第2話 世間知らずの白雪姫

…あっ、また来たみたいだね。やはり僕の思惑通り…おっといけない、話が逸れてしまったね。

「今日は何処に行こうか?…ふむ、「何処でもいい」か。前回は確か…シンデレラだったよね?じゃあ、この物語でいいかもね」

光の渦を造り出す。そして行きたい物語の世界を願う。これだけで何処でも行けるんだ(これが出来るのは私だけだけど)。さぁ、行ってらっしゃい。私は後で向かうとするから。



…さて、あの子は上手く飛べただろうか。あっ、向こうから声が聞こえる。あらら、やっぱり困惑してる。そりゃそうだよね。いきなり未知の世界に飛ばされたら誰でもそんな反応をするし。

「待たせたね…あれ、ご立腹?ごめんごめん。ここの説明をしてなかったね。…ここは【白雪姫】の世界、しかも【毒林檎を食べる前日】の世界線だ。これもとあるクリエイターが創り出した【幻想】だよ」

いきなり立て続けに説明しても分からないよね。私も白雪姫の世界にはよく訪れるけれど、こんなシチュエーションの白雪姫は初めてだ。

「…とりあえず、白雪姫のいらっしゃる所へ向かおうか」

そう言って、森の奥を2人で歩き出していった。


「お先にどうぞ、今日の私は時間がたっぷりあるからね」

君は僅かにツタの絡まったドアを恐る恐る開ける。…ん?

(動きを止めた…?)

あまりにも白雪姫が美しかったからなのだろうか。…いや、この感情は恐らく恐怖の類だろう。

「どうしたんだい?では、私も中に入ろう…か…」

中を見てみたら、本来の白雪姫ならば居るはずの七人の妖精がどこにも見当たらなかった。これは一体…?

「あの、あなた方は…?」

奥の扉から声が聞こえた。あの方が白雪姫か。かなりの美貌だ。

「あぁ、旅の者です。遭難してしまい、放浪しているうちにここに辿り着いてしまって…」

文脈がおかしい気がするが、その場しのぎの言葉にしては上出来だろう。

「あら、そうでしたの。これは失礼な事を致しました。…見た所、私に何か聞きたそうな顔をしておりますが」

「ええ。この辺りに七人の妖精は居りませんでしたか?」

そう質問を投げかけると、白雪姫は首を傾げ

「妖精?私は先程まで悪い人に追われていて、それでこの家に辿り着いたのでよく分かりませんわ」

動揺が隠せない。一体この物語の作者はどんなアレンジを施したんだ…?

(始めから妖精が居ない?それとも入れ違い?まず白雪姫を追っていた【悪い人】とは誰なんだ…?)

…君も困惑している事だろう。常識は、当たり前の物事のように見えて案外脆く壊れやすい物なんだよ。

「ふむ…ここは割と大人数で暮らせる設備があるようですね」

「そうですわね…もしかしたらあなた方の仰るその妖精の方々の家、なのかもしれませんね…」

恐らく、ここは妖精の家でほぼ確定しただろう。だとすると、何故居ないかだ。七人居るんだから…いや、作者が人数を減らしている可能性だって大いに有り得る。それがないとすると、まさか…!

ゴシャッ!

そんな擬音が最も似合う程の音が鳴り響いた。背後には数人の兵士…それも【返り血を浴びた】。そしてその後ろに…あの服装は恐らく王族。そして白雪姫に登場する女性の王族と言えば…!

「やっと見つけましたぜ王妃様」

「長かったですね…追いかけるのも大変でしたよ」

「しかもこの家に近づいた瞬間、訳のわからない妖精達に絡まれて…ですが、これで王妃様の願いが叶うと思えば苦ではありません」

…そういう事か。

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