクズに成り下がってしまう。そうだ……。それでは母さんに見せる顔がない。そうだ……そうだよな)

「わかった……。そろそろ俺も決断しなければいけないというものだよな。考えさせてくれてありがとう……柚希」

 俺は少しリラックスしたように顔を緩めた。

「兄さん……」 

 それを見て何かを察してくれたのだろう。険しい顔だった柚希は俺の方を見て微笑んだ。

「俺は覚悟ができた! 今ならなんでもできる気がする!!」

 俺は両手を握り頭上に上げた。

「ということは兄さん」

「ん??」

「私の告白はOKでよろしかったですか」

「いや……あの」 

 やっぱ無理かもしれない

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