第62話if  紫帆のブラコンパワーが強かった世界線のクリスマス翌日デート

 ※アンケートで紫帆のブラコン話を望む声があったので、外伝の第一弾です。この話も本編とは別のパラレルワールドという設定です。


 遠江銀行でのウィンターインターンシップが無事に終わった翌日の12月26日である今日、俺は朝早くから叩き起こされて紫帆と地元浜松でデートをさせられていた。

 ちなみに移動は母親から借りた実家の車を使用しているが、大学1年生の夏休みにバイクと一緒に免許を取得してからあまり車には乗っていなかったため運転には細心の注意を払っている。


「次はどこにいく?」


 朝から散々連れ回されて何軒もショッピングに付き合わされた俺は昨日の疲労もあって既に疲れ切っていたが、ハイテンションな紫帆はまだまだ全然元気そうだ。


「……次の目的地は紫帆が好きなところを決めてくれ」


「もう、デートは男の子が積極的にエスコートしないといけないのよ。お兄ちゃんは分かってないな」


 そう怒られてしまったが、実乃里とのデートの時は俺からしっかりとエスコートしているので正直余計なお世話だと言いたくなった。

 だが、俺の彼女である実乃里を敵視している紫帆にうっかりそんな事を言ってしまえば機嫌が悪くなりかねないため口が裂けても言えない。


「そうだ、次は駅前のカフェに行こうよ。今ならクリスマス期間の限定メニューがあるはずだから」


「オッケー、じゃあそこに行こうか」


 俺は駅前方面に向かって安全運転で車を走らせ始める。


「クリスマス期間限定メニューってどんなやつなんだ?」


「詳しくは着いてからのお楽しみになるけど、食べた友達はめちゃくちゃ良かったって言ってたから期待しても大丈夫なはずだよ」


 自身ありげでちょっと嬉しそうな表情でそう話す紫帆の様子を見てそれ以上追求するのを辞めた。

 そして駅前のパーキングに車を停めると紫帆の案内でカフェへと向かい始める。


「ここが目的地のカフェか?」


「うん、じゃあ入ろうか」


 目的地のカフェに到着した俺達は早速中へと入っていき、店員から案内されて席に着く。

 クリスマスのシーズンだからか店内にはカップルらしき男女の姿がかなり目立っていた。


「カップルばっかりじゃん、兄妹で来てる俺達はかなり浮いてそうだな」


「私達も周りから見たら多分カップルにしか見えないと思うから大丈夫だよ」


 それは大丈夫と言えるのかとツッコミを入れたくなる俺だったが、紫帆の機嫌が悪くなりかねないので黙っておく。


「ひょっとしてあの大きいパフェがクリスマスの限定メニューって奴か?」


「おっ、よく気付いたね。大正解だよ、お兄ちゃん」


 周りを見渡しているとカップル達の机の上には巨大なパフェが置いてあり、かなりの存在感を放っていた。

 どうやら2人で1つの巨大なパフェを食べるようなメニューらしい。


「結構大きいな、あれ2人で食べられるか?」


「私は結構お腹が空いてるから大丈夫だよ。それより飲み物はどうする?」


「じゃあ俺はブラックコーヒーで」


 そしてお互いに飲み物を決めたところで紫帆が店員を呼び出して注文を始める。


「ホットコーヒー1つとブラックコーヒー1つ、それからクリスマス期間限定カップル専用特大パフェを1つ」


 カップル専用という言葉を聞いた俺が驚いたような顔をしていると、紫帆はいたずらが成功した子供のような顔をしていた。


「おい、カップル専用ってどういう事だよ!?」


「えへへ、ここ特大パフェはカップルじゃないと食べられない専用メニューなんだよね。あれ、さっき車の中で言ってなかったっけ?」


 そうわざとらしく言ってくる紫帆を見て完全に嵌められたと思う俺だったが、注文をしてしまったためもう遅い。

 カップルの机にしか巨大パフェが置かれていない事にもっと早く気付くべきだったと俺は軽く後悔していた。


「……もう頼んじまったから仕方ない。さっさと食べたら次の場所へ行くぞ」


「ありがとう、お兄ちゃん大好き」


 それからしばらくして巨大パフェが運ばれてきた訳だが、ここで新たな問題が発生する。


「お待たせしました、では写真撮影を始めますね」


「はーい、よろしくお願いします」


 そう、クリスマス期間限定カップル専用特大パフェを注文するともれなく写真撮影をされた上に、店内にしばらくの間写真が飾られるのだ。

 その事に気付いた時にはもう遅く、メニューを注文してしまった以上写真を撮らないという選択肢は取れそうにない。


「はいチーズ!」


 結局巨大パフェの前で数枚写真を撮られてしまい、店内に飾られる事になってしまった。


「……おい紫帆、写真撮影があるならもっと早く教えてくれよ」


「えへへ、ごめんね」


 謝りつつも満面の笑みを浮かべている紫帆の姿を見て、最初から全て彼女の計画通りだった事に気付く。


「誰かに見られたらチャットアプリとかに連絡が来そう……」


 ここは俺の地元であるため高校時代までの同級生や先輩、後輩などに写真を見られかねないのだ。

 実乃里に見られる心配は無いが、実は結構嫉妬深いところがあるのでもし今回のことがバレたら厄介な事になりかねない。

 先に1人でパフェを食べ始めていた紫帆に俺は釘を刺しておく。


「周りには絶対言いふらすなよ。マジで面倒な事になるからな」


「分かってるって、それはしないつもりだから安心してよ」


 正直あまり信用はできない気がするが、紫帆の良心を信じたかった俺はもう一度だけ念押しで釘を刺してから一緒にパフェを食べ始めるのだった。

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