第13話

「ちょっとお手洗いに」

「ああ、案内するよ」


綱子ちゃんと和泉さんはお手洗い。

長尾家は古い日本家屋、どこがお手洗いだかパッと見では分からない。

餅子ちゃんと六郎さんが残される。


餅子ちゃんは思案中。

美肌の秘訣は?

その言葉を初対面の男性に訊ねるのはどうかな。


「あの甘粕さん、少しお聞きしたい事が有るんですが…」


はいっ、何でしょう?

逆に六郎さんから訊ねられてしまった餅子ちゃん。


「和泉さん…柿崎さんの事です。

 彼女はお付き合いしてる男性はいらっしゃらないんでしょうか?」


お付き合いしてる男性?


餅子ちゃんは目の前の男性を眺める。

着流しを着た男性。

年下の小娘にまでキチンとした丁寧語。

優しい声と柔らかい物腰。


貴方の事ですよね。


有名なのだ。

鬼の柿崎主任は毎日家から手作り弁当を持ってくる。


「柿崎さん、お弁当ですか。

 毎日作ってるなんてスゴーイ」

「イエ、

 同居してる男性に作って貰ってるんです」


ハッキリ、キッパリ答える和泉さん。


鬼柿崎、毎日オトコにメシ作らせてるらしいぞ。

すげーな、完全に尻に引いてるじゃん。

いいじゃないの、男が仕事、女が家事なんて古いわよ。

そうよ、柿崎さん仕事できるんだから、柿崎さんが仕事、男が家事、全然OKじゃない。


まー、そんな訳で鬼の柿崎主任に料理の出来る同棲してる恋人がいる事は有名。

女子ならほとんどの人が知ってる。


「いえ、その興味本位で聞いてる訳では無いんです。

 私としても、柿崎さんの保護者としてと言いますか、

 血が繋がってる訳では無いので保護者と言うのも何ですが。

 とは言っても長年一つの家に暮らしてる訳ですから、

 家族も同然、親戚関係くらいの間柄では有ると思っているんです」


餅子ちゃんの六郎さんへの視線をどう解釈したのか。

六郎さんは何だか言い訳交じりの長話を始めてしまった。


「その立場としてですね。

 やはり年頃の女性の現況と言うのは少し気になる訳で」


「和泉さんて、和泉さんて、その可愛らしくて素敵な女性だと思うんです」


「普通であれば、絶対異性にもてる筈ですよね。

 それが、全くそんな様子が無く、勿論私に対して隠してるだけなのかとも思うのですが、しかし誰かとお泊りどころか、お休みの日にデートする様な様子も見受けられない」


なんだこれ、もしかして。

自分は持って回った惚気話聞かされてるのか。

グッタリしてくる餅子ちゃん。


「これはどういう事なのでしょう。

 もしやとは思っているのですが、オニ柿崎等という不思議な名前で呼ばれているという話を以前、和泉さんから聞きました。まさか、まさかとは思うのですが、何か和泉さんに関して変な噂でも立ってそれが問題となっているのでは」


いえ、異性関係の話が出ないのは六郎さんの為だと思います。


餅子ちゃんは言い損ねた。

いうかホントは一人和泉さんを気にしてる異性も心当たりが無いではないのだ。

でも今は言わない。

話がややこしくなるだけ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る