318)恐怖の林間学校-10(撃退)

 林間学校宿舎ホテルの部屋で寛いでいた小春達の元に突然現れた、銃を手にした男。



 そんな最悪の訪問者を目の当りにして部屋に居た由佳が恐怖の為、叫び声を上げた。



 「キャアアアア!!」

 「な、何だ!? あ、あんたは!?」



 由佳の叫びの後、晴菜が気丈にも大声を出して問い詰めた。


 対して赤黒い軍服を着た男は銃を構え、ドスを効かせた声で迫る。



 「黙れ! 殺されたいのか!」

 「イヤアアア!」

 「く、くそ! 卑怯だぞ!」



 そうして男は由佳に対して銃を突き付けた。晴菜が抵抗すれば由佳を殺すと言う心算で……。


 対して由佳は取り乱して泣き叫び、晴菜は悔しそうな声を上げる。



 そんな中、小春は突然の事に怯えながら自らに秘められた力で現れた暴漢を倒そうと身構えていた。



 (……こ、怖い……だけど……わたしがやらなくちゃ……!)


 “小春ちゃん、ちょっと待ってくれる? この場は……私と……仁那ちゃんに任せてくれないかしら?“



 そんな小春の脳内に突然早苗の声がした。突然の申し出に小春は早苗に問い返す。



 (え、でも……お任せしちゃって良いんですか? それに仁那だって……)


 “いいの、私としてはちょっと調べたい事があってね……”


 (調べたい事ですか……? そういう事なら……。でも仁那は構わないんですか?)


 “寧ろ、仁那ちゃんが”替わって!“って、さっきから叫んでるわ。お友達になった晴菜ちゃんや由佳ちゃんを助けたいんでしょうね……。とにかく今回の件は私達に任せなさい“


 (……分りました……。晴菜ちゃんと由佳ちゃん達を宜しくお願いします。それと……くれぐれも気を付けて……)



 小春は早苗の提案に従い、交代する事とした。彼女は目を瞑り早苗と意識を入れ替える。


 そしてゆっくりと目を見開いた早苗(体は小春)は乱入してきた男に言い放った。



 「……こんな夜更けに女の子が居る部屋に押し入るなんて……どれだけデリカシーが無いのかしら? とにかく……覚悟はいい?」



 小春から替わった早苗は、小柄な小春の体の姿で堂々と言い放つ。その様子に銃で脅されている晴菜や由佳は驚いて呟く。



 「……こ、小春……アンタ……」

 「小春ちゃん……」



 そんな二人に対し、早苗(体は小春)はニヤリと笑って声を掛けた。



 「何も心配いらないわ……。こんな奴ら、私達と、玲君が半殺しにしてあげるから。まぁ……やり過ぎてそのまま殺しちゃうかもね」



 平然と恐ろしい事を云う小春(早苗)の様子に横に居る晴菜と由佳は戸惑い絶句する。



 「「…………」」



 対して“殺しちゃうかも”と言われた軍服の男は激高し、早苗(体は小春)に凄む。



 「お前!! 自分が今、どんな立場なのか分ってんのか!? これが何だか分んねェのかよ!」


 「……自分の立場? 良く分ってるわよ。私は貴方を殺す側で、貴方は一方的に殺される側。そして貴方が今手にしている銃は、私にとっては何の意味の無い棒切れだけど?」



 男に凄まれた早苗(体は小春)は平然と言い放つ。再度馬鹿にされた男は我慢ならない様子でライフルを構え叫んだ。



 「馬鹿が! 殺してやる!」



 そう叫んで早苗(体は小春)に向けてライフルの引き金を引こうとしたが……。



 “グシャン!!”



