Extraストーリー

EX第1話 望月冴子の5年後

※1アンケートで望月視点のその後を望む声があったので、外伝の第二弾です。

※2今回は望月視点です。


 大学時代に起こした住居侵入罪と殺人未遂罪で警察から逮捕された私だったがようやく出所する事ができた。

 27歳になった私だが母親から勘当されて完全に縁を切られてしまったため質素に一人暮らしをする羽目になっている。

 しかも大学も退学になり前科までついてしまったせいでまともな会社に就職する事も当然できる訳が無く、今は夜の商売で生計を立てざるを得ない状況で毎日が苦痛だ。

 そんな今の私にもたった1つだけ大きな楽しみがある。


「冴子、今日も来てくれたんだ」


「勿論よ、快斗かいとのためならなんだってするわ」


 そう私の楽しみとはホストの男の子、快斗に会う事なのだ。

 きっかけは街を歩いていた時に向こうから声をかけられたのが始まりだった。

 快斗は私よりも5つ歳下の22歳で、トーク力もありかなりのイケメンだ。

 その上、初対面で話しかけてきた時には私の愚痴や悩みなどを黙って聞いてくれて、さらには色々と共感し励ましてくれたため気付けば完全に恋に落ちてしまった。

 それから私は休日に時間を見つけてはホストクラブに足繁く通っている。

 だが快斗に会いに行くとシャンパイ代などでお金を使いすぎてしまい、私の生活が苦しくなってしまう事が今頭を悩ませている大きな問題だ。

 そのため最低限の食費ぐらいしか私の手元には残らず、毎月ギリギリの生活を強いられている。

 快斗はクラブの中でも人気ホストらしく、そこまでしなければ彼の心を繋ぎ止める事は難しいのだ。

 だが苦しい生活になってまで頑張った甲斐あってか、私は快斗から気に入られプライベートでも時々だが会ってくれるようになっていた。


「……今月も中々キツイわね」


 私はホストクラブからの帰り道にスマホで通帳アプリとクレジットカードの明細アプリを確認して私はため息を吐く。

 家賃とクレジットカードの引き落としで口座からお金が落ちれば残高はかなり少なくなってしまう。

 そうなれば食費を大幅に削らざるを得なくなり、今のままでは毎日パンの耳などを食べて次の給料日まで節約しなければならない。

 銀行のカードローンや消費者金融からキャッシングしてお金を借りようにも、借入限度額を超えてしまっているため無理だ。

 店の客と店外で会って金を受け取る行為である裏引きも一時は考えたが、バレたらクビになり今住んでいる寮から追い出されるなどのリスクがあるためそれも難しい。

 そんな事を考えていると電信柱に貼られていたとある広告が目に入ってきた。


「無条件即日振込、破産者や他店で断られた人でもOK? これだわ」


 私は早速広告に書かれていた携帯電話の番号に電話をしてお金を借りる事にする。

 そして業者にお金を借りたいと言う事を伝えると色々と説明を受けた後に本人確認証と顔写真をメールで送るように指示され、さらにその数時間後には指定した口座へお金がしっかりと振り込まれていた。


「めちゃくちゃ簡単に貸してくれたわね。まあ、これでまた快斗に会えるわ」


 私は生活費のためにお金を借りた事も完全に頭から抜け落ち、明日もホストクラブに行く事だけを考えていた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 それから1ヶ月が経過した現在、私は借金で首が回らない状態になってしまっている。

 私は業者から30万円近く借りたわけだが、元本と利息を合わせると既に100万円を超える借金となってしまったのだ。

 全く説明が無かったため驚きなのだが、私が借りた業者の利息はどうやらトゴ、つまり10日で5割だったらしい。


「ふざけるな、何が良心的な利息だから安心してくださいよ。これのどこが良心的なのよ」


 法外な利息が請求された事を考えると、どうやら私が借金した相手は普通の業者では無く闇金業者だったようだ。

 激しい怒りを感じる私だったが相手に顔も名前も住所も何もかもがバレてしまっているため踏み倒して逃げるのはほぼ無理だろう。

 なんとか借金を返済しようとも考えてみたが、利息の増加するスピードがあまりにも早すぎるため今の収入では不可能だ。

 さらに最悪な事に私がお金を払えなくなったと分かった途端、快斗からは冷たく突き放されてしまった。

 つまり今の私は快斗から捨てられた上に、彼に貢いだ事により生まれた多額の借金まである状態なのだ。


「……せっかく一生懸命貢いであげたのに私を捨てるなんて絶対に許せない」


 快斗から捨てられた事が、昔仁から裏切られた事と被り激しい憎悪と殺意の感情湧いてきた。


「殺してやる」


 完全に怒りに支配された私は一旦部屋に帰って包丁を鞄の中に入れると、再びホストクラブに向かって走り出す。

 そして深夜になるまでホストクラブの近くで時間を潰した私は快斗が帰宅するタイミングを見計らって背後から包丁で襲いかかった。

 周りでは悲鳴の声があがり、快斗も何やら喚いていたようだが無視して包丁で一心不乱に刺し続ける。

 それから私は周りに取り押さえられ、通報によって駆けつけた警察から逮捕されてしまうわけだが、快斗は生きていたため前回と同様殺人未遂となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る