第51話

長尾家の居間。

元は玉江さんの部屋だった広い部屋。

フスマで仕切られてるのを開放すると更に広くなる。

机が幾つも置けちゃう。

畳に座机と座布団。


机に四人で丁度。

綱子ちゃんと本庄猪丸。

そして、餅子ちゃん、金津新平くん、輝子ちゃん。

……さて何人?


「えーと、じゃあ僕は隣の机へ」


「ダメ、新平くんはあたしの隣へ」

「そうです、金津さんはあたしの隣へ」


何故だか二人の視線が金津新平くんに集中。

餅子ちゃんと輝子ちゃんの間に無理やり詰めて座らされる金津新平くんである。


おかしいな。

なんでこんなに二人とも殺気立ってるんだろ。

僕の気のせいかな。


「オマエラ、席は余裕あるじゃんか。

 ゆったり座れよ」


綱子ちゃんの言う通り。

まだテーブルは二つある。


「和泉、まだ誰か来るのか」


お料理を運んできた和泉さん。

綱子ちゃんは尋ねる。


「アタシ手伝います」


輝子ちゃんが言えば、餅子ちゃんも。


「あたしもやりますよ、和泉さん」


「うーん、呼んでないんだけどね。

 今日来ちゃうらしいんだよね」

「誰のコトだ?」


和泉さんは綱子ちゃんに返事。



「丁度いいでしょう。

 早くにご挨拶したかった」


六郎さんも運んでくる。

今日は六郎さんのお料理だけじゃない。

近所からお寿司も取ってる。


「おおっ、豪勢じゃん」

「そりゃ、綱子ちゃんの結婚祝いだよ。

 トーゼンでしょ」


「冬です。

 サラダは温サラダにしてみました」


ブロッコリーにプチトマト。

半熟タマゴと薄い鳥ハム。

湯気を立ててる。


「温サラダか。食べた事無いな」


綱子ちゃんは早くも手を出そうとする。


ちょっと待って。

餅子ちゃんはストップを掛ける。

その前に。

キチンと確認しないと。


「あの和泉さん。

 ホントに本気なんですか」

「うん、もう決めちゃったんだ」


餅子ちゃんが見るに、和泉さんはジョーダンを言ってる顔じゃない。

ホンキでこの家を出るつもり。

和泉さんだってもう20代の終わりが近い年齢の女性。

それでそう決意してしまったなら。


餅子ちゃんは目に涙が浮かんでくる。


「だって、こんな事になるなんて思わなかったから……

 ごめんなさい、アタシのせいです」

「なんで餅子ちゃんのせいなの?」


「アタシが六郎さんにやきもち焼かせようなんて。

 余計なコト考えたから。

 でも二人が分かれちゃうなんて……

 そんなコト無いって絶対思ってたんです」


餅子ちゃんは口の中でしゃくりあげながら話す。

すでに頬を涙が伝う。


和泉さんは明るく言う。

餅子ちゃんの言葉がピンと来てない風情。


「だってしょうがないじゃ無い。

 アタシも気に入ってるんだけど。

 やっぱり古いもの。

 冬場なんて窓をしっかり閉めても風が入り込むんだよ」


「春になったら、輝子ちゃんも棲むし。

 美少女が暮らすには不用心だもの」

「……

 何の話ですか、和泉さん」


「柿の木伝って行ったら、二階の窓まで辿り着けちゃうの。

 アタシじゃ無理だけど。

 金津くんなんか、輝子ちゃんの部屋に忍び込めちゃうよ」


「……」

「それってもしかして」


輝子ちゃんは雰囲気を察したのか言葉を挟む。


「もしかして皆さん、お聞きになって無い?

 このお家を建て替えるんです。

 年明け早々に着工して、二月には終える。

 二世帯住宅のようにするとわたしは伺ってます」


お別れって……

つまり、この家とお別れ?!

しまった。

余計な事を言ってしまったような。

後悔する餅子ちゃんである。

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