306)マッド訪問⑩


 "しまった!"


 "大丈夫!私が何とかするわ!"


 アンちゃんを掴まれたのを見て、仁那がシェアハウスの中で叫ぶが、その横に居た早苗が声を掛ける。



 そんな中、ラシュヒ87854号の大砲から極太の光線が放たれてしまう。



 "キュドド!!"



 光線は拘束されたアンちゃんに向け発射されたが、アンちゃんの直前にて何かに防がれ周囲に飛び散る。


 光線を防いだのは、早苗が生み出した黒鎖による壁だ。



 黒鎖の壁は、光線を弾き散らしているが、大砲からの光線は尽きる事なく発射され続け、黒鎖の壁は除々に砕け始める。



 "もう、もたないわ! まだなの小春ちゃん!?"



 砕け始めた黒鎖の壁に、操作している早苗は焦り小春に向け叫ぶ。問われた小春は、瞑っていた目をスッと開け、静かに答える。



 「……お待たせしました……今、終らせます! おいで、コメダマちゃん!」



 早苗に答えた後、小春は叫んで持っていた錫杖を前に突き出す。錫杖は眩く輝き光を前方に放射させた。



 錫杖から放たれた光は大きな塊を作り出す。それは大量のコメダマちゃんだった。



 小春は以前にも模擬戦でコメダマちゃんを生み出したが……今日は充分に時間を掛けた為か、その量が全然違う。


 今回は大型バス1台分には匹敵する程の大量のコメダマちゃんを作り出した。



 「コメダマちゃん! あのロボットを支配して!」



 小春が錫杖を掲げて叫ぶと、無数のコメダマちゃんは一斉に飛び立ち、アンちゃんを掴んでいる大きな腕や、ラシュヒ87854号の中に侵入する。



 『おおお!? こ、これこそは!?』



巨大レリウスの中にコメダマちゃんが侵入してくるのを見て、ラシュヒは何故か喜びの声を上げる。



 「侵入完了! コメダマちゃん、バラバラになって!」



 対する小春はコメダマちゃんがラシュヒ87854号や、アンちゃんを掴む手に侵入したのを確認した後、大声で指示を下す。


 小春の叫びと 同時に……。


 "バガガガアン!!"



大きな音を立ててラシュヒ87854号を形成していた、ガラクタがバラバラとなって宙に浮く。



 アンちゃんを掴んでいた大きな腕も同じだ。小春が生み出すコメダマちゃんは対象物に侵入した物を小春の意志通りに操る事が出来る。



 そして……これ程の大量のコメダマちゃんを生み出し操作出来るのは、小春だけだ。



 巨大レリウスは一瞬で無散し、残ったのは宙に浮く無数のガラクタと、ラシュヒが乗っていた丸いコックピットだけとなる。



 『……えーと……』



 丸裸にされ、ポツンと浮かぶコックピットの中で、ラシュヒは戸惑い呟く。



 "今よ、小春ちゃん! やってしまいなさい!"


 「え!? そ、それなら……えい!」



 戸惑うラシュヒをシェアハウスの中から見ていた早苗は、チャンスとばかり小春に指示を出す。


 指示を受けた小春は急だった為に慌ててしまう。



 そしてポツンと浮かぶ丸いコックピットを見て、慌てた小春は"ある物"を連想し思い付きでコメダマちゃんを通じてガラクタを操作する。



 小春がフヨフヨと浮かぶコックピットを見て思い浮かべたのは、小さな虫だった。



 その為、小春はガラクタに侵入したコメダマちゃんにイメージを送ると、無数のガラクタは一瞬で集まって巨大な何かを作り出した。



 無数のガラクタが形を成したのは特大のハエタタキだった。生み出された巨大過ぎるハエタタキを見て……ラシュヒはコックピットの中から恐る恐る問う。



 『……まさか……これで私を……?』


 「ご、ごめんなさいー!」



  問うたラシュヒに向け、小春は謝りながら巨大ハエタタキをコックピットに叩き付ける。



 "ベシャア!!"



 巨大ハエタタキで叩き付けられたコックピットは……地面に激突した後、反動でバウンドして天井にもぶち当たった。



 天井にぶち当たった後、それでも止まらず奥の壁にもぶつかった後、ようやくボトンと落ちてコロコロと転がった挙句、沈黙した。



 「ああ! や、やり過ぎちゃった!」



 何度もはね返ってぶつかったコックピットを見て、焦って攻撃してしまった小春は叫ぶ。


 叫んだ小春に対し、助手のユマが声を掛けた。


 「大丈夫です……。この程度の攻撃、教授に取っては寧ろご褒美ですわ」



 彼女の言葉に護衛のハミル少年も何度も頷き肯定する。



 「……小春様、大変にお疲れ様でした。教授のやっかいな趣味にお付き合い頂き、誠に有難うございます。教授の人形も小春様に奪われ無くなりましたし……図らずも目的のサンプルも頂けましたので、今回はこれで終了と」


 「まだだ!!」



 コマが静かに幕引きを伝える中……突然、大きな声が響く。


 灰色の空間に居た全員が声がした方を見ると、コックピットから出たラシュヒが、狂的な笑みを浮かべて立っていた。


 コマが静かに幕引きを伝える中……突然、大きな声が響く。



「実に見事な攻撃だったよ、小春君!! 仁那君と早苗君との連携も素晴らしい! 各々の得意とする戦いを余す事なく全力で出し切った最後の攻撃! 本当に素晴らしかった!

にも関わらず、この私は“人形遊び”等と言って手を抜いてしまっていた事が、何とも恥ずべき事だ! こうしてはいられない、この私も誠意を持って全力で挑まねば!」


 

 大興奮したラシュヒが叫ぶと……上空に黒い闇が現われ、その中からゆっくりと巨大な物体が降りてくるのだった。



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