第36話

「和泉さん、和泉さん」


六郎さんに起こされて目を覚ます和泉さん。


「今日はいつもよりお寝坊ですね」


土曜日だし、会社はお休み。

何時に起きても良いじゃない。

と言いつつ、いつもは六郎さんの朝ごはん目当てに起きていた和泉さん。

いや六郎さんに起こして貰っていた。


見るともう輝子ちゃんはいない。

輝子ちゃんが模試に出かけちゃったから、六郎さん起こしに来てくれたのかな。


昨夜は勉強してる輝子ちゃんに付き合っていた。

もちろん先に寝ちゃってもいいのだけど。

女子高生が頑張って机に向かってるのだ。

その横でベッドで一人、グースカ寝るのは気が引ける。

二人分のお茶煎れたり、本を読んだり、スマホを眺めたり。

遅くまで起きてた和泉さん。


「ふにゃ~、目が開きません~」


六郎さんに手を引いて貰って、トコトコ階段を下りる。

朝ご飯食べてコーヒーを飲むと、頭が動き始める。


「輝子ちゃん、もう出たんですか?」

「はい、あの娘方向オンチの気が有りますから。

 早めに行くと言って出ましたよ」


模試は10時から、昼休みを挟んで夕方まで有るらしい。

方向オンチか。

道理で、地図を持ってたのに会社まで迷うワケだ。

ヘヘヘ。

賢くて美少女の輝子ちゃんだけど、苦手も有るんだな。

少女の弱点を見つけて嬉しくなる和泉さん。


今日は夏服を全部クリーニングに出そうと思ってたんだった。

それで一気に部屋を片付けよう。

輝子ちゃんが帰ってきたらピカピカの部屋を見て驚くのだ。


「柿崎さん、サスガですね」

「フッ、今回たまたま散らかってたけどね。

 いつもはこうなのよ」


うん。

こんなカンジで行こう。

部屋を片付けだす和泉さん。

何か落ちてる。


これ地図じゃない。

地図にはマーク。

和泉さんの会社と模試会場。

昨夜、輝子ちゃんがこれが有るから大丈夫と言ってた地図


和泉さんは時計を見る。

09:35。

模試は10時から。


長尾家から最寄り駅まで5分。

そこから模試会場のある駅まで20分。


間に合わない。

と言うか。

多分大丈夫、輝子ちゃんは昨日昼間に会社に来た。

その通りを駅の逆側に行けば、会場がある予備校は近く。

でも通りの少し裏側、分かり難い場所だ。


輝子ちゃんは東京に慣れてない。

方向オンチの気が有るって。

本人も不安だから早めに出たのだ。


いや考えてる場合じゃない。

輝子ちゃんは昨日和泉さんのお弁当を届けてくれた。


「六郎さんっ!

 輝子ちゃんのケイタイ番号教えてください」

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