 そんな音と共に男が手にしたライフルは、半分くらいの長さの所で、まるでプレス機に掛けられた様にペシャンコに拉げた。



 「え? は? じゅ、銃が」



 突然の事に戸惑う軍服姿の男は、拉げたライフルを凝視して呆けた声を漏らした。そんな男に早苗は嘲りを含んだ声で話す。



 「あらあら……どうしたの? ご自慢のオモチャが無くなって泣きそうなのかしら?」

 「!! こ、こいつ!」



 早苗の嘲りを受けた男は激高し、彼女に飛び掛かった。


 対する早苗(体は小春)は侮蔑した目で慌てもせず、男に向け右手を差し出し、人差し指を“クン!”と軽くノックする様に動かした。



 すると、男は空中に浮かび上がった。男は自分が浮いた事に驚き叫んだ。



 「うおお!? な、何なんだ!?」



 大きな声を出した男に対し早苗(体は小春)は低い声で呟く。



 「ふん……、小者がさっきから五月蠅いわね……、戒めの黒鎖よ! 敵を縛り攻めあげなさい!」



 早苗がそう叫んだ瞬間、浮かび上がっている男の足元が光り、漆黒の鎖が現れ刹那に男を縛り上げた。



 早苗が呼び出した黒鎖は鋭い刃を持った菱形の輪が連なり、空中で縛り上げられた男の皮膚は切り裂かれた。


 男は血だらけになり悲鳴を上げる。



 「ウギャアア! 痛ぇ、痛ぇよ!!」



 苦悶の声を上げた男に対し、早苗(体は小春)は心底見下した様に吐き捨てる。



 「……ホント、つまらない男ね。弱い癖に小さい女の子を恫喝するなんて……。殺してやりたいけど……これでも私は母親だからね……。殺されずに済んだ事を感謝して、のた打ち回りなさい……!」


 “ギャリギャリ!!”


 「ぐ、ぐうぅ!」



 早苗(体は小春)は空中で黒鎖に縛られている男に凄むと、その意志に反応するかのように黒鎖は、獲物を仕留める蛇の様に男の体を締め付ける。


 締め付けられる男は痛みで声を漏らした。



 早苗(体は小春)はそんな男の様子を侮蔑した眼で見た後、差し出した手の指を“スッ”と横に動かす。



 その瞬間、浮かんで黒鎖に締め上げられていた男は物凄い速さで横に飛ばされ、部屋の壁に激突しそのまま床に落下した。



 “ダアアン!”


 「アギャア!」



 大きな音を立てて壁に激突させられ、床に落ちた男は短い悲鳴を上げた後、気絶して動かなくなった。


 気絶して動かなくなった男を見下しながら早苗(体は小春)は、驚愕して固まっている晴菜と由佳に優しい声を掛ける。



 「もう大丈夫よ。汚い虫けらは軽く潰しといたから……ってどうしたの、二人とも?」

 「「…………」」



 早苗(体は小春)に声を掛けられた晴菜と由佳だったが、二人は絶句して固まっていた。



 晴菜は余りの出来事に何もかもが信じられ無いと言った様子だったが、由佳は路地裏での事件を経験していた為に、目の前の小春が早苗で有る事を理解していたが、その発揮した能力に驚いている様だった。



 固まっていた二人だったが、やがて晴菜が意を決して早苗(体は小春)に震える声で問い掛ける。



 「……あ、あんた……小春じゃ……無いよね? い、一体……あんた、誰だ?」


 「晴菜ちゃん、何を言ってるの? この私は何処からどう見ても小春でしょう?」



 晴菜が小春を見て驚愕した様子で震えながら問うが、目の前の小春は悪戯っぽく笑いながら平然と答える。



 対して晴菜は目の前の小春? に対して感じた事を確認するかのように呟く。



 「……何か……おかしいと思っていたんだ……。切っ掛けは夏祭りにチンピラに絡まれた時……。あの時も不思議な事が起こって……絡んで来たチンピラを蹴散らしたんだ……。

 そして……今回の林間学校……。おかしな事が起きるだけじゃない……。一番……大事な事は……小春は……時々別人になる……。

 今、目の前に居る小春は……小春だけど小春本人じゃない。……そう言う事……だよね?」



 晴菜は、自分が得た確信を元に恐る恐る眼前の小春? に問う。


 対して小春(意識は早苗)は小さく笑って本当の事を話し始めた。



 「……フフフ……、流石に気付かれちゃったか……。私には小細工を弄する事は、やっぱり向いてないわね……。もう潮時でしょう……。本当の事を話すわ、晴菜ちゃん……。

 今、目の前に居る私は石川小春じゃない。いいえ、正確に言うと……この体は間違いなく小春ちゃんだけど、今この体を動かして貴女と話している私は小春ちゃんじゃない。

 私は玲君の母親で八角早苗……14年前に死んじゃったけど……色々有って娘の仁那ちゃんと一緒に小春ちゃんの魂に同居してるの。どうかこれからも宜しくね?」


 「…………」



 早苗(体は小春)は満面の笑みを浮かべ、晴菜へ朗らかに話した。対して晴菜は絶句したままフリーズしたのであった……。



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