123試合目 最後の正直

「さくらださん……。なんでここに??」

「いつも通りじゃない!!! それより……!!! バカじゃないかしら??」

 春馬には絶対に見せなかったようなしかめっ面でそれをいう

「春馬君は私が春馬君のことは好きじゃないとおもってるの……!!!!」

「それは……」

 春馬は否定できずに夕日で照らされた自分の影で少し黒ずんだコンクリートを見ることしかできなかった。

「それがバカじゃないのって言ってるのよ!!! 私は別に周りなんてどうでもいいの!! あなたが好きだから好きだっていったのよ!!!!」

 その気持ちに春馬は全身に電気を浴びるかの如く驚いた。

「でも……」

 その時だった。さくらは春馬にバチンという音と共にビンタをした。

「聞きたいのは言い訳でも、建前でもない!!!! あなたの気持ち!!!! 私がずっとずっと愛して、ずっと考えていたのはあなたのこと。

 私が好きなのは外見や名誉や飾りなんかではないわ!!!!!!!

   あなた自身なの!!!!!」

 春馬は涙があふれてきた。初めての涙だった。痛みや苦しみの涙なんかじゃない。

   自分をここまで思ってくれる人がいる事実への涙だった。

「俺の……気持ち……」

「そうよ。あなたの気持ち……。ゆっくりでいいから答えて?」

  俺の気持ち……。温かくてどんな時でも一緒にいてくれる彼女への気持ち……。

ここまで考えてくれる……優しい……深い……素敵な……

「俺は……さくらさんのことが、好きだ」

 もう吹っ切れた。この返答がどうであろうとこの答えは変わらない。


さくらはその言葉を聞いてもはや1フレームだろといわんばかりの速度でこう言った。

「私も」

笑顔でそういった。


少しの沈黙が二人の空間を包む。

「今さくらって呼んでくれた!??」

 遅延でセリフを思い出した。

「え!? あ!! しまった!???」

「しまった???」

 予想外の焦りようにさくらは疑問を浮かべた。

「俺はさくらさんと仲良くなりすぎないようにと思って、あえて名前を間違えていたんだ」

「そういうことだったのね……。でもこれからは交際するんだからしっかり名前呼んでよね?」

「わかったよ。さくらさん」

「さん~~~~???」

「さ、さくら……」

「よろしい!」

 (カップル!!!! あんなことやこんなことをし放題な魔法の言葉……!!!!! ぐへへへへ!!!! 春馬きゅん……!!!)

「ふへへ」

「あの~~。申し訳ない……。イチャイチャしてるとこ申し訳ないのだが、全部聞こえるのだが……」

 春馬の家の隣の扉から出てきたのは西屋敷だっ

「に、西屋敷……!??」

「俺の家となりってこと忘れてる?? 俺たち家の中で気まずかったんだから」

「え!?? どこから聞いてたの??!」

「『ばかやろおおおおおおおおお』から……」

「序盤じゃん!?」

「でもよかったよ。お前もどこか吹っ切れた感じがあって。ただ交際始めたからってこの作品終わらないよね??」

「それは大丈夫だと思う……よ??」

 なんだか締まらないなぁ……。


何やかんやありつつ二人はとうとう交際をスタートした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る