第12話
「プハァ、生き返るー」
綱子ちゃんが缶ビールを空ける。
500缶を一息で飲み干す。
500缶て500ミリリットル。
一息で呑むモノじゃないんだよ、綱子ちゃん。
和泉さんと六郎さんも珍しくビール。
餅子ちゃんはワイン。
長尾家の居間。
畳と座卓。
背もたれの有る座椅子が用意されてる。
普段和泉さんが朝ご飯を食べるテーブルとイスとは別物。
それは台所の脇、小テーブル。
二人なら良いけど、三人越えたら厳しい。
六郎さんは居間の方に用意してくれてた。
「私はオジャマでしょう。
女性だけで楽しんでください」
そう言う六郎さんを餅子ちゃんが引き留めた。
コップにビールを注ぎ込む。
和泉さんも同じ。
注がれたビールをチビチビ舐めてる。
やっぱり苦い。
大人になったらビールが旨く感じられる。
そんなの嘘っぱち。
「時間が無かったのでこんな物しか用意出来ませんでした。
どうぞ食べてください」
六郎さんが出してくれた食べ物は冷しゃぶ。
既に火を通したお肉と野菜が冷やして並べられてる。
軽く茹でて芯だけ残したニンジン、ジャガ芋、もやし、ズッキーニ。
他にも色とりどりの野菜。
豚肉、牛肉、鶏肉、ソーセージ、魚介類。
これを好きなたれにつけて食べる。
ポン酢、胡麻だれ、コチュジャン、にんにく、お味噌、おろし大根。
「スゴーイ、連絡してから時間なんて大して無かった筈なのに。
こんなに用意してくれたんですか」
「手抜きで申し訳ないですね。
若い方達ですし、ピザでも取りましょうか」
「何言ってるんですか。
充分ですよ、感動です。
写メ撮っていいですか」
餅子ちゃんは感激して写メまで撮ってる。
確かに、野菜が色とりどり並べられててキレイ。
和泉さんは料理は出来る。
でもこういうキレイに見た目を整えるとか出来ない。
全部丼に盛る、オトコ飯風になっちゃう。
綱子ちゃんは六郎さんに勧める。
「日本酒お好きなんですよね、どうぞ」
お猪口に注いでく。
お料理のお礼だ。
自分が酔った醜態を見せたので、こいつも酔わして醜態見てやろうなんてそんな事は思ってない。
きっと。
多分。
おそらく思ってないよね。
宴は進んでいく。
今日は暑かった。
水分補給は大事だよね。
コップがお猪口がグラスが空になっていく。
「ちょっと和泉さん。
六郎さんて定年退職してるって言ってませんでしたか」
「そ、そうだよ」
餅子ちゃんは頬がピンク色。
目が据わってる。
「ウソです。
何ですか、あのお肌。
シワこそある物のシミなんて一つも無い。
白髪も無いじゃないですか。
あれで六十ウン歳。
そんな訳無いでしょ」
ああ。
それは六郎さんの七不思議の一つだな。
和泉さんもうんうんと頷く。
「毎日、パックでもして寝てるんですか」
パック!?
六郎さんがそんな訳無い。
「んな事無いよ。
毎日お風呂入ってるのと、後は。
…やっぱり栄養かな」
「食事!
和泉さんもお肌の曲がり角を過ぎてるにしては、
プルンとした肌だと常日頃思っていましたが。
そうですか、この食事に秘密が……」
お皿を見つめる餅子ちゃんの目が険しい。
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