本編

プロローグ

第1話 全ての始まり

 俺の名前は綾川春樹あやがわはるき、地元の静岡から上京して都内にある中堅私立大学中の1つ西洋せいよう大学に通う大学2年生だ。

 顔も身長も成績も何もかもが平均的で、どこにでもいるありふれた大学生というのが俺の自己評価ではあるが、周りの大学生よりも勝っていると思える部分が一つある。

 それは俺に彼女がいるという事だ。

 お前は何を言っているんだと思われるかもしれないが、黙って聞いて欲しい。

 大学生の中で恋人がいる割合は大体30%前後くらいだと言われている。

 つまり俺は選ばれしその上位3割に入っていると言えるのだ。

 同じ混声合唱サークルの同級生である望月冴子もちづきさえこに俺から告白し付き合い始めたのが先々月の事で、俺は晴れて年齢=彼女いない歴から彼女持ちへとランクアップし、ついにリア充の仲間入りを果たす事に成功した。

 告白する直前はかなり弱気となっており、実際の告白もかなりぎこちない感じとなってしまったが、結果的に俺の告白は成功に終わったので、終わり良ければ全て良しだ。

 冴子はめちゃくちゃ美人であり、俺なんかが付き合えた事は奇跡と言っても過言では無いだろう。

 まだ数回デートらしき事をしただけで手を繋ぐ以上の関係にはなってないが夏休みが近い事を考えると、仲はこれから深まるはずだ。

 大学生の夏休みは本当に長く自由な時間が多く、海や夏祭りなどの季節限定イベントも数多くあるため、俺が大人の階段を登るのは時間の問題に違いない。

 まずは目の前の期末テストに集中しよう、そう思い俺が区立の図書館で勉強していると、窓の外で冴子の歩く姿が見えた。


「あれ、今日は用事があるって言ってなかったっけ?」


 そう、今日のテスト勉強には冴子も誘っていたのだが用事があると断られていたのだ。

 確かカラオケ店でアルバイトをしていると聞いていたので今からシフトなのかなと考えるが、それにしてはお洒落な格好をしているので強い違和感を覚える。

 嫌な予感を覚えた俺がこっそりと後ろから尾行をしていくと、途中で背の高い金髪の男と合流した。


「……あれは確か秋本仁あきもとじん先輩だよな?」


 確か同じサークルに所属する1つ上のチャラそうな先輩だった事を俺は思い出す。


「秋本先輩にいったい何の用事があるんだ……?」


 俺との約束を断るほどの用事とは一体なんなのか、そんな事を考えると2人は恋人繋ぎをして歩き始めた。


「なっ……!?」


 その光景を見た俺の表情は恐らく青色になっていたのではないか、そう思えるくらいの強い衝撃を覚える。

 俺の様子なんてつゆ知らずの2人はそのまま仲良く歩き始めた。

 我に返った俺は少し離れた位置から尾行を開始する。

 俺のところまで会話は聞こえてこないが、どうやら楽しそうに話しているらしい。


「そうだ、メッセージを送ってみよう。何か反応が返ってくるはずだ」


 ポケットからスマートフォンを取り出しチャットアプリを開くと、冴子へ適当なメッセージを書いて送る。

 すると少し前を歩く冴子は立ち止まり、鞄の中からスマホを取り出す。

 だが、画面をほんの少しの間見ていただけですぐに鞄の中へ戻した。

 どうやら既読をつける気がないようで、そのまま歩き始めたのだ。

 冴子にメッセージを無視された事を内心苛立ちつつも、その現場を見ているとは口が裂けても言えないため、その後は何もせず尾行を続けた。


 


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 


 それからの記憶はあまりにも辛すぎてよく覚えていない。

 一つ確実に言える事は、俺の彼女が浮気をしているという事だ。

 手を繋いでいた事や、まるでデートのように遊び歩いていた事に関しては、まだ浮気とは断定できないかもしれない。

 だが、街中で抱き合ったりキスをしたり、挙げ句の果てにラブホテルに入る事はどう考えても浮気と言わざるを得ないだろう。

 2人がラブホテルに入った時点で今回の件はどう考えても浮気であると断定した俺は、頭の中が真っ白になりながらもなんとか家に帰ってきていた。

 俺が一人で呆然とベッドの上に寝転んでいると、突然スマホが振動する。

 何に対してもやる気が起きない状態だったが、なんとか立ち上がり机の上に置いてあったスマホを取ると、なんと冴子からメッセージが来ていたのだ。


「ごめん、さっきまでバイトだった……?」


 メッセージを口に出して読み上げた俺は激しい怒りが込み上げてきた。


「ふざけるな、何がバイトだよ。嘘をつくんじゃねえよ、クソビッチが」


 俺は怒りのまま冴子にメッセージを書き込む。

 お前が秋本先輩と駅前のラブホテルに入る姿を見た、今すぐ納得できる理由を説明しろ――そう詰問する内容のメッセージを送信すると、すぐに見間違いだと返信がくる。

 当然そんな回答では全く納得できない俺が電話をかけるも一向に出る気配がないためメッセージを送り問い詰め続けると、告白されたからとりあえず付き合ってみただけでお前に魅力が無いのが全部悪い――最後にそう一言返ってきたと同時にブロックされてしまい、電話も着信拒否されてしまった。


「くそ、明日学校で問い詰めてやる」


 明日はサークルの活動日であるため顔を合わす機会が必ずあるはずなのだ。

 俺は怒りを抑えきれないまま夕食を食べ入浴をし、眠りについた。

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