第4話 苦渋の決断

白雪姫を殺せ…だと?どんだけひねくれてるんだこの作者。いや、所詮ネット小説だ。どこかに作者の欠陥がある筈。もしないのなら…姫を殺すしかない。

「おい!何をしてやがる!ボサっとしてないで、さっさと殺せよ!」

うるさいな。…今すぐにでも殴り飛ばしたいところだけど、そうするとさっきまで積み上げてきた信頼が全て水の泡となって消えてしまう。

(…あの、)

君が私に話しかける。急すぎて心臓が止まるかと思ったよ…。

(この状況を打破できそうな作戦を思いついたんですが…)

ここまでの動向を全て見通し、さらにその先に見据えるとは末恐ろしい子だ。

(まず…)

要約するとこの3つの意見らしい。

①直接戦闘する。多勢に無勢、しかもこちらには武器もなければ戦闘経験もないうえに姫まで抱えているので勝算はかなり低い。

②大人しく指示に従い姫を殺す。ただ、これだともし物語のキーとなる人物が居ないとここから出られないとかだと(ネット小説に入る時は特定の条件を満たさないと出られない場合がある)相当まずい。最終手段としてとっておくが…。

③毒林檎を奪って食べさせるフリをしながら逃げる。

…よく見ると、王妃の持つカゴの中に毒林檎が大量に入っている。…奪うより貰う方がいいのでは?

でも、これしかない…よね。よし。

「王妃様、私どもにその林檎をくださいませんか?」

王妃の顔が少し歪んだ。

「何故だ?」

「我々は遭難している身、武器など持っている筈がありません。王妃様のその林檎、どうやら毒林檎の類とお見受けしました。それを彼女に喰わせ、息を取ろうと考えましたので」

「…まあいいだろう。そこの者」

「はっ。…ほれ」

兵士の1人を呼び出し、私たちに林檎を手渡した。

(どうやって食べさせるふりを…?)

そう考えていると、君が肩を叩いた。君の手には、少し色の悪い普通の林檎があった。



「何とかなったね…さ、お逃げ」

「この恩は必ず…!」

いや、恩とかいいんだけどな。僕らこの世界の人じゃないし。

「…いやぁ、よく考えたもんだよ」

…普通の林檎を食べさせる。白雪姫は毒林檎だと完全に思い込んでいたから幸いにもすぐ気絶してくれた。その後、上手く交渉して遺体の所有権をもぎ取り、しばらくして白雪姫が起き上がり、今に至る。

「…あっ」

ここに来て、とんでもない事実に気付いてしまった。そうだ、私たちはまだこの物語に切りをつけていない。そして…

【王妃が鏡を使った時】の危険性は最高潮まで高まってしまっている。白雪姫に伝えようと思ったけど、もう居ないし、どこに居るのかすら分からない。

2人で慌てふためいてももう遅い。もう駄目だ、あの鏡さえなければ…。

…ん?【あの鏡さえなければ】?



「よし、行こうか」

君は無言で頷く。ちょっと緊張してる…かな?

「これから、【王妃一行より早く城に着いて、隠れながら鏡を割る】という作戦に出るけど、準備は出来た?」

…OKかい、じゃあ、走って行こう。

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