319)恐怖の林間学校-11(アリたん再登場)

 「……と言う訳で死ぬ筈だった私は、仁那ちゃんの魂に同居してたんだけど……その仁那ちゃんも寿命で助からない筈だったの。

 それを小春ちゃんが我が身を省みず助けてくれて……。それから私達は小春ちゃんの魂と同化してね。小春ちゃんの体を共有する様になった。ルームシェアじゃ無くボディシェアって感じで。

 本当はもう一人居て、全部で4人が小春ちゃんの体を共有してるんだけど、その人は寝てばかりでね。そう言う意味で普段は私と、仁那ちゃん……最後に小春ちゃん本人の3人で小春ちゃんの体をシェアしてるって訳。

 そんな理由で不思議な能力を持つ様になったし、玲君と小春ちゃんは婚約する事になったのよ。ちなみに由佳ちゃんには私達の事情、色々あって知っててね。晴菜ちゃんだけが知らなかったって訳よ」


 「…………」



 早苗(体は小春)は黒鎖で縛り上げた男を踏み付けながら晴菜に、自分の秘密をざっと説明した。踏まれている男は壁にぶつけられた衝撃で完全に気絶しているようだ。


 話を唐突に聞かされた晴菜は絶句して固まっていた。


 

 ちなみに、傍に居た由佳は路地裏で早苗に助けて貰った際に、彼女達の事情は知っていた為……その事で驚きは無かったが、早苗の制裁を受けている血だらけのテロリストを見て、恐怖で言葉を失っていた。



 沈黙の後、意を決して晴菜が早苗(体は小春)に恐る恐る話し掛ける。 



 「……お、大御門君の……お、お母さん……なんですか……?」



 対して早苗は余程、ムカついたのか気絶した男を踏み足でグリグリとにじりながら晴菜に答える。



 「ええ、そうよ! 改めて宜しくね、晴菜ちゃん! 後で私の娘で、玲君のお姉ちゃんに当たる仁那ちゃんを紹介するわね。所で……貴女にも由佳ちゃんみたいにエロメちゃんで保険掛けたいけど……コイツ等の仲間が居るから、先にそっちを何とかしないとね。アリたん! 来て貰えないかしら?」


 “はいはーい! 小春組専用下僕のアリたんだよ! 早苗っち、呼んだかな?”




 早苗は呆気に取られている晴菜と由佳に構わず、強力な援軍であるアリたんを呼びだす。


 早苗に呼ばれたアリたんは、小春達が居る部屋の真中に光を纏って現れた。



 その姿はミカンをくりぬいて頭に被った非常に可愛らしい少女であるが、ホログラムを投影している様に背後が透けて見える。


 そこに現れているのは実体の無い映像の筈だが、どういう訳かアリたんは晴菜達にも聞こえる様な音声を発した。



 突然現れたアリたんに晴菜は驚いた声を漏らす。



 「な、何!? この子……透けてるんだけど……どういう事?」

 「良く分らないけど……小春ちゃん達の……部下? みたいなの……」 



 晴菜の驚いた声に、一度アリたんと路地裏で会っている由香が答える中……アリたんは呑気に答えた。


 “はろー! 始めまして晴菜ちゃん! アタシはアリたんだよ! 由佳ちゃんは久しぶりー! 所で由佳ちゃん、アタシは部下じゃないよ! 小春組専用下僕なんだ!”


