第5話 crazy story

「…人、居ないね」

城門の側まで来る事はできた。ここまでの道のりで色々な困難に遭ってしまい、時間を費やした。

…例えば、モンスターの群れに囲まれたり、盗賊が湧いたり…。てか、こんだけ大変な目に遭ったのなら王妃達も帰りは遅くなるんじゃないかな?…うん、まだ希望はある。

(え、でも…)

「ん?…あっ」

そうだ、今白雪姫は1人だ。私たちでも苦戦したあのモンスターの群れにたった1人で、しかもか弱い少女が敵うはずが無い。もしかして…

いや、そんなことを考えるのはよそう。今は目の前の難題を一つ一つ解決していく方が先だ。…にしても、この物語の作者、相当ひねくれてるな。


「…全然人居ないね。王族はおろか、兵にも」

何かの罠ではないかと思う程誰も居ない。まず、これだけ大きな設備なのにも関わらず、何一つとして防犯設備が行き届いていない。とんでもない欠陥構造だ。国のトップがこれだ。国民が可哀想に思えてきたよ。たかが物語のキャラなのに。


「…あのー、誰か居ませんかー?」

誰一人として、依然として現れる気配はない。一歩一歩歩を進めるうちに、何か液体のようなモノが靴の底を舐めるような感触が全身を襲った。

「これ…血だよね?今のところ誰も居ないはず…なのに…」

…下手に思考を巡らせれば、自滅する。深追いしずに今は先へ進もう。奪った地図によると、そろそろ王妃の部屋のはずだけど…


「よし着いた。さて…と…」

スパッ。

そんな効果音が似合うような、何かが目の前を通り過ぎた。

グチャッ。

そんな効果音が似合うような、何かが何かに切られた。

ゴトッ。

そんな効果音が似合うような、まるで、硬いものを地面に落とした…いや、【身体が頭蓋骨を支えられなくなり、頭から垂直落下した】かのような音がした。

音の主の方向を向いた。そこには、【息絶えた王妃】が横たわっていて、真反対には【返り血を浴びた見知らぬ男】が立っていた。


…まずい。男がこちらを振り向いて呟く。

「縺ェ繧薙□縺雁燕繧峨b豁サ縺ャ縺」

何一つ聞き取れない、いや今は聞いている暇なんてないんだ。早く逃げなければ…

「クソッ!夢なら覚めてくれ!」

そう叫んだ瞬間、辺りは光に包まれ、意識は全てその光に飲み込まれてしまった。



「…あら、起きたの?」

…貴女は誰?

「ふふ、企業秘密よ」

早く答えてくれ。私たちは急いでいるんだ…って、此処は…?

「あら、私が折角助けてあげたって言うのに随分と傲慢な態度ね。私は…そうね、【名無しの神】といったところかしら。神様の中ではそこまで偉くない立場よ。あと、あの子は別に送り届けたわ」

お気遣い感謝する。…で、その神が何の用で?私、悪いことしてないでしょ。

「面倒ねぇ…。私はさっきまで貴女たちが居た世界の管理人みたいなものよ」

どういうことだ?

「世界には沢山の神様が居るわ。本当に権力が強くて、例えば宗教を作れるような神様だったり。八百万の神という言葉の通り、あらゆる分野に精通している神様もいらっしゃるのよ」

…つまり、貴女は文学の神様なのか?

「違うわ。私は…そうね、スクールカーストってやつあるじゃない。あれの底辺グループみたいなものよ。そこまで権力を持たない、普通の神様。そんな位の低い…あ、上の方と比べればだけど。神様は雑用を押し付けられたりするわ。私は色んなネット小説の世界を変えないように奮闘してるの」

そうなのか。

「私みたいな神様は沢山居るわ。今回はたまたまハズレだったけど、最高に楽しい物語も、きっと貴女なら見つけられるわよ。またどこかで会えるといいわね」

…会えるのか?もうこんな誰も救われないような物語には来ないけど。

「神様も人手不足…いや、神手不足でね、複数の物語の管理を任せられるのよ。私は100話程度で住んでるからいいけど、大変な神様は1000話超えるのは当たり前だったりするわ」

…ブラックだな。

「そんな訳で、また会える日を楽しみにしているわ。…そういえば、貴女、名前は?」

…名前?特にないかな。

「どうせなら私がつけても…」

いや、気持ちだけ受け取っておくよ。





…。

「これだから物語は嫌いなんだよ。」

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