第7話 みにくいアヒルの子

「…やぁ、また会ったね。すまないね、昨日はあんな目に遭わせて…」

そんなことない、刺激的で楽しかった…。君はお人好しだな。お世辞だったとしても嬉しいよ。

「やぁー、お久しぶり!あれ、昨日ぶりかな?違うかな?…まあいいや!」

「…実はね…」

君に、「今度からはこいつが適当に物語を選ぶからよろしく」と伝えた。驚きはなかったけど、なんか楽しそうだったな。良かったじゃん。

「…よし。じゃあまずこいつの自己紹介を…」

「はーいっ!幻灯って言います!あなたの夢を映し出す!そんなやつです!」

「…まあ、こいつはテンションが高いやつだからこんなんなんだけど…腕は確かだよ。私が保証する」

…嫌悪感は抱いてないっぽい。まあ多分仲良くできるだろうな。

「で、今回は何処へ?」

「え〜?…じゃあ、このルーレットで決めるね!よい…しょ、っと」

な、何なんだあのおぞましいルーレットは…!?

「はいっ!こちら、古今東西あらゆる童話、怪談、都市伝説を集めたルーレットとなってます!比率は確か6:3:1だった筈なので、よっぽどの事がない限りハズレは引きません!あ、二次創作の中から適当に引っ張り出したり、原作を持ってきたりするんでそこら辺ご容赦ください〜」

…怪談系統は得意なのだろうか。…あ、大丈夫ですか。そうですか…。

「記念すべき一投目!えいっ!!!」

クルクル…ストン。

軽快な音を立てて、ルーレットに矢が刺さった。出来れば童話がいいけど…。てか、怪談と都市伝説って似たようなもんじゃないか?

「決まりましたっ!適当なとこに飛ばします!タイトルは、【みにくいアヒルの子】ですっ!」

み、みにくいアヒルの子…!?どんなチョイスだよ!…てか、眩し…──────────



────────────────────



「はあ…はあ…」

もうあいつらは追ってこないだろうか、かなりの距離を走ったけど…。

「う…」

まずい、身体に疲労が溜まって…意識…が…、誰…か…助け…て…──────────


…暖かい。一体どこなのだろう。もしかしてあいつらが…?

「おや、目を覚ましたかい」

目を覚ますと、見知らぬおばあさんが暖簾をくぐって出てきた。

「…ここは?」

「私の家さ。君はもしかして、鳥人(ちょうじん)かな?」

「…ええ。助けてくださってありがとうございました」

鳥人。この世界では人間と動物との結婚が認められている。僕の場合、母がアヒル、父が人間だ。兄弟が複数人居て、ここだけ聞けばここでは普通の家庭だ。

…問題はここからだ。生まれてきた僕は、他の兄弟たちと比べ、身体が大きく、それにものすごく醜かった。最初は母が不倫でもしたのかと思っていたが、次第に考えるのも面倒になってきていた。兄弟たちに迫害され続け、心配に思っていた母もついに心を病んでしまった。

だから、僕は今こうして見知らぬおばあさんの家に居る。

「君が良ければ、しばらく泊まっていきなさい。身体をゆっくり休めて」

「…はい」

ひとまず衣食住はどうにかなりそうだ。…一時的だけど。

恩を仇で返す訳にはいかない。何か手伝える事はないだろうか。

「…あぁ、君はアヒルと人間のハーフらしいね」

「ええ。それが何か?」

「アヒルと人間、どちら寄りなのかな?」

…一瞬にして空気が凍りついた気がする。なんだこの悪寒は。

「…アヒル寄り、だと思います」

「卵って、産める?」

…え?

「卵は産めるのかい?」

「…産めません。僕は雄なので。それに雌も居ないし、無性生殖動物でもないので…」

そこまで話したところで、ナイフが耳のすぐ側まで飛んできていた事に気が付いた。

「…なら、大人しく肉になりなさい。卵も産めないアヒルに用はない」

…逃げろ。本能がそう言っていた。考える前に行動に移していた。

「待てっ!恩を仇で返すつもりか!この鳥畜生め!」

…うるさい。早く逃げよう。

「あんたみたいなやつを必要としているやつなんて、この世には誰一人居ないんだよ!野垂れ死にな!」

心のどこかに、何かが刺さったような感覚だった。あんな人の言葉なんて無視すれば良かったのに、聞いてしまった。全速力で駆け抜けていったら、もうあのおばあさんの姿は見えなくなっていた。


…はは、これからどうしようかな。こんな森の奥まで来たら、もう人なんて居ないだろうし、他の動物に襲われるかもしれない。

「世間は僕を必要としてないんだろうな…」

適当な水辺を発見したので、そこで休憩をとる事にした。疲れていたのか、知らない間に眠ってしまっていた。誰かがこの場所に来る事を祈って。

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