310)恐怖の林間学校-2(暴露)
玲人が明かした衝撃の事実(玲人と小春の婚約)に、友人の神崎は狭いバス中で驚きを隠せず絶叫し、クラスの皆が婚約の事実が知る事になった。
その結果、バスの中に詳細を知りたがる皆の声が一斉に広まっていく。
「え!? 石川さん、婚約って!?」
「オイオイ! 本当か! 付き合ってるとかじゃなくて?」
「やるじゃん、大御門君!」
収拾が付かなくなったバスの中の大声に、担任の真島が立ち上がって注意する。
「み、皆さん! バスの中では節度ある行動を取って下さい!」
真島の叫びにも関わらず、バスの中は小春と玲人の婚約話で持ち切りだった。
当然、当事者である小春にも質問攻めと為る。小春の座席に皆が一斉に振り向いたり、顔を向けたりして小春(仁那)に質問をする。
今、この小春の体を支配しているのが、仁那の意識だった事が事態をより複雑にさせてしまった。
ちなみに脳内の小春は今すぐ体を替わる様叫んでいたが、外の景色に夢中な仁那には全く聞こえていない様だ。
先ずは小春(仁那)の真横に居た晴菜が震える声で彼女に問い掛ける。
「……あ、あの……小春さん……? 今の情報は確かですか?」
代表して小春に問う晴菜の近くには、気になって仕方ない女子たちが一斉に小春(仁那)の言動に注目する。ちなみに由佳も同じだった。
対する小春(仁那)は景色を嬉しそうに見ていたが、晴菜に呼ばれて振り向いて何も考えず答える。
「うーん? 何々、玲人と婚約ー? うん! したよ! これで玲人と私達一緒にずーと居られるって小春も泣いて喜んだよー!
それから皆で小春んちに集まって決まったんだ! 小春のお母さんとか、大御門の弘樹叔父さんとか薫子とか集まってね!」
ちなみに脳内の小春は“お願いだから余計な事言わないで!”と必死で叫んでいた。
しかし仁那にとって“余計な事”が何の事かさっぱり分っていない為、玲人同様に知ってる事を包み隠さず話す。
対して聞いていたクラスメイトの少女達はと言うと……。
「「「「きゃあああー!!」」」」
また、バス内に黄色い絶叫が響き、担任の真島が立ち上がって注意するのだった。
質問攻めに合う小春(仁那)。質問を行うのは聞き耳を立てる少女達を代表し、メインは晴菜とサポート役に由佳が自然に決まった。
メイン尋問官の晴菜が小春(仁那)に尋問を再開する。
「えーっと……小春さん。先ず聞きたいんだけど……婚約はいつしたの? 何でそんな話になったの?」
「うん、晴菜ちゃん! 教えたげる! 玲人との婚約したのは……えーと……5、6、7……、7月の終わりだよ! えーと……婚約はねー。小春が私とお母さんを助けてくれたから、皆で一緒に居られる様になったの!」
晴菜の問いに答える小春(仁那)だったが、今小春の体を動かしている仁那は精神年齢が同化の影響でお子様になった為、答え方はまさに小さな子供の様だった。
その為、小春(仁那)が答えた事は抽象的過ぎて、皆に理解出来なかった。
取敢えず晴菜達は婚約が7月の終わりに玲人と小春が婚約したと理解する。
次いでサポート役の由佳が小春(仁那)に問う。
「あの、さっき言ってた……薫子って……もしかして保険医の薫子先生?」
「そうだよー。薫子は病院の先生だからねー。弘樹叔父さんが持ってる大御門病院でも先生なの。
薫子はずっと私の面倒見てくれたんだ!。だからね、婚約した後……心配だからって小春んちの近くに……玲人と一緒に住んでるの! でも、もうすぐしたら弘樹叔父さんが小春んちの横のお家用意するとか、何とか言ってたわ!」
「「「「…………」」」」
「……大御門君ってもしかしてお金持ち?」
何も考えていない小春(仁那)の答えに、聞き耳を立てていた少女達は情報の複雑さに辟易し言葉を失ったが、一人の少女がボソッと疑問を呟いた。
対して仁那は明るく返答する。
「うーん? 良く……分んないけど……大御門、財閥……とか言ってた!」
「「「「!!…………」」」」
何も考えていない仁那の言葉に衝撃的な事実が次々明らかになり、晴菜を含む少女達は絶句してしまったのだった……。
◇◇◇
「……何て……ことだよ……」
石川小春は到着した高原のホテル入口で座り込み盛大に後悔していた。
丁度今は林間学校の場所となる高原のホテルに到着し、開校式が終わって少しの自由時間となった時だった。
事の発端は林間学校に向かう観光バスでの出来事だ。
あろう事か玲人が小春との婚約を友人の神崎に打ち明け、その事実が神崎によりクラス中に知れ渡る。
それだけもとんでもない事だが運悪く小春は仁那と体を貸していた為、クラスの女子達は婚約について一斉に仁那(見た目は小春)に尋問し、お子様精神の仁那は包み隠さずどころか小春の自宅横に玲人が住む事までぶちまけた。
当然クラス女子は黄色い悲鳴を上げ、大興奮状態となってしまう。
小春としては絶対知られたくない事実だったが、お子様仁那はそんな事等、感じる事も無く聞かれた事は全て正直に伝えてしまい、石川小春のプライバシーは思いっ切り蹂躙されてしまった。
小春は仁那に散々“替わって!”(体を)と絶叫したが、クラスの女子から質問攻めだった仁那は小春の脳内からの叫びに気付かず、聞かれた事を真面目に答えてしまったのだ。
従って小春の家に玲人が毎日行っている事や、勉強を教えてくれる事等も明かされた。
結果、無口な変人イメージが根強かった玲人の評価はクラス女子から爆上がりする結果となり、小春としては嬉しいやら寂しいやら複雑なカオスな心境だった。
脱力して座り込む小春の頭上に、クラスの女子達からの無責任なエールが届く。
「よ! 新婚さん! 式には呼んでね!」
「いいなー! 大御門君って、ちょっと変わってるけど……超セレブで、家庭的なんて……」
「よく見れば背も高いしイケメンだし! 完全にダークホースだったわ! 石川さん、男の子を見る目有るね!」
「でも婚約者かー、ホント映画みたい! やっぱり財閥の御曹司は違うね」
「……ハハハ……イエソレホドデモ……」
落ち込む小春を黄色い声を上げながら囃(はや)し立てるクラス女子達に、小春は乾いた笑い声を絞り出すのが精一杯だった。
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