第12話 マッチ売りの少女

「やっほー」

またお前か。あれで本当に話は終わったのか?

「うん。あの後は家族円満に暮らせたみたい」

違う、そうじゃない。

「あんなに歯切れの悪い終わり方、納得いかないな。何か意図でもあるのか?」

「ないわよ。以前にも言ったけど、私は位の低い方の神様なの。そんな大層な事はできないわ」

「…つまり、位が高ければ【強制的に物語を終わらせられる】という事か?お偉いさんがそんな事したら余計に位が下がると思うが」

「まあ、実際にやる方は極めて少数だし、位の低い他の神も隠れて使ってるしで実質死にルールだけどね。私はあなた達を見てて凄く楽しいから、そんなマネはしないわ」

こいつを信用していいのだろうか、そんな不安に駆られるが、まあいいだろう。

「…で、ここに居るという事は次の話に行くという事か?」

「察しが良いわね。…あっ、あの子もそろそろ来るわよ」

しばらくすると、君がこの空間に突如として現れた。

「…何故寝巻着?」

「そりゃ、ここが夢の世界だから…現実ならとっくに夜よ」

そういえばそうだった。最も重要な所を忘れていた…。

(今回って、どこに行けるんですか?)

「あら、いい質問ね。…今回は、【マッチ売りの少女】よ」

マッチ売りの少女か。有名な童話だが、あまり詳しくないしなぁ。果たして、どちらに転がるか…。

「…今回は、君に従ってみるとするかな」

突然の話題に、君は少し驚いたような顔をした。

「あ、いや…冗談だよ。流石に全てを託すような事はしないから」

君は安堵のため息を零す。そんな不安だった?

「はーい、この本に手を置いてね〜」

転移システム変わったな…。まあいいか。

「…行こうか」

そう語りかけた直後、コンピューターの電源を切ったかのように意識が途絶えた。


──────────


「…ふむ、いい雰囲気の街だな」

転移してすぐに飛び込んできた景色に、思わず感嘆の声を漏らす。それだけ美しい街だ。観光をしてみるのも良いかもしれない。

(少し寄り道しますか?)

「いいね。…じゃあ、あそこの店に行ってみようか」

そんな会話をしながら、華やかな街並みを歩いていった。

足元に転がっていた亡骸。会話が弾んでいた為、この後また同じ道を通るまで全く気付かなかった。

そして、その亡骸に手を差し伸べる少女の姿にも。


──────────


「大丈夫かしら…」

少女は、籠からマッチを取り出した。手馴れているようで、すぐに火が付いた。小さな火だったが、どこか暖かい雰囲気を醸し出していた。

「1年…くらいで。ごめんね。もっとあげたいけど…」

少女はマッチの火に祈りを込めた。すると、マッチが輝いて、少年の亡骸を照らした。しばらくして、次第にその輝きは消えていった。

「…ふぅ。これでよし、と」

少女は人知れず何処かへ消え去っていった。その表情には安堵と疲れの感情が滲み出ていた。

「もう…永くなさそうね。急がなきゃ」


不思議な少女が照らした少年の亡骸が息を吹き返したのは、それから数分後の事であった。

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