小話八、二回目の
あれからもう一年が過ぎた。そう思いながら迎えたクリスマス。去年は茉実が「おにいちゃんにあいたい」と言っていたが、今年は私から誘うと決めていた。が、その決意も空振りに終わった。
「クリスマス、予定ある?」
そうゆう君から聞かれたのは十二月の頭。茉実を保育園に預け、二人きりになった登校中だった。受験も目前となった今の時期、浮かれてなどいられない。だが、それでも付き合い始めて一年目に恋人らしいイベントを放置はしたくない。ゆう君も同じ気持ちだったのかもしれない。しかし、私から言いだしたかった気持ちもあり、素直に喜べない。
そんなことを考えてしまったから反応が遅れた。
「ごめん。やっぱり忙しいよね」
残念そうな顔で話を畳み始めるゆう君。これは中途半端な反応をしてしまった私が悪い。
「空いてる!空いてるよ!大丈夫!」
「いや、無理して欲しい訳じゃ…」
「無理じゃなくて、その…」
自分から誘いたかったとは口にできない。
「と、とにかく大丈夫だから!」
「そ、そう…?」
私の勢いに押されつつ釈然としないゆう君だったが、とりあえず了承したことは伝わった。
そこから予定を詰めたが、時期が時期のため、二十五日にそれぞれのプレゼントを交換するだけにすることになった。
◇
そして迎えた二十五日。私の自宅近くの公園で待ち合わせ、それぞれのプレゼントを交換。私からは茉実と一緒に作ったホールケーキ。最近になって「ケーキ作りたい」を連呼するようになった茉実を放っていくわけにもいかず、クリームを塗ったり苺を乗せたりという作業をお願いした。ある意味何とも芸術的な見た目に仕上がったケーキをそのまま箱に入れて持ってきた。茉実のやり切った顔と彼女の力作のケーキはラッピングする前にスマートフォンで写真に収めた。箱に入れる前、ゆう君に綺麗なものを渡したい彼女としての感情と茉実の力作をそのままにしたい姉心がぶつかった。結果的にそのまま入れることになった。ゆう君は茉実の手が入っているのを嫌がる人ではないと思う。
片やゆう君からは薄い包みを二つもらった。赤い包みと緑の包み。緑色の包みを指し示しながら「こっちは茉実ちゃんに」という言葉も添えて。何も言わずとも妹にもプレゼントを用意してくれるゆう君は私が茉実のことを大事にしていることもひっくるめて大事にしてくれているようでくすぐったかった。
家に帰り、茉実に緑色の包みを渡す。茉実は「お兄ちゃんから!?やったー」と言いながら早速包みを破く。私も赤い包みを慎重に開ける。それぞれの包みから出てきたのは音符のデザインされた栞。茉実のが八分音符で私のが四分音符。ただ、私の包みからはメッセージカードも入っていた。
メリークリスマス。一年前にもらったストラップは現役で大事なものを守ってくれています。なんて、少し恥ずかしいな。今年は栞にしてみました。姉妹仲良く、各々のリズムで歩んでいけるといいなと願いを込めて。
悠一
去年渡したストラップは何かの形で使ってくれているらしい。「大事なもの」が何なのかは後日に聞いてみることにする。
茉実が宝物箱を開け、早速栞を中に入れている。宝物箱からイルカの根付が覗く。もうあれから一年以上経ったのだ。「クロウ」に助けられたのが懐かしい。その「クロウ」と共にあるために、ゆう君と歩むために、今は踏ん張る時期だ。
ぬいぐるみや毛布をいつの間にかソファのところに持ってきた茉実はそれらをすぐ近くに置き、暖を取りながら宝物の数々を眺め始めた。私は勉強道具を居間に持ってくるために一旦廊下に出た。
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