洗脳されし者の救済・8
忙しなくする戦闘音、全ての攻撃を弾く鈍い音、苛立ちを募らせた祝福者たちの怒号。そんな、これまた地獄のような戦場の中央で、悠々と佇む車椅子に乗ったフォースドの姿。
「おい!あの金髪は居ないのか!?」
「知らねぇよ!」
「ならポポは!?」
「もう行けない地下にいると思う!」
結界に向かって攻撃しながら、文句を垂れ流す祝福者たち。破壊できる兆しが見えないため、相当鬱憤が溜まっている模様。中にはジョウや、ゲルムの姿も見える。
「“メテオハンマー”だピョン!!」
しかし、イレギュラーという存在は、いつの時代も圧倒的な力を持ち、第三者にとてつもないインパクトを与える。
兎人の彼女は、巨大な人参ハンマーを上空から叩きつけ、結界のゲージが、まだ3割ほど残っていたはずだというのに、破壊した。
その一撃で、泥のような戦闘のテンポが、洪水が流れるようなテンポに変化した。この急速なテンポの変わりようについていけるジョウやゲルムは、さすが攻略組と言ったところだろう。
「月壊兎が降ってきて結界を破壊したぞ!」
祝福者の1人が叫ぶ。戦場にいる者は嬉々とした表情で、驚きを隠せていないフォースドに襲いかかるが、祝福者は足を止めることとなる。
「さすがドロリだ。ピンポイントでここにテレポートさせるとは」
「ロ、ロン!?お前ら早まるな!ロンは洗脳されているぞ!」
ヤバそうな匂いがすると言って、ヘルヘルとの戦いから離脱し、ドロリにテレポートさせてもらった始まりの街のギルドマスターが現れたからだ。
「とりあえずイライラしてるから殴らせろ“
現実だと逮捕されそうなセリフでフォースドを殴るロン。その光景に目を疑う祝福者たち。それもそうだろう。ロンはフォースドの手先だと思っていたのだから。
「ロン、洗脳は解けたのか?」
ゲルムが声をかけると、ロンは笑いながら肩を組み、歯を見せ笑いながら「解けたぞ!」と言う。余談だが、この2人は飲み友である。
「ザザザッ·····フォースド·····撤退の指示が·····速やかに·····」
車椅子に装着されてあるマイクから、女性の声が聞こえる。ノイズが走っており、全ては聴き取れないが、撤退命令が出たらしい。
「逃がすわけねぇだろ?“
ジョウが車椅子から落ち、地面に手をついているフォースドを殴る。
「“
殴り飛ばされたフォースドが、何やら不穏なスキルを唱えると、老紳士の姿から、筋肉ムキムキに変身した。
「フォルムチェンジとか聞いてないぞ!?」
「肌の色も黒人じゃん!」
「日焼けした筋肉·····素敵♡」
多くの祝福者が驚く中、最後の女性だけは、違う感想を抱いたようだ。
「ガハハッ!じいさんからイケオジに昇格と言ったところだな!」
ゲルムとロンが腹を抱え笑う。おじさんの笑顔など誰も見たくない。
「“
姿を変えた車椅子おじさんは、何も無い目の前をひたすら殴るが、あまりの速さに一つ一つの動作が遅く見えてしまう。いわゆるストロボ効果だ。
するとどうだろう。どう見ても距離的に当たっていないはずの祝福者たちが、面白いように飛んでいくではないか。
「ガハハッ!出番のようだな!“
状況を理解したゲルムは、左右に斧を振り真空殴を相殺し、その隙にジョウやロン、その他多数の祝福者がフォースドに攻撃する。
「総合格闘技界1位の俺に殴りで勝てると思うなよッ!」
「洗脳された挙句、故郷のイサをボロボロにされたお返しだ!」
「「“神殴”」」
フォースドの左右から、ジョウとロンがまったく同じタイミングで、同スキルを使う。瞬間、まばゆい光が戦場を包み込む。
そして巨大な鎖に巻かれた青い炎が出現する。心臓のように脈打ち、鎖から抜け出そうとしている姿は、はっきり言って気持ち悪い。
「ちょっと!これどうするの!?」
「知らねぇよ!とりあえず逃げろ!」
蜘蛛の子を散らすように、祝福者たちが逃げ惑う。当然、悲鳴やら絶叫やらが聞こえる中、女性の大声がする。
「“
そのスキルの影響か、光が戦場を包み込んだ後、鎖の解かれた青い炎が天に昇っていく。
「だ、誰?」
誰かが足を止め、呟く。だが人間という生き物は面白いもので、声のした方向を見るのだ。今回で言うと、スキルを唱えた声の方向に。
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時は少し溯る。具体的にいえば、コケと別行動することになったモモとソラが、これからどうしようかと話していたところまで。
「ソラちゃん、とりあえず街を見て回ろうっか」
「そうだね」
──────あらかた街を巡り、教会にやってきた2人。途中、何人にも状態異常回復スキルである“セラピー”を使用し、洗脳を解除したのはナイス判断だろう。
「あ、ノーンさんだ!おっひさー!」
「久しぶりですノーンさん!」
祈りを捧げているノーンに声をかけるモモとソラ。言動からして、それなりに仲がいいのが伺える。
「あ!お久しぶりですベアキュアさん!活躍は聞いてますよ」
声をかけられたノーンは、すぐに祈りをやめ振り返る。それで良いのだろうか。
「もう少しで着けそうだったんだけどねー」
「イベントがあるって聞いて戻ってきちゃった」
少し悔しそうにモモが言い、ソラが手を後頭部に当てて言う。
「神聖王朝イクアラティはいいところですので、是非行ってみてくださいね」
「あれれ!?ノーンさん、その杖···まさか!?」
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