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オレが暮らしている、主に人間族が住んでいる国――
一方島国で国土が狭いため他国からの永住を認めず、一部例外を除き人間しかいなかったのだが、昨今浮上したとある問題により大量の移民を受け入れるようになっていた。
その問題こそ、少子化による労働力の減少だ。
最初は人間族の数を増やす方向だったがあらゆる政策が失敗したため、最後の手段として他国から永住希望者を募ることとなった。結果、街中に異種族が
労働力して招き入れたのに子育て家庭が働きに出られない。これでは本末転倒。どうにかして受け皿、子どもの預け先を確保しないといけない状況に陥ったのだ。
「ということで、異種族の子どもを預かる施設建立という国の一大プロジェクトに、うちの法人が関わることになったんだよ」
六多部教授曰く、この国で様々な種族の子どもを受け入れるこども園を運営可能かどうか、お試しで取り組んでみたいとのことだ。
これがうまくいったら同様の施設が作られていくだろうし、移民政策も
「で、どうだい?」
「確かに名誉ある仕事かもしれないですけど、オレには無理ですよ」
「うわ。つれないねぇ」
史上初の試みに関わるなんて賭け、正直引き受けたくない。それに、就職先がないような人間が一大プロジェクトに携わるなんて、失敗が目に見えているとしか言い様がない。せめて成功が約束されている、史上二度目以降なら考えたのだが……。
「鈴振はなんで保育士を目指したんだ?」
「そりゃあ、子どもが好きだからですよ」
「異種族の子だって可愛いと思うけど?」
「たとえ可愛くても、扱い方が分からなかったら怖いだけなんですが」
「お前、あたしの講義受けたじゃねーか」
「うっ。それは……」
六多部教授の専門分野、『異種族文化』の授業のことだ。
これからの世の中、異種族との交流を避けては通れない。そのため、優秀な人材と認められるためにも文化面を学んでおこう、知識を自分のものにすれば食いっぱぐれはないだろう。その程度の認識と単位取得のためだったのだが、ここで効果を発揮するとは。仕事にありつけるという意味では嬉しいが、ハードルが異様に高くなった上に後押しされても困る。断りたい。
「だ、大体、こんな責任重大な仕事、他にやる人なんているんですか!?」
「おう、いるぞ。募集は二人、そのうち一人はもう決まっているからな」
いるのかよ。物好きなヤツがいたものだ。
「
「
「えっ」
太陽寺えみる。
オレと同じゼミに所属している子だ。
小柄で童顔でありながらも、たわわな胸に丸みが豊かな四肢。しかし太っている訳でもない、絶妙な肉感さ。また、化粧やファッションにこだわることがなく、いつも自然体で過ごしている。まさに子どもと関わるのに適している、天性の保育士ともいえる女子。
そしてオレが密やかな好意を寄せている相手でもある。
そもそもオレがこの仕事を目指そうとした一番の理由が、幼少期に保育士のお姉さん達に優しくされたからだ。子どもが好き、というのは後から付いてきた。
つまり、太陽寺えみるという存在は、オレのストライクゾーンにストレート剛速球だったのだ。ぶっちゃけ、一目惚れだった。
幸いなことにこの四年間、他の男子に取られずに済み、かといって関係が深まることもなく今に至る。想いを伝えないまま卒業し、オレの恋は終了するだろう。そう思っていたところだったのだ。
「えみるさんがいるんですかっ!?本当なんですよねっ!?」
「ま、まぁね。他に志願する生徒いなかったから。あとお前、妙に食いつきがいいな……」
「オレも、オレも行きます!いや、
六多部教授の手をがっちり掴む。チラシが巻き込まれてぐしゃぐしゃになっているが、そんな
えみるさんとお近づきになる、またとないチャンスだ。逃す訳にはいかない。オレは全力でアピールする。異種族相手だろうが何だろうが、どんと来いだ。どんなに大変だろうと、えみるさんとの繋がりを得るためなら飛び込むに決まっている。
「ね、熱意は分かった。分かったから離せってば」
「是非、是非お願いしますっ!オレ、本気ですから!」
「あー、はいはい!あたしから上の方には話しておくから、暑苦しいんだよお前は!」
という騒動があった数日後、オレは無事就職先が決まった。二つ返事がとんとん拍子に進み、あっという間だった。
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