3-11


「ねー、せんせー。ずっとあめざーざーだよ?」


 子ども達は全員登園したが、外は未だに土砂降りだ。空は鈍い灰色の雲で覆われている。本日も終日大雨、晴れるのはまだ先になるだろう。ハーブちゃんは池のようになった園庭を見て、残念そうにしていた。


「……今日も部屋の中で遊ぶか」


 悪天候ばかりはどうしようもない。恨めしく思うだけ時間の無駄だ。いつもとは違う玩具を出したり絵本の読み聞かせの時間を多めに設けたり、工夫を凝らして飽きやストレスがないようにしよう。

 でも、その前にやっておきたいことがある。


「みんな、遊ぶ前に、改めて自己紹介でもしてみないか?」


 入園したての頃は不安で泣いたり怒ったり、慣れてくる頃には自然と遊ぶようになっていた。なのでお互いについてきちんと紹介し合う機会はなかったのだ。

 異種族同士、そして人間と一緒に生活をするためにも、改めて共に過ごす相手を知った方がいいのかもしれない。そんな思いからだった。

 こんな小さなことが、異種族との共存に繋がるか、正直分からない。でも、一歩一歩自分達が出来ることから試していきたい。その積み重ねが、いつか花開くかもしれないのだから。


「まずは先生から。

 名前は鈴振恩夢だ。種族は人間で、子どもが大好きな新人先生だ!

 お勉強は得意じゃないけど、色んな種族のことに詳しいぞ!あと、細マッチョに鍛えてあるから、多少の攻撃も平気だからな!」


「えっと、私は太陽寺えみるです。

 鈴振先生と同じで種族は人間……です。

 ちょっと頼りないって思われちゃうかもしれないけど、みんなのことが大好きって

 気持ちだけは負けません……っ!だから、これからもよろしく……です!」


「わたしはセピア・ノワイライト。

 クラーケンぞくでも、ゆいしょただしいノワイライトいちぞくのむすめよ。

 じゅっぽんのあしで、きようになんでもやってみせるわ。それと、このクラスのリーダーのつもりですから、そのつもりでよろしく」


「オレはヴェイク・ヴォルドレイクだ!

 ドラゴニュートぞくで、とくいわざはかえんほうしゃだ!

 オレもクラスのリーダーになるつもりで、セピアなんかには、ぜったいまけないからな!おまえら、おうえんたのむぜ!」


「めぐめぐせんせーのこいびと、ハーブ・ドーサでーす♪

 しゅぞくはラミアで、さんしまいのすえっこなんだよー。

 せんせーへのあいは、だれにもまけないから、みんなとらないでね?

 あ、それとねー、とくいなことは、あいてをカチコチにしちゃうことでーす!」


「シュヴァリナ・リトエーレだよーっ!

 あたしはケンタウロスぞくでね、おやさいたべるのが、だいすきなんだよ!

 おおきくなったら、パパみたいにムキムキになりたいから、まいにちたくさんはしってるの!きょうそうも、みんなといっぱいしたいなー♪」


「キャルはキャルト・ニャットシーだニャ。

 モフモフけなみのワーキャットだけど、かってニャおさわりはきんしだから。

 で、でも……ハーブちゃんはだいすきだから……とくべつにモフモフしても、いいかニャ……。あ、せんせいはぜったいダメニャ。ゆるさニャいから」


「わたくしのなまえは、ララ・アシダカ。

 アラクネぞくでもよるのいちぞく……ふわぁ……っ、ねむいですわね。

 わるいむしは、わたくしがぜんぶたおしますから、よんだらすぐにかけつけますわ……あふっ。……ねてもいいかしら?」


「……レイカ・ブリザノフ……です。

 フェアリーぞくで……こおりのまほうがつかえます。

 ……その、えっと……えほんをよむのが、すき……です」


「ぼくのなまえはネイチル・フォレルさ。

 ながいきなエルフぞくで、ながいみみがとくちょうだよ。

 レイカちゃんとおなじで、ぼくもえほんをよむのがだいすきなんだ。ちしきをつけるのって、たのしいからね」


「あたいはね、あたいはね、ウィン・レイセン!

 えっとねえっとね、あたいはハーピィでね、はやくとべるようになりたいんだ!

 あとねあとねー、すきなたべものはワームパスタなんだ!チュルチュルしてね、とってもおいしいのーっ!」


「ガゥ、ガゥガゥッ!」

「この子はガルベル・クロードン君。

 ガーゴイル族で、硬い石をバリバリ食べちゃうんだ。

 たまに噛んじゃうことがあるけど、みんなのことが嫌いだからじゃないんだ。早く

 言葉を覚えて、みんなと話したいんだ……よね?」

「ガゥッ!」


「るぅ~っ!」

「えっと、セルリラ・ルンちゃんです。

 スライム族だから、体がプルプルしていて透明……です。

 セルリラちゃんもまだ言葉が話せないけど、みんなと一緒にあそびたいって思って

 いま……――きゃあっ!?どっか行かないでーっ!」

「るぅるぅーっ!」


「ということで、これでクラス全員だな。

 みんな種族が違うから、うまくいかないこともあるかもしれないけど、お話したり遊んだり、ちょっとずつ分かり合っていこうな。

 もしお友達とうまくいかなかったり困ったことがあったら、いつでも先生に相談してくれ。先生が全力で、みんなの力になるからな!」

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