第53話

「うん、結婚したよ」


明るく言う和泉さん。


「あれ、言って無かったっけ。

 ゴメン、ゴメン」

「ダメじゃないですか、和泉さん」


六郎さんは注意してる様でいて顔はニコヤカ。

はっはっは、と笑い合ってる二人。


いや、そんな風に流すトコロ?!

餅子ちゃんはそろそろ限界。


「綱子さん、知ってたんですか?」

「いや、今初めて聞いた。

 おめでとうな、和泉」


金津新平くんは大慌て。


「本条さん、聞いてたんですか?」

「いいや、今知ったよ。

 おめでとう、柿崎さん。

 いや、もう長尾さんになるのかな」


綱子ちゃんと本庄猪丸と二人でニコヤカ。

あまり気にしてない。

そりゃそーだ。

近くに未来の伴侶がいる二人。

他の人のコト気にするワケ無いじゃん。


「この人達は?!」

「どうなってるんです?!」


全く動じてない人々。

金津くんと餅子ちゃんは頭を抱える。

あれ、もしかして自分達の方がおかしいの?

そんなコトは無いでしょ。

和泉さんの弟って人も騒いでるじゃない。


餅子ちゃんが動揺のあまりフラつくと身体を誰かが支えてくれる。

隣に立った若い女性。

誰でしたっけ。


「和泉姉さん。

 しっかりして、会社の人が知らないってコトは。

 まだ会社に結婚の届け出してないんじゃないでしょうね」


「ヒデコちゃん、もう着いたんだ。

 新幹線間に合わないかもって言うから。

 無理かと思ってた」


餅子ちゃんの隣の少女はヒデコちゃんと言うらしい。


「みなさん、アタシの妹の秀瑚ちゃん。

 大学生なの、よろしくね」


若い女性は頭を下げる。

上品な雰囲気。

落ち着いた物腰の奇麗な女性。


「ああ、秀瑚さん。

 お久しぶりです」

「こちらこそ、六郎お兄さん」


六郎さんと秀瑚ちゃんが挨拶を交わす。

落ち着いた雰囲気が似た二人だ。


「何だよ、秀瑚ちゃん。

 その男と逢ったコトあんのかよ」

「ズリィ、そんな話きいてねーぞ」


こちらは騒がしくバタバタした二人。

和泉さんの弟、祐介と晴介。



「六郎さんとはすでに義理とは言え、兄妹です。

 御挨拶してるに決まってるじゃ無いですか」


「ヒデコちゃん、ヒデェ」

「そうだ、父さん母さんはどうしたんだ」


「両親には挨拶したに決まってるじゃない」


和泉さんはキッパリ。

当たり前だよ。

いやホントは考えて無かったんだけど。

六郎さんにそれはいけませんと言われてしまったのだ。



「兄さんたちはそうやって騒ぐと思ったから伝えませんでした」


秀瑚ちゃんもキッパリ。



「和泉さん!

 あたしも聞いてません」


言ったのは餅子ちゃん。

目が据わってる。


「アレ、そうだっけ。

 ゴメンね」


目を逸らす和泉さんを問い詰める。


「どう言う事ですか。

 ちゃんと説明してください」


あの日。

上杉輝子ちゃんが新潟に帰って行った土曜日。

六郎さんは和泉さんの目を見つめて言った。

「和泉さん、大事なお話が有ります」

内容はプロポーズだったのだ。



「だから結婚しちゃった」


和泉さんは餅子ちゃんに言う。


「その日に婚姻届け役所に出しに行ったんだよ。

 思い立ったが吉日って言うじゃない」

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