316)恐怖の林間学校-8(キャンプファイアー)

 カレーを作っていた早苗と意識を替わった小春だったが、目覚めた際に自分を凝視していた晴菜達に声を掛けた瞬間、黄色い声で大絶叫される。



 晴菜達が嬉しそうに叫んだ理由が分らず、小春が戸惑っていると、彼女の前で目を瞑っていた玲人が瞼(まぶた)を開けた。



 「……小春か……驚いた顔をしているが……どうかしたか?」



 目を覚ました玲人は戸惑っている様子の小春を見て尋ねた。対して小春は玲人に小さな声で答える。



 「いや、玲人君……何かおかしな事になってて……クラスの皆から叫ばれたんだけど……その理由が分んなくて……。さっきまでわたしは早苗さんに替わって、玲人君は修一さんと替わってたでしょ? その間に二人は何かしたんだと思うけど……わたし、その時見て無くて……玲人君、何か分る?」


 「ああ、俺は見ていたからな……」



 小春に問われた玲人は、自分達が入れ替わっていた時の早苗と修一のラブラブな状態を淡々と小春に説明した。



 見つめ合って幸せそうにカレーを食べていた事、手を握り合ってキスした事等を事細かく小春に話したのだ。




 玲人の話を聞いている内に小春は、顔を青くしたり白くなったりと忙しく顔色を変えていたが、最後には真っ赤な顔をして俯き一言……。



 「……もう……十分、良く分りました……」



 と呟いた。そんな小春の姿を喜喜として見つめる晴菜や由佳の視線耐えきれなくなった小春は、玲人に一言侘びて、直ぐに仁那に替わった。



 小春から替わった仁那は、お子様感情を前面に出し小春が食べようとして置いていたカレーに大興奮して女子らしからぬ食べっぷりでカレー一気食いを披露する。


 しかも一杯では足りなかった様で大盛りのお代わりを晴菜に要求し、飲む様な勢いでカレーを食べるのであった。



 対して玲人はそんな仁那の様子を嬉しそうに微笑みながら静かにカレーを食べる。


 カリュクスの騎士であるローラ達も玲人と同じ様に、仁那の様子を和やかな気持ちで見守って入た。



 お子様全開の小春(今の意識は仁那)の様子を見て、急激な変わり様に晴菜達は絶句して言葉を失ってしまったのだった……。




   ◇   ◇   ◇




 そんな事が有った夕飯だったがスケジュール通りに終了し、その後林間学校の宿舎でも有るホテルの運動場を利用してキャンプファイアーを行った。



 キャンプファイアーの時の小春“担当”は小春本人で、早苗や仁那は意識が集うシェアハウスでまったり寛いでいた。



 対する玲人も修一では無く、意識は玲人本人だった。



 暗い広場に煌々と照らされるキャンプファイアーの炎。林間学校の夜というシチュエーションの所為なのか、炎を見つめる小春は穏やかで温かい気持ちになっていた。



 何て事の無い炎を唯玲人と見つめているだけで、何とも言えない幸せな気持ちになっていたのだ。



 「……何か……いいね……?」

 「……そうだな……こんな静かな時間……悪くないな……」

 「うん……そうだね……」



 小春と玲人はそんな事を言い合いながら、静かに炎を見つめていた。




 そんな二人を忌々しそうに見つめる者が一人居た……。それは、伊原恵美だった。



 「……フン……浮かれやがって……。今に見てろ……」



 恵美はそう呟くとすっと立ち上がってその場を離れた。そんな恵美に担任の真島が声を掛けたが、“トイレに行く”と言う恵美の言葉を信じて真島はそれ以上引き止めなかった。



 恵美はホテルの陰に隠れてエイイチに隠し持っていた携帯端末で連絡を取った。



 「もしもし私……。エイイチ、今どこに居る?」


 “ああ、恵美……今俺達は君が泊まっているホテルの近くで待機しているよ。これからのスケジュールを教えてくれない?”


