311)恐怖の林間学校-3(負け犬乱入)

 林間学校に向かう観光バスの中で、玲人と婚約者になった事がばれてしまった小春に、クラスメイトの少女達は遠慮なく囃し立てるが……そんな彼女に助け舟が入る。

 


 「ホラホラ、アンタ達! 小春が困ってるじゃない! さっさと中入るわよ!」



 そんな声を上げ、クラス女子を追い払ってくれたのは親友の晴菜だった。その後ろには由佳も居る。



 「……小春、疲れてるみたいだけど……大丈夫?」


 「う、うん……質問攻めでビックリしただけ……」



 晴菜は心配そうに話しかけると、小春はやや疲れ気味で答えた。横に居た由佳が申し訳無さそうに謝る。



 「ご、ごめん! わ、私も調子に乗っちゃって!」


 「い、いや……もう良いよ……」




 そんな風に話し合っている3人の背後から行き成り声が聞こえた。



 「……フン……喜んでいられるのも今の内よ……」



 仲良く話し合っていた小春達の前に、侮蔑した声を投げて来たのは……制裁され落ちぶれた伊原恵美だ。


 対して、その言葉を聞いた晴菜がケンカ腰で反論する。



 「はぁ? アンタ何言ってんの?」


 「……お前に言った訳じゃないけどね、脳筋女。そこの地味女に言ったのよ」


 「何だって!? もう一回言ってみろ!」



  突然ケンカを吹っ掛けて来た恵美に対し、正義感が強い晴菜は真っ向からぶつかった。



 「暑苦しいのよ、脳筋女。それと……久しぶりね、由佳。随分と、その地味女と仲良くしてるみたいだけど?」


 「うぅ……!」



 晴菜に言い返した恵美は、小春の横に居た由佳に向け、侮蔑した声で問う。


 恵美に最近まで虐められていた由佳は真っ青な顏をして狼狽した。



 小春も由佳同様、乱入して来た恵美に動揺していたが……。



 “小春ちゃん……替わって貰えないかしら? 彼女には、もう一度立場を教えてあげないといけないから……”



 動揺する小春の脳内に早苗の涼やかな声が響いた。


 対して小春は、早苗がこのタイミングで出てくる事に強い危機感を憶え、彼女に問う。



 (……早苗さん……また、伊原さんに……酷い事しないでしょうね……?)


 “まさか! 相手は子供なのよ? ちょっと注意するだけ! だから少し替わって?”


 小春は丁寧に頼む早苗に仕方なく替わるのだった。




 「伊原、お前いい加減にしろよ!」



 恵美の挑発に、激高した晴菜が掴み掛ろうとした時、小春が静かに話し掛ける。



 「……晴菜ちゃん……そんな、みっともない負け犬に関わると不幸が移るわよ?」


 「「…………え」」



 突然変わった小春の口調に驚き絶句する晴菜と由佳。逆に面と向かって中傷された恵美は声を低くして小春に迫る。



 「……それ……私に言ったの?」



 対して小春(意識は早苗)は鼻で笑って静かに返答する。



 「あら? まさか、暫く顏を見ない内に……自分の立場、忘れちゃったのかしら? 惨めな奴隷犬って事を。

 それにしても、貴女……見事に落ちぶれたわね? SNSで醜態を晒された挙句、取り巻き連中からも見捨てられ……引き篭もった果てにバスでのボッチ姿……。こんな絵に書いた様な見事な負け犬っぷりが、哀れすぎて……ククク、ホント笑ったわ!」



 「「…………」」


 

 小春(早苗)は痛烈に恵美を嘲笑するが、その様子を横に居た晴菜と由佳は絶句する。



 晴菜と由佳は共に絶句したが、二人の内心は各々違っていた。



 晴菜は、唐突に急変した小春の態度にただ驚いた。それはそうだろう、気が弱く大人しい小春からこんな厳しい言葉が出ると思えないからだ。

 


 一方の由佳は路地裏で見た早苗が……小春に代わり現れた事を感じ恐怖する。小春の体に同居する早苗は、敵に対しては容赦がなく恐ろしい存在だった。



 「お、お前!! 調子に乗りやがって!」



 対して、小春(意識は早苗)より罵られた恵美は激高する。


 恵美は堪忍袋の緒が切れて小春(早苗)に殴り掛かろうとして、猛然と歩き出したが……。



 「負け犬は犬らしくなさい。……お座り」


 “バッ!”



 掴み掛かろうと猛然と前に出た恵美だったが、小春(早苗)が呟くと体が勝手に動いて、地に座り込んでお座りする。



 「ま、また!? 体が勝手に……!?」



 自分の意志に反して、犬の様に座り込む姿勢となった恵美は……路地裏での悪夢を思い出し、驚愕して叫ぶが、我が身を動かす事が出来ない。



 「く、くそ……! 動け、動けよ!」

  

 「「…………」」


 

 全く言う事を効かない自分の体に向け、忌々しそうな声を上げる恵美に……その場に居た晴菜と由佳は異様な光景に何も言葉が出ない。



 「どう? 思い出したかしら? 奴隷犬の立場を」



 固まった晴菜達を余所に小春(早苗)は、お座りままの恵美に対し罵る。そんな小春(早苗)の態度に恵美は激怒しながら叫んだ。



 「お前! 後で覚えとけよ!?」


 「奴隷犬の分際で、そんなベタな台詞頂けるとは思っても無かったわー。でも……私も楽しみにしてるから……言葉通り、後で掛かって来なさい……」



 叫んだ恵美に小春(早苗)は低く笑って嘲笑し……少しだけ本性を現し小さく呟いた。


 早苗(体は小春)はアーガルムとしての本性を僅かばかり示し、その瞳を黄金色に輝かせ脅した。



 「う! な、何なの……その目……あ、あんた……一体……」



 早苗(小春)が目の色を黄金色に変えて恵美を脅すと、彼女は座ったままの姿勢で恐怖する。



 そんな中……。




 「……どうかしたの、貴女? そんな所に座り込んで……もしかして、転んじゃったのかしら?」



 小春(意識は早苗)の絶対的な本質を垣間見せられ、恐怖した恵美の背後から声がする。



 急に掛けられた小春達が声の方を見ると、薫子がにこやかな顔をして立っていたのであった。

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