119試合目 普通から変わりたかった少年
母が亡くなってからのことだった。
俺はいままで母に会いに行く時間を作るため友達と遊ぶことはなく、交流関係も最小限だったといえるだろう。
だから俺は誰とも遊ぶことはなく、家に帰っても暗い雰囲気の家と妹がいるだけだった。
もし俺がスーパーヒーローのように誰かを一瞬で助けることができたら……
今頃は……明るい家で、父さんと柚希と……母さんと一緒に仲良くご飯を食べながら笑いあえたのではないか。
当時の俺はそんなことばかり考えていた。
さらに隣にはその時一番運動ができて誰にでも優しい春馬が住んでいた。
それが俺をさらにみじめにさせた。
普通じゃなければ……!! 普通よりもっとすごいものになっていれば……!! 俺は……母さんを助けられたのかなぁ……
思えば想うほど涙はこぼれてくる。しかしその涙を家族に見せてはいけないと俺はこころのなかで子供ながらに考えていた。
そこからだろう。俺が家族を支えられる。そんなすごい人間になってやろうと思ったのは。
俺はまだまだだと自分に言い聞かせずっと努力……してきた。そう思っていたんだ。
しかし今、目の前にいる鈴は特別だと俺に言った。
その瞬間、あのころから溜めていた想いが全部瞳からあふれ出した。
「どどど、どうしたの!??? 徹!!!」
「!! いや!!! 違うんだ!! これは……!」
涙を止めようとしてもなぜか止まらない。こんなこと、今までにはなかったのに。
「ふふ。別に無理に止めようとしなくていいんだよ」
彼女はそっと俺の頭をなでた。
温かかった……。
そして俺にそっとハンカチを渡してきた。
「ぐ……!!! おまえ、できる彼氏かよ……!」
そのまま俺は笑った。おそらくだが顔は想像できないほどぐちゃぐちゃだっただろう。
「でも……ありがとな」
「どういたしまして。それとこんな美少女にこんなによくしてもらえるなんて普通の人じゃ無理なんだからね!! もっと幸せかみしめなさいな!」
「ははは!! そうだな」
俺は何か、心をずっと包み続けていたなにか重くてどんよりとして、それでもって熱い何かが外れた気がした。
「あの~~~」
俺たちに話しかけるのは紫だった。
「な、なんでそんなに徹君、目が赤いの???」
「え!?? あ!! いや……!!!」
「徹が号泣したのよ」
「おい!! 鈴!!!」
鈴は俺がごまかそうとした瞬間に本当のことを言いやがった。
「え!?? 大丈夫なの!??」
「だ、大丈夫だ。心配すんな」
「それならいいけど……」
「ありがとな。紫も」
「え……?? うん!!!」
何だか少し晴れた気がした。
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