第2話 人生最悪の日
次の日俺がサークルの部室に顔を出すと、周りからは人間の屑を見るような視線を向けられ、ひそひそと何かを影で話されていた。
なぜそんな視線を俺が受けなければならないのかと理不尽さを感じていると、部室の奥から冴子と秋本、サークル代表である黒縁眼鏡をかけた
秋本の姿を見て怒鳴りつけたくなるほどの怒りが込み上げていると、宮永先輩が口を開く。
「綾川君、君が望月さんに何ヶ月も前からストーカー行為を働いているのは本当か?」
「……えっ?」
開口一番に告げられた言葉の内容が全く理解できなかった俺はそう声を漏らした。
「昨晩望月さんから相談されたんだよ、付き合ってもいないのに君からずっと付き纏われていてかなり恐怖を感じていると。挙句の果てに善意で彼女の相談に乗っていた秋本君にも突っかかったらしいじゃないか?」
「なっ!?」
言っている事があまりにもめちゃくちゃ過ぎて俺は愕然とさせられる。
俺はいつの間にか冴子に付き纏うストーカーにでっち上げられてしまったようだ。
「ちょっと待ってください。そもそも俺は冴子と、望月さんと現在進行形で付き合ってますけど」
このままではストーカー男というレッテルを貼られかねないため、全力で弁明をした。
だがそんな弁明の最中に秋本は、にやついた表情で口を挟んでくる。
「何言ってるんだよ、冴子の彼氏は前から俺だぜ? 妄想のしすぎで記憶を改変してんじゃねえのか」
「ふざけるな、俺は2ヶ月前冴子に告白して付き合ってるんだよ。適当な事を言うんじゃねえよ」
普段は温厚な俺が初めて人前でキレ散らかす事となり周りはかなり引いているが、今更気にする余裕など一切無い。
「お互いに言い分が食い違っていてこのままでは埒があかないし、どっちが本当の事を言っているかこの場ではっきりさせよう。望月さん、どっちの言っている事が正しいかな?」
宮永先輩の言葉に、この場にいる全員の視線が冴子に集まる。
「……仁の言っている事が全部正しいです、綾川君の言っている事は全部出鱈目です」
冴子は全員の前で堂々とそう言い放った、言い放ちやがったのだ。
頭に血が上った俺は冴子に詰め寄り凄い剣幕で怒鳴りつける。
「おい、お前こそ出鱈目な事を言ってんじゃねえよ。凄いな、息を吐くように嘘をつけるのは才能だな、将来は女優になれそうだな」
すると周りにいた正義感溢れた奴らから取り押さえられて引き離されてしまう。
「いい加減にしろ往生際が悪いぞ、嘘つきは綾川君の方だと今はっきりしたじゃないか。君はうちのサークルの風紀を乱す害虫だ、反省の色も全く見えないようだし残念ながら除名処分を受けてもらう」
あまりにも理不尽すぎるその対応に対して俺は声をあげる。
「ちょっと待ってくださいよ、何も証拠が無いのに2人を全面的に信じるのはおかしくありませんか?」
「望月さんと秋本君が嘘をつく理由なんて無いし、証拠なんて無くても君が嘘をついているのは目に見えている」
宮永先輩は一切聞く耳を持っていないようで、そう答えたのだ。
周りからは罪を認めろだの、性犯罪者など野次が次々と上がり始め、部室内に俺の味方が誰一人いない事を強く実感させられる。
「そうだ、チャットアプリのトーク履歴が証拠に……」
トーク履歴には俺と冴子が付き合っていたという動かぬ証拠が存在しているのだ。
俺がそう呟きポケットからスマホを取り出していると、その呟きを聞いていた秋本から突然タックルを食らわせられ、スマホを床に落としてしまう。
そのまま秋本は全体重をかけ俺のスマホを何度も踏みつけ、最後には全力で蹴り飛ばした。
吹き飛ばされて壁に激突した俺のスマホは完全に故障したようで電源が入らない。
「今のは明らかにおかしいだろ、どう見ても証拠隠滅をしたようにしか見えないんだけど」
スマホを破壊された俺は怒りの表情を滲ませ、そう秋本に抗議する。
しかし、秋本は相変わらずにやついた表情で何の悪びれもなく口を開く。
「いやいや、お前が刃物を取り出しように見えたから仕方なくやった事だし、今のは正当防衛だろ。みんなもそう思うよな?」
「仁は何も悪く無いよ、悪いのはあいつなんだから」
「そうだそうだ、綾川が全部悪い!」
そう周りへ問いかけると、全員が秋本の言い分を信じたらしく、擁護する声まであがり始める始末だ。
「もう綾川君は部外者だ、今すぐここから出て行って貰おうか。それと君はブラックリストに載ることになるから、もう2度と西洋大学の部活やサークルなどの公認団体には所属できないのを覚えておいて欲しい」
宮永先輩にそう告げらた俺はサークルのメンバーから罵詈雑言を浴びせられながら部室を追い出されてしまった。
こうして俺は冤罪をでっち上げられ、サークルから追放されてしまう事となったのだ。
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