307)マッド訪問⑪

 半ば無理やり始まった“人形遊び”と称したラシュヒ87854号と小春達の戦い。


 結果は小春が呼び出したコメダマちゃんが、ラシュヒ87854号の内部に侵入し、ガラクタで構成された、そのボディを乗っ取り勝利した。



 小春の攻撃に依って敗れたラシュヒだったが……大興奮して、再戦を宣言する。


 興奮したラシュヒは、上空から巨大な何かを召喚した。



 上空から姿を見せたのは、丸い球体状のレリウスだ。不自然な程上半身のみが大きく球体となっており、ボディ部に一つ目を持った頭部が埋め込まれる様に付いている。


 丸いボディには触手状の腕が複数生えており、下半身は無く円錐状の太い尾の様な器官が生えていた。


 人型のレリウスとは全く異なる巨大で奇怪なレリウスが、その場に現われた。




 「さあ!再戦と行こう! 今度は遊びでは無く全力で戦わせて頂く!」

 

 「「「……」」」



 現れたレリウスにラシュヒは飛び乗って再戦を宣言する。



 人形遊びで負けたラシュヒは、自分専用機のレリウスを呼び出して、小春との再戦を望むが……その場に居た誰もが応える気が無かった。




 「……流石に、これ以上はダメだね。皆、小春っちを頼むよ」



 

 彼女を守るアリたんが呆れながら、ローラ達カリュクスの騎士に声を掛ける。



 「「「お任せを!」」」


 ローラ達3人はアリたんの指示を受け……小春の前に立ち、ラシュヒに対して戦闘態勢を取る。


 例えラシュヒが12騎士長が一人としても、度を超えた戦いを望むのは、女王である小春達に対する不敬と判断したのだろう。


 「み、皆……」


 戦う構えを見せたローラ達を見て小春は、戸惑い呟いた。




 そんな中、ユマが周りの空気を無視して一人盛り上がるラシュヒの後始末に動く。



 「はぁ……ハミル、押えますよ」「……うん……」



 緊張したその場で、助手のユマが溜息を付いて近くに居たハミル少年に指示を出す。



 「教授……おいたが過ぎますわよ?」



 コマがそう問うと同時に、灰色の地面より無数の鞭が現われ丸いレリウスを縛り付ける。


 その鞭は巨大なレリウスを縛り付けるのと同時に、ずるずると地面に引きずり下ろす。



 「……ん……」


 ハミル少年が小さく呟くと、地面に引きずり下ろされた奇怪なレリウスは虫が喰うかの様に端からボロボロと消滅し始めた。



 「ああ!ハミル君、何をするんだ……」

 “ギュルル!!”



 「む、むぐぅ!?」



 消されつつあるレリウスを見て、ラシュヒが抗議の声を上げたが、ユマの鞭で彼の口は塞がれてしまう。


 「……教授もご存知な第……ハミルが行っているのは“収納”……実際に破壊している訳では ありませんわ……。

 そんな事より、教授……本来の目的をお忘れになって……随分と燥ぎ過ぎでは?」

 

 顔と体をいつもの様に鞭で縛られもかくラシュヒに、ユマは冷え切った声で詰問した。



 「うぐう!! うう!」



 問われたラシュヒは必死で弁解するが、何を言っているのか分らない。




 鞭で縛られ見動きが取れないラシュヒを引っ張りながら……ユマは呆気に取られている小春に声を掛ける。



 「……小春様……この度は最初から最後まで、ご迷惑をお掛けしました。それと、貴重なサンプル、大変に有難うございます」



 ユマが小春に向け礼を言ったと同時に、ラシュヒを叩き落とした巨大なハエタタキが、徐々に地面の中へと吸い込まれていく。



 「……私共の目的は達成出来ました……。小香様のお陰で、一人の女性を幸せにする事が出来ます」


 「え? それってどう言う?」


 「今、それを語るのは無粋でしょう……。全てが終わった後……関係者を集め、改めて御礼申し上げに参りますわ……。教授、何か申し上げる事はありませんか?」


 「ムガガー!うぐー!」



 問うた小春に対し、ユマは穏やかに答えた後、鞭で慱られているラシュヒに発言を促すが……口を塞がれている彼は呻き声を上げるだけだ。



 「ふむ……成程……。小春様、教授はこう申しています……"前世で裸にしようとしてゴメンネ"と」


 「はぁ!?」


 「ムグ!? フガガ!!」


 「教授いわく……あふれ出る欲望が収え切れ無かった様です。今後小春様の半径100m以内には、この私が近付けさせませんので、どうかお許しください」


 「…………」


 「フグゥ!」



 ユマによって伝えられた衝撃の事実に、小春情は軽蔑の眼差しでラシュヒを睨むと、彼は涙目で訴えようとするが、無駄だった。



 「……それと……こうも教授は申しております。ユマちゃん凄くキレイで優秀過ぎると……。対してハミル、もっと仕事しろ、と言われていますわ」


 「「「「…………」」」」



少しうさん臭いユマの言葉に小春だけで無く、ディスられたハミルもジト目で彼女に疑いの目を向ける。



 「……さあ、名残おしいですが、そろそろ失礼いたします……。そうそう、今回教授がお渡した小型レリウスですが…… 小春様が念じるだけで、いつ何時も呼び出せますわ。アリたん様と同じ様に。それでは……皆様ごきげんよう……」



 ユマはそう言って小春やアリたん達に頭を下げた。横に並んだハミルも彼女に習って慌てて頭を下げる。



 そしてユマ達は拘束したたラシュヒを引き擦りながら歩き出し、光と共に転移して姿を消した。


 ラシュヒ達が去った後……灰色の空間は除々に消えて……始めに居た公園と空間が入替わる。



 後に残った小春はどっと疲れて呟く。



 「……何だたんだろ……アレ……」


 “確かに疲れたわ……” "本当にね!でも面白かった!"



 疲れて呟いた小春に、早苗も同意するが、お子様な仁那は楽しかった様で元気に答える。



 そして小春達はローラ達とアリたんと別れて家路に着いた。



 こうしてマッドなラシュヒとの過激な人形遊びは……小春達に少なくない精神的疲労を与えると共に……強力な新型アンちゃんを手にして、ようやく幕を閉じたのだった。



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