【完結】浮気されて始まる、冴えない俺の人生成り上がり譚

第45話if 実乃里と紫帆が対立した世界線の話

※今回は第45話「実乃里と紫帆」から途中分岐したifストーリーとなっています、見たいという要望の声があったので投稿しました。

　なんとか説明の末浮気疑惑を解消させる事に成功した俺だったが、その代わり妹を紹介して欲しいと言われていた。

　紫帆と実乃里を会わせるのは少し心配だったが、会わせないと何かやましい事があると思われる可能性もあったため、断るという選択肢は取れない。

　結局紫帆とも話した結果、オープンキャンパスが終わった後に平成大学近くにあるファミレスで夕食を兼ねて会う事になった。

　ファミレスへ着いた俺が席に座ってドリンクバーを注文した後適当に時間をつぶしていると、まず最初に実乃里がやって来る。

「やっほー、春樹君。待った？」

「全然待ってないよ、さっき来たばっかりだから」

　にこやかに手を振っている様子を見ると、どうやら実乃里の機嫌はすっかり直っているらしく、俺は胸を撫で下ろした。

　恐らく電話で紫帆の事を聞かれた際に、包み隠さず丁寧に説明したのが良かったのだろう。

　他にも、実乃里と付き合い始めてから不誠実な対応をした事は1度も無かったので、それもすぐに俺を信じてくれた要因と言えるはずだ。

「多分紫帆も、俺の妹も後少しでくるはずだから、もう少し待ってて」

　向かいの席にゆっくりと腰掛ける実乃里に対して俺はそう告げた。

「そっか、妹さんは紫帆って名前なんだ。出会い方はあれだったけど、同じ大学だし春樹君の妹でもあるから仲良くしたいな」

「あいつは昔から人見知りとかを全くしないタイプだから、多分実乃里と打ち解けるのも早いと思う」

　ただし、それは紫帆が実乃里と仲良くする気があればの話だが。

　ブラコンを拗らせている紫帆が果たして実乃里と仲良くできるのかというのが少し心配だ。

　そんな事を考えていると、背中に竹刀袋を背負った紫帆が入り口から現れた。

　店内をキョロキョロと見渡していた紫帆だが、俺の存在に気付くとこちらへ向かって歩いてくる。

「ごめんごめん、サークルの打ち合わせが思ってたよりも長引いちゃってさ」

「大丈夫、俺達も来たばっかりだからな」

　少し申し訳なさそうな表情の紫帆に対して、余計な罪悪感を感じさせないよう俺はそう答えた。

　俺の言葉を聞いた紫帆は安心したような表情になると同時に、向かいに座っていた実乃里の存在に気付く。

「あっ、昼間の人……私のスマホを見つけてくれてありがとうございました」

「お昼にも会ってるから初めましてではないよね、春樹君とお付き合いしている朝比奈実乃里です。文学部に通う3年生だから、一応先輩になるのかな……？」

　実乃里は簡単ではあるが自己紹介を行ない、それを見た紫帆も同じように自己紹介を始める。

「私は綾川紫帆、薬学部の1年生でそこに座ってるお兄ちゃんの妹です」

　そう言い終わると、紫帆は俺のベンチシートにゆっくりと座った。

「助けになったなら良かったよ。紫帆ちゃんって呼んでもいいかな？」

「いきなり馴れ馴れしいのはちょっと気になりますけど、一応助けてくれた恩人にはなるみたいですし私の事は好きに呼んでくれて大丈夫です」

　紫帆は実乃里に対してかなり素っ気ない態度を取っており、むしろ敵視しているようにも見える。

　そんな事を1人で考えていると、紫帆がだんだん俺に密着してきている事に気付く。

「……おい、紫帆近いって。少し離れろ」

「え？　別にそんな事ないと思うけどな」

　抗議する俺に対しておちゃらけた口調でそう話している事を考えると、どうやら離れる気は一切ないらしい。

「な、仲の良い兄妹だね。でもちょっと密着しすぎじゃないかな……？」

　俺達2人の様子を向かいの席から眺めていた実乃里は少し嫉妬のこもった表情で見つめてくる。

　そんな様子に気付いた紫帆は、まるで実乃里に見せつけるかのように俺の体にもたれかかってそのまま抱きついてきた。

「馬鹿、離れろ。周りからめちゃくちゃ見られてるから」

「別にいいじゃん、みんなに見せつけてやろうよ！」

　俺は引き離そうとするが剣道で高校時代インターハイに出場するレベルの実力がある紫帆の力は異様に強く中々引き離せない。

　そんな事をしていると実乃里は無言でベンチシートから立ち上がり俺の横まで来て手を掴むと、紫帆が抱きついている反対側から引っ張り始める。

「私の春樹君なんだから返して」

「いやいや、お兄ちゃんは昔から私のものなんだから、返すとか返さないとか関係ないです」

　実乃里と紫帆から両手を引っ張られ、完全に綱引き状態になってしまった。

「ふ、2人とも落ち着けって。さっきから周りの視線が痛いからもっと穏便に話し合ってくれよ」

　そう声をかけてみるが既に2人ともヒートアップしていて聞く耳を持ってくれそうにない。

　平成大学近くのファミレスという事は2人の知り合いがいる可能性もあるわけだが、果たしてその事を理解しているのだろうか。

　変な噂にならないかだんだん心配になってくる俺だったが、左右からの引っ張る力が徐々に強くなってきた事で、そんな事を考える余裕すら無くなってきた。

「痛い、痛いって。もうギブアップだからマジで許してくれ」

　俺はそう声をあげて静止を図るが、残念なことに2人の引っ張る勢いは全く衰える様子がない。

　結局2人が疲れ果てるまで俺は左右から両手を引っ張られ続ける事となった。