 「ええ、分ったわエイイチ……。後、一時間位でこの下らないキャンプファイアーは終わるわ。その後はホテルのお風呂に入って寝るだけよ」



 恵美はエイイチに問われるまま、林間学校のスケジュールを伝える。次いでエイイチは恵美に別な指示を伝えた。



 “そうか……それなら全員が就寝したタイミングで突入するから……ホテル内の写真とパンフレットに入っているホテルの見取り図を送ってくれる? それと石川って女と人質にする大御門って奴の部屋番号も教えて”


 「うん、分ったわ! エイイチ。部屋に戻った時送るね!」


 “ああ、頼むよ! それじゃ後で会おう……恵美”


 「ええ、エイイチ、直接会う事を楽しみにしているわ!」



 恵美とエイイチは携帯端末でそんな風に話し合ったのだった。




   ◇   ◇   ◇




 小春達が居るホテル近くの脇道にて……。



 「……来たか……内通者の少女からの見取り図だ……。ターゲットの部屋番号も来たな……。今お前達にも送るぞ」


 「はい、磐田さん」

 「お願いします」



 脇道に停車中の2台の黒いワンボックスカーの一台にエイイチは居た。



 しかし恵美に名乗ったエイイチは全くの偽名であり、恵美にはSNS上で大学生と説明したが、これも嘘だった。



 エイイチと名乗った男は、磐田と言う名で大学生どころかガタイの良い筋肉質の中年の男だった。



 磐田は反政府団体“紅き革命軍”のリーダーを務めていた。


“紅き革命軍”は真国同盟とは異なる新興の反政府団体である。



 その“紅き革命軍”の磐田と伊原恵美が繋がっている事は偶然では無かった。磐田と恵美を繋げた“第三者”の存在が居たのだ。



 磐田が部下の男に問う。



 「……これで襲撃準備は出来た訳だが……スポンサーからの連絡は有ったか?」

 「はい、15分ほど前に……状況を連絡する様にとメールで」

 「ああ、分った。俺が直接話す」



 磐田は部下の報告を受け、携帯端末でスポンサーと呼んだ第三者に連絡を取る。



 “…………もしもし……どうかした?”


 「…………ああ、俺だ。磐田だよ……。内通者の少女から襲撃ポイントの情報が出揃った。後はアンタの指示を待っている状況だが……どうする?」


 “内通者の少女と連絡を取りながら……ターゲットが完全にホテルの部屋に入った時点で襲撃しろ……。分っていると思うが殺すなよ……。殺さず生かして確保して欲しい。

 主なターゲットは2名……石川小春と大御門玲人だ……。お前達も知ってると思うが……大御門玲人は軍属だ。最大限の注意を払って欲しい。ヘタに扱えば全滅するぞ “



 スポンサーの指示を受けた磐田はターゲット以外の扱いについて問う。



 「ああ、分った……所で内通者や他の連中はどうする?」


 “どうでも良い……。出来るだけ可能な限り手荒に扱え。殺しても構わない。寧ろその方が”見たいモノ“が見られる可能性が有る。女も大勢居る事だ……女日照りのお前達には良いボーナスだろう?“


  「ククク……それは有り難い話だが……、良いのか? 内通者の少女はアンタの方から紹介されたが……知り合いじゃ無いのか?」


 “……私が知っているのはターゲット達とその関係者だけだ……。内通者の少女については”裏“から手を廻して良さげな対象を選んで情報をお前達に送っただけ……。故に顔も知らん。何より知り合いで在ろうが無かろうがお前達には一切関係ない、好きに扱え。

 そうだ……良い事を思い付いたぞ……フフフ……内通者の女はソイツが自分で提案した通り、犯してやれよ……。但し犯されるのはソイツで眺めるのは石川小春というシチュエーションでな……“


 「……ああ、分った……アンタの指示通りするよ……恵美は俺を気に入ってる様だからな……俺が直接遊んでやるさ」


 “……それで良い……精々派手にやれ! 結果次第では次も依頼する心算だ。期待しているぞ……“



 スポンサーはそう言って連絡を切った。磐田は獰猛な笑みを浮かべ、作戦に移るのであった……。


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