第11話 急旋回

「親という大きな枷を外した時は嬉しかったよ。まさか世界がこんなに自由だとは思わなかったね。良い意味でも、悪い意味でも」

…ここまで話の大まかな部分以外適当に聞き流していたけど、それすら飽きてきた。私、長話とか哲学的なコメント苦手なんだよね。…ブーメランな気がする。

「…で、結局きみは何がしたいのさ」

少しカマをかけてみる。別に回答を求めている訳ではないし、彼の思想を否定する事もしない。ただ単に、疑問に思った。それだけの事だ。

「…さあ、自分でも分かってないし、これから決めるよ。自由さえあれば何でもできるから…」

…君、手震えてない?「もしかして怒ってる?」そうやって隣にいる君に耳打ちした。返事はなかったが、頷いたということは、彼は逆鱗に触れたという訳だ。形だけの自由に嵌っていても、はたから見たら私たちや他の人には自由という枷に囚われている亜人にしか見えない。世間なんてそんなもんだ。

「自由か…。まあ、きみがそれを【自由】だと思っているのならそれでいいかもね」

「…どういう事だ?」

「さあ、ただの旅人の戯言だし、耳を貸さなくてもいいんじゃないかな。…でもね、」

「でも?」

後ろを向いて、笑顔を貼り付けて振り向く。

「自由が邪魔になる事、世の中には沢山ある。一つの事柄に固執はしない方がいいよ」

ゾッ。そんな効果音が似合う様なリアクションをしてくれた。分かりやすくて助かる。

「…あと、自分の思想をひけらかす様なマネはやめといた方がいい。それでは敵を生んでしまう。…現に、ここに居るしね」

おー、静かになっちゃったか。まあそれはそれで別にいいけd…ん?

「あれは…?」

一羽の白鳥…と、一人?の何かの亜人がこちらへ向かってくる。一体何だろうか。水を飲みに来た?…いや、白鳥の生体はよく知らないが、なんか湖に居そうなイメージがある。態々こんな所に来る筈がない。なら何故…?

着陸、と同時に私たち三人を見る。

「…」

「…」

「……」

この時間は実際の所は数秒程度なんだろうが、私からしたら永遠にも思えるような、永い時間だった。走馬灯を見るとこんな感じなのか…。

「…あの、あなた達は?」

そう質問する前に、白鳥が彼の元に向かって、まるで数年ぶりに親と再開した子供のように抱きついた。…おや?

「うわっ、何だこの白鳥!」

あ、この子察し悪いな。…もう言ってもいいかな。

「あらら、両親が迎えに来てくださったんですね」

「…はぁ?」

あーもう、鈍感すぎるでしょ。…いや、どちらかと言えば天然か?

「いいか、きみは白鳥のクォーターだ。その二人…いや、一人と一羽が君の【本当の両親】だ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!全く話がのみ込めない!」

…大まかなとこは理解したみたいだけど、ここから先は推測でしかないから何も言えないんだよな私…

「…俺が話そう」

おや、父親が話してくれるみたいだ。私の仕事も省けるし、親が言う方が説得力もあるし一石二鳥だな。…鳥ここにいるな。リアル一石二鳥じゃん。…てか、このお父さん、何の亜人なんだろう…?


──────────

「…という訳だ。すまないな…」

父親の話を大雑把に要約すると、

・卵を産んだは良いが、翌日の竜巻によって吹き飛ばされてしまった

・そしてその卵を探す為に各地を渡り歩いていた

・そして、母親と同じ斑点のついている亜人を見つけたから着地をしたら自分の息子だった

…だそう。君、要約ありがとね。

「お前の境遇はその身なりでなんとなく理解はしている。こんな不甲斐ない父親だが、一緒に暮らしてくれないか…?」

彼=この夫婦の息子というのはもう確定しているようだ。まあ、目付きとか羽の生え方とか、色んな共通点があるし本当にそうなのだろう。

「…ここで断ったら路頭に迷って野垂れ死にするだけだ。だから僕は…共存を選ぶ。宜しく。父さん、母さん」

…これで解決したのかな?

(さぁ…)

そんなことを二人で考えていると、急に目眩がしてきて、意識が闇の中に吸い込まれていった。この感覚は…。

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