第34話 選考に参加するための最終手段

 秋本への数日にも渡る尾行からようやく解放された俺は、インターンシップの選考準備をしていた。

 企業によっては選考が無く全員参加できるインターンもあるらしいが、俺が志望している企業は就活生からの人気が非常に高いため、本格的な選考を実施しているらしい。

 俺は空きコマに大学の休憩スペースでノートパソコンを立ち上げ、大学の就職ガイダンスでオススメされて登録した大手就活サイトのジョブナビにアクセスする。

 志望している企業に片っ端からエントリーして少しの間待っていると、サイトのマイページに企業から夏インターンの案内メールが自動返信で送られてきた。


「よし、じゃあ早速応募していくか」


 届いたメールを開き、専用のフォームへ必要な情報を入力し、インターンに参加したい日程を選んでいく。

 そしてフォームの入力を終えてからしばらく待つと、書類選考に使用するエントリーシートの提出依頼メールが届いた。

 ひとまずこれでインターンの選考というスタートラインには立てたらしい。

 この一連の流れを複数回繰り返していると、とある企業で問題が起こる。


「あれ? インターンの募集が始まったばっかりなのに、もう締め切られてるんだけど……」


 なんと、数日前から募集の始まった企業のインターンの全日程が理由は分からないが既に締め切られており、応募すら出来なかったのだ。


「……一旦後回しにして、他の企業の応募をするしかないよな」


 色々と不可解な点もあったが、これ以上考えても時間の無駄にしかならないと感じたため、気を取り直して他の企業の応募を行なっていく。

 それから10回ほどインターン応募用の専用フォームに書き込みを行う俺だったのだが、そのいくつかはさっきの企業と同じように既に締め切られていた。


「やっぱりどう考えてもおかしい。まだ募集が始まったばかりなのに、こんなに早く締め切られるものなのか……?」


 いくら人気企業とは言え、こんなに早く締め切られるのはどう考えても不自然としか思えない。


「まさかこれ学歴フィルターじゃないよな?」


 俺は頭の中に学歴フィルターという単語が思い浮かび、思わずそうつぶやいてしまった。

 学歴フィルターとは、企業が採用する学生を学歴によって選別するやり方で、学生から人気のある有名企業には存在していると世間では噂されている。

 もっとも自分の実力不足が原因で筆記試験や書類選考で落ちた学生が、自分の学歴を言い訳にしているケースも多々あるため、俺は噂されるほど多くないとは思っているが。

 採用が既に締め切られている企業の中には、西洋大学から過去に採用実績のある企業も含まれていたため学歴フィルターは無いと思いたいのが正直な気持ちだ。

 だが今回のように選考前の段階でシャットアウトされてしまうのは、流石に学歴フィルターが存在していると思わざるを得ない。


「……ちょっと実験してみるか、確か実乃里もジョブナビに登録してたはずだし手伝って貰おう。もう起きてるかな?」


 ポケットからスマホを取り出し、実乃里に電話をかける。

 今日の授業は昼からのはずなので、もしかしたらまだ寝ていて電話に出ないかもしれないと思っていたが、予想に反してすぐに出てくれた。


「もしもし、春樹君どうしたの?」


「突然ごめん、ちょっと実乃里に手伝って欲しい事があってさ……」


 俺は実乃里に今の状況を説明し、ジョブナビで募集が締め切られていた企業のインターンへ応募してもらう。

 実乃里がパソコンを操作している間ドキドキしながら待っていた俺だったが、すぐに俺の希望は打ち砕かれる事となる。


「……私の画面だとまだ募集中になってるね」


「マジか、これは学歴フィルターで確定じゃん……」


 中堅大学の西洋大学だと既に締め切られているにも関わらず、難関大学の平成大学がまだ募集中というのは、間違いなくそういう事だろう。

 現実を突きつけられショックを受けている俺に実乃里が慰めの言葉をかけてくるが、全く耳に入ってこなかった。

 いつの間にか実乃里との電話を終え、しばらくの間パソコンの前で呆然としている俺だったが、どうしてもインターンへの参加を諦めきれない。


「いや、まだだ。こうなったら企業の人事部に直接電話をかけて交渉してやる」


 俺は最後の手段として、企業の採用ページに載っていた人事部の電話番号に電話をかける事にした。

 それから勢いに身を任せてインターンを締め切っていた企業全てに電話をかけまくった俺だったが、それは結果的に大成功だったと言える。

 インターンに参加したい理由を電話で人事部の担当者に熱く語ったところ、そのガッツを評価され全ての企業で書類選考に参加できる事になったのだ。

 かなり強引な手段を取る羽目にはなったが、学歴フィルターを突破する事ができたと言っても過言ではない。

 と言っても書類選考に進めただけで、ようやくスタートラインに立つ事ができただけだが。

 うちの大学から総合商社や外資系に入った先輩がいると知って、学歴フィルターは無いと思い込んでいたが、それは大きな誤りだった。

 選考に進めていたのは学歴フィルターが無かったからでは無く、俺と同じような方法で強引に突破したからに違いない。


「ようやくスタートラインに立てたんだ、絶対に選考を突破してインターンに参加してやる」


 俺はさっきまでの陰鬱な気分がすっかり晴れ、すっかりとやる気に満ち溢れていた。

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