第35話

和泉さんは二階に上がって来た。

自分の部屋。

輝子ちゃんが机に向かって勉強してる。


「明日模試なんだっけ。

 頑張ってね」

「はい」


輝子ちゃんは顔も向けず答える。

大学受験か。

遠い昔の事みたい。


「輝子ちゃん志望は何大学なの?」

「T大です」


?!


「えーっ、T大ってあのT大。

 東京ナントカ大学じゃなくてT大」


T大。

輝子ちゃんが出したのは一般的に日本一の大学と言われてる名前。


「そうですよ」

「すっごい、輝子ちゃん優秀なんだね」


見た目的にも美少女で賢そうな雰囲気は有ったけど。

思った以上に優秀な少女らしい。


「親が東京の大学行くなんて許さんと言っていたんですが、

 T大の模試にA判定取ってきたら、シブシブ許すと言ってくれたので・・・」


「あたしも、あたしも長野出身なんだよ。

 T大じゃないけど、東京の国立大学受かって出て来たんだ」


「そうなんですね」


和泉さんはニコニコ。

そう言えばそうだった。

なんか共感しちゃうな。


輝子ちゃんはニコニコしてる和泉さんから顔をそむける。


「子供の頃、六郎オジサマが、

 『勉強できる女の子が好きだな』と言っていて。

 それで勉強家になったんです」


ホントに?

六郎さん、そんなコト言うかな。


「今から思うとあれはウチの親が六郎さんに頼み込んで言わせたのではないかと。

 小さい頃私はオテンバで勉強せず、表で遊びまわってましたから」


あー。

輝子ちゃん、よっぽど六郎さんに懐いてたんだな。

そして六郎さんも。

本来の六郎さんが言いそうな言葉じゃない。

親御さんに『輝子ちゃんの為だから』と頼まれれば断れなそう。


なんとも言えない昔話に和泉さんも反応に困る。


「輝子ちゃん、明日模試の会場まで案内しようか。

 あたし場所知ってるし、輝子ちゃん東京不慣れだもんね」

「ありがとうございます。

 でも大丈夫です。

 地図が有りますから」


輝子ちゃんが取り出したのは、今日和泉さんの会社に来る時にも持ってた地図。

マップを印刷したモノ。


「金津さんに場所の印、点けて貰いました。

 今日通った大通りを行けば良いんでしょう」


「そっか。

 じゃあ頑張ってね」

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