 「…………」


 「アリたん、急なんだけど……私達の現在の状況を把握しているのかしら?」



 アリたんの明るい態度に固まっている晴菜だったが、早苗(体は小春)が割って入った。早苗の問いにアリたんが答える。



 “うん、アタシは小春組専属の下僕だから、小春達の行動は24時間365日年中無休で見守っているよ! ……現在は林間学校の初日……場所は小春の住居から約180km離れた高原のホテル……一日を終えて、就寝前にテロリストの襲撃を受けたけど……その内の一人は早苗が撃退したって所だね!“


 「……状況良く分ってる割に放置気味じゃ無いかしら? 24時間365日年中無休の専用下僕なんでしょ?」



 朗らかに答えたアリたんに、早苗(体は小春)はジト目で文句を言う。対してアリたんはニコニコしながら返答した。



 “貴女達の状況は一分一秒も見逃さないよ! 今日の落石も小春に接触するまでの約3秒間で……2845通りの方法で対処出来たんだけど……マニオス様に任せた方が貴女達にとって良い結果に為ると“私達”16人は全員一致で判断してあの御方にお任せしたの。

ローラ達にも敢えて見守る様指示したんだ。でも、ちゃんと落石の落下速度は弱めたんだよ?

……そんな感じで“私達”はいつだって貴女達を見守っている。核ミサイルが落ちようが、世界を終わらせる隕石が降って来ようが……この“私達”がアガルティアの全機能を使って貴女達を守って見せる。だから、早苗は何一つ心配いらないわ“



 アリたんは早苗(体は小春)の問いに即答した。話している内にアリたんはその本性であるアリエッタの口調に戻ってしまった。



 アリたんことアリエッタは小春の前世であるエニの犠牲によって救われた少女の一人だ。エニによって救われたアリエッタ達16人の少年少女は、エニの遺志を継ぎ仲間を守る為、次元の狭間に浮かぶアガルティア国の中央制御装置と自分の肉体を繋ぎ、中央制御装置のオペレータ兼コンソールとして活動していた。



 アリエッタが演ずるアリたんは小春達を直接サポートする為に作り上げたアバターだった。アリたんこと、アリエッタの強い覚悟を感じた早苗は小さな溜息と共に呟いた。



 「……ふぅ……やっぱり貴女も脳筋ね。とにかく貴女の気持ちは伝わったわ、アリたん。そんな貴女を見越してお願いが有るの。このホテルを襲ったテロリストの情報を教えて貰えないかしら?」


 “はいはーい……それじゃ、所属から――”




 早苗に問われたアリたんは普段の口調に戻りこのホテルを襲ったテロリストに関して情報を伝えた。


 ホテルを襲撃したのは新興のテロ組織“紅き革命軍”である事、その手引きをしたのはクラスメイトの伊原恵美である事、しかし実際に紅き革命軍を雇っているのは政府側諜報員の桜葉葵である事等々……アリたんはアガルティアの超技術で把握している全ての情報を余す事無く早苗に伝えた。



 “……と言う訳で雇われの紅き革命軍は新参者だからー、結果を出そうと躍起になってるみたいー。馬鹿だよね、渡された資金だって巧妙な偽札なのにさー。とにかく張り切っちゃって……総員22名でお出迎えさ“


 「……玲君はどうしてるのかしら? それと他の人は?」


 アリたんの提示された情報を受けた早苗は玲人の様子と、他の皆について問うた。対してアリたんは間延びした声で答える。



 “はーい、答えるよー。玲たんはね……”



 アリたんの話では、玲人は早苗と同じで部屋に侵入してきたテロリストを一瞬で無力化した後、同室のカナメと神崎を部屋で待機するよう指示した。そして早苗同様アリたんに依頼して情報提供を受けた。


 その中で真っ先に小春達の安全を確認した玲人は、安心して単身テロリストを無力化しようと活動を開始したとの事だ。現在は自衛軍の安中に連絡を取っているらしい。


 それ以外の人間は人質としてホテルが所有する講堂に集められているという状況だ。人質達の様子は憔悴し怯え震えているとの事だ。



 “……て言う訳で……みんな無事だよー。ちなみにローラ達はすぐ近くで待機しているわ。だけどこのままじゃ、身を守る手段の無い一般ピープル達がちょっと拙いかもね“


 「カ、カナメは!? アイツは大丈夫なの!?」



 アリたんと早苗の会話を聞いていた晴菜が我慢出来なくなり、アリたんに問い詰めるのだった。

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