EX第2話 綾川紫帆の5年後
※今回は紫帆視点です。
6年生の薬学部を去年無事に卒業した私は無事に国家資格にも合格して薬剤師になっていた。
今は社会人1年目として地元の調剤薬局で働いていて、処方箋に基づいて薬を調合する調剤を行うことが私の主な仕事となっている。
調剤した薬を患者が正しく飲めるように説明したり、不安点がないか相談に乗ったりする服薬指導やお薬手帳などを活用した薬歴管理もやっていて、万が一ミスがあれば患者の健康にも関わるため、責任は重大だ。
お兄ちゃんから社会人1年目はキツいから覚悟しておけよと言われていたが、聞いていたように学生時代とは責任の重さが全然違うため辛いことや苦しい事もそれなりに多い。
だがお兄ちゃん達が日本を遠く離れたロンドンで頑張っているのだから私も頑張らないとなと思い、日々研鑽を積んでいる。
そんな私の今の悩みはいつまで経っても恋人が出来ない事だ。
モテないという事は全く無く、よく色々な男性から言い寄られているわけだが付き合いたいと思う人は現れない。
そのせいで気付けばこの歳になるまで彼氏の1人も出来たことが無いため、そろそろ危機感を覚え始めている。
周りからもよく驚かれていて、彼氏がいそうなのにいない女として有名になっていた。
「でもお兄ちゃんに似た人なんか中々いないし……」
私の中で男性の理想像は完全にお兄ちゃんになってしまっている。
一時期はお兄ちゃんを本気で恋愛対象として見てしまっていた名残なのか、そこはどう頑張っても変わりそうにない。
「あーあ、私も
お兄ちゃんや実乃里さんと一緒に異国の地へ旅立ってしまった双子の甥姪の姿を思い浮かべた私は朝の準備をしながらそうつぶやいた。
日本にいた時はよく会いに行っていたが、今では中々会えない存在になってしまっている。
「って、もうこんな時間になってる。そろそろ家を出ないと」
私は鞄と車の鍵を持つと家を出て職場へと向かい始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お先に失礼します、お疲れ様でした」
「綾川さん、お疲れ様」
1日の仕事を終えた私は職場を出ると所属している社会人剣道サークルの練習に参加するために車でスポーツセンターの武道場へと向かい始める。
サークルの年齢層は幅広く大学生から70代までの方が男女問わず大勢参加していて、趣味で参加しているような人が多いと言える。
そのため私のようにインターハイに出場経験のあるような人間は少なかった。
ちなみに私に言い寄ってくる男性は、このサークルがきっかけである事が多い。
武道場へ到着した私は更衣室で剣道着に着替えて稽古開始の時間になるまで軽く準備体操をする。
そして全体で素振りなどの基本稽古を行った後、片方が受け手となる掛かり稽古と試合に近い稽古中の模擬試合である地稽古を行う。
それから練習試合を何本か行った後、シャワーで汗を流して服に着替えると家へと帰り始める。
「今日も疲れた。でもやっぱり剣道は楽しいし、続けてよかったな」
社会人になり小学校から続けていた剣道を辞めるかどうかはかなり悩んだ私だったが、結局続ける事にしたのだ。
これは社会人の趣味はストレス発散でかなり重要になってくるというお兄ちゃんの言葉に従って続ける事を決めたわけだが、結果的に良かったと思っている。
家に帰った私は用意されていた夕食を食べると自室へと戻っていく。
「明日は土曜日で休みだけど予定無いし、どうしようかな?」
特に明日の予定が何も無い私は何をしようかをベッドの上でゆっくりと考え始めた。
先週お兄ちゃんからロンドンの写真が送られてきたのを思い出すと、どこかへ旅行に行きたい気分にもなってくる。
送られて来た写真を再び見返していると、家族4人で遊んできたらしい幸せそうな写真を見て微笑ましい気分になりつつも少し羨ましい気分にさせられてしまう。
「……私も海外旅行に行きたいな、長期の休みが取れたらお兄ちゃん達のところへ遊びに行こうかな。春翔君と彩葉ちゃんの顔も久々に見たいし」
明日何をするか考えていたはずが、気付けば海外旅行の計画を立て始めていた事に気付いた私は1人で苦笑いを浮かべた。
「明日は久々に友達と遊ぼうかな」
私はチャットアプリを開くと明日遊べそうな友達にひたすらメッセージを送っていく。
遊べそうな友達を捕まえた私は寝る直前まで電話でやりとりして明日の事を話し始める。
こうして25歳になった私のとある1日は終わりを迎えた。
【連絡】
新作の短編「悪評を広められ孤立した俺に唯一優しくしてくれる後輩の話」を公開しました、良ければそちらもお願いします〜
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