第52話

「このお家を取り壊すんだよ。

 新しく建て直すの。

 だから、今のお家とお別れね

 もう契約もしちゃったから、取り消せないよ」


綱子ちゃんはポンと手を打つ。


「おおーっ、この古い家。

 ついに建て直すのか」

「そうだよ。

 春から輝子ちゃんが一緒に住むからね。

 この際二世帯住宅風にしようって六郎さんが」


なんだ、お別れって。

お別れってそういう意味だったのか。


「六郎さんにやきもち、何それ。

 何の話?」


しまった、余計なコト口走ってしまった。

餅子ちゃんはそっぽを向く。

わたし何か言いましたっけ。



「それじゃあ始めちゃおうか」


和泉さんは言う。

現在会場には7名。

和泉さんと六郎さん。

綱子ちゃんと本庄猪丸。

餅子ちゃん、輝子ちゃん、金津新平くん。


「他にも来るってヤツはいいのかよ」


綱子ちゃんが訊くけど。


「いいの、いいの。

 ホントに来るのかも良く分からないんだ。

 気にしないで」


和泉さんは答える。


「じゃあ六郎さん、お願いします」

「わたしですか?

 ではですね」


六郎さんは一同を見回して。


「本日は長尾家へようこそおいで下さいました。

 今日はですね。

 直江綱子さんと本庄猪丸さんの御結婚の前祝い。

 ですから婚約披露と言う事になるでしょうか。

 そしてこの家が取り壊して新たに建て直す事になりましたのでそのお別れと記念の会。

 更に来春からこの長尾家に住む事になりました上杉輝子の紹介。

 そしてワタクシゴトではございますが長尾六郎と和泉の結婚に関しまして祝いたい。

 その様な趣旨の会でございます。

 ご一同様、宜しくお願い致します」


「六郎さん、カタイカタイ」


しかも長い。

でも声は優しく柔らかい響き。

一同は聞き惚れるような声。


「では、乾杯!」


「カンパイ!」

「カンパイ!」


と綱子ちゃん、本庄猪丸、輝子ちゃん。

綱子ちゃんは待ち構えていたのだ。

グイッとシャンパンを呷ったかと思うと。

隣のビールジョッキまで口に着ける。


「待って!」

「待ってくださいっ」


「待って、待って待って待ってーーー!

 今聞き逃せない様なコトを口走りませんでしたか」

「待ってください、待って待って待ってーーー!

 今トンデモナイ事を聞いた気がします」


慌ててるのは餅子ちゃん。

金津くんも一緒にワタワタ。


六郎さんはグラスでシャンパンを飲み干す。

和泉さんも一緒。

この日のため買って来たのだ。

綱子ちゃんは既にビールを煽ってる。

本庄猪丸はシャンパン。

輝子ちゃんは未成年。

アップルサイダーで雰囲気出してる。


「ウマイじゃん」

「うん、上等なお酒だね」


「たまには良いですね」

「アタシ、ヤッパリ甘い方が良いな」


「わたしも成人したら、お酒付き合って下さいね。

 柿崎さん」


餅子ちゃんをよそにみんな和気あいあい。


「なんだ、餅子。

 何バタバタしてるんだよ」


「何って、今六郎さんが……」

「今すごいコトを……」


六郎さんが、和泉さんと何ですって?!。


「そうだ、どう言う事なんだよ」

「俺達に何の相談も無く」


その時、部屋に乗り込んで来た人が居た。

二人組の青年。


「あー来ちゃった」


顔をしかめる和泉さん。


「みんな、五月蝿くしてゴメンね。

 あたしの弟。

 祐介と晴介よ」


「いや、そうじゃなくて」


餅子ちゃんは気にかけていられない。

和泉さんと六郎さんが結婚て言った?!

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