第50話

「じゃあさ、週末お家でお祝いしない」


長尾家でパーティー。


「アタシもあの家とお別れだからね。

 最後の宴よ。

 お別れパーティー。

 あれ、でもお別れパーティーと結婚祝いパーティーが一緒ってあまり良く無いのかな」


「綱子ちゃん結婚祝いがメインメニュー。

 隠しメニューがお別れパーティー?」


悩みだしてしまった和泉さん。


餅子ちゃんは慌てる。


「あの、お別れって何ですか?」

「そうだよ、和泉。

 お別れってマサカ……

 あの家を出るってのか」


元々貧乏だから長尾家に居候してしまってた和泉さん。

すでに収入は有るのだ。

何時、長尾家を出て一人暮らし始めてもおかしくなかった。

しかし、あの古い家に住み着いてしまっていた和泉さんなのだ。


お別れって事はあの家を和泉さんが出るって言うコト。

それって。

つまり。

六郎さんと別れて暮らすと言うコト。


「ダメです、和泉さん」

「和泉、ホンキなのか?」


「うん、でも仕方ないじゃない。

 わたしだって淋しい。

 お別れなんてしたくない。

 だけど。

 もう限界だよ」


和泉さんが答える。


「じゃあ、週末ね」


そう言って和泉さんは行ってしまった。

残されたのは綱子ちゃんと餅子ちゃん。


「和泉先輩、ホンキなんでしょうか」

「冗談って雰囲気じゃ無かったぞ。

 オレ達に心配させない様、明るくしてたのかもな」


「そんな……」


言葉に詰まる餅子ちゃん。

だってだって。

もしかして。

わたしのせい?



という訳で週末だ。

長尾家には人が集まって来る。


商品開発部の直江綱子。

美人でビール好き。

少し乱暴な口調が欠点という人もいれば。

そこが良いと言う人もいる。


隣にいるのはそこが良いと言う男の筆頭。

営業二課の本庄猪丸。

割と良い男と会社では人気があるけど。

餅子ちゃんは長めの髪をかき上げたりするのがウザイと辛辣。

最近、綱子ちゃんの言う事なら何でも聞く男にキャラチェンジしたとウワサ。


もうすぐ夫婦になる二人。


「へー、ここが柿崎主任の家。

 ずいぶんと趣の有る家だな」

「素直にボロイって言えよ」


「綱子、そんな言葉を飾らないトコロがステキだ」

「だー、人前でくっつくんじゃねえ」



総務の甘粕餅子。

世話好きで可愛いらしい外見の和泉さんの後輩。

みんな良い娘だと思っていて。

密かに毒舌キャラなのを知っているのは和泉さんや綱子ちゃんくらい。


営業一課の金津新平。

まだ入社一年目、ピッカピカの新人。

短く刈り込んだ髪の毛、何となく仔犬っぽい後輩。

一応和泉さんの部下って事になってたりする。


駅で待ち合わせ。

一緒に来る予定の二人だったのだけど。


「金津さん、偶然ですね」

「ええ、上杉さん。

 久しぶりですね」


何故か輝子ちゃんが一緒。

偶然のタイミング。

二人が駅から長尾家へ向かおうとしたらば。

えーと、こっちだったかしら。

と逆方向へ歩き出そうとしてる輝子ちゃんと遭遇。


「上杉さんなんて、輝子で良いんですよ」

「えっ、ええええーと」


上杉輝子。

六郎さんの従妹の娘さん。

従姪、『じゅうてつ』って読むらしい。

ストレートの黒髪、来春には東京の大学生になる予定。

今日は新潟からわざわざやって来た。


「こっちだよ、上杉さん。

 方向すぐ分からなくなるんだから、よそ見しないの」


少しだけキツイ声を出す餅子ちゃん。


さらに誰か長尾家に近付いてきている。


「チッ、ここが和泉の新しい住処か」

「クッソ、俺達にずっと住所秘密にしやがって」


「今日はお祝いなんだから、変に騒ぎ立てないでください」


男性二人と女性が一人。

さて誰でしょう。

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