305)マッド訪問⑨
吹き荒れる爆風と高熱によって灰色空間に高く積まれたガラクタの山も消し飛んだ。生身の仁那(体は小春)はアりたん達に守られていた。
アンちゃんとラシュヒ87854号の戦いを記録しているユマは自分で障壁を展開し、その身を守っている。
仁那と早苗の多重攻撃を受けた巨大レリウスは激しい炎に包まれていたが……やがて火の勢いは収まり、爆発の後には焼け焦げた真黒い塊だけが残されていた。
もはや戦いは完全に終ったと仁那は肩の力を抜き、その場に座り込んだ。
アリたんや、ローラ達が展開してくれる多重障壁によって、爆発の影響は仁那には一切無い。
座り込んでいる仁那に、戦いを記録している助手のユマが声を掛ける。
「……仁那様……お疲れの所、恐縮ですが……教授は……」
「あ!? も、もしかして今の攻撃で、オジさんは!?」
ユマの言葉で、無我無中で必死に攻撃した仁那はラシュヒの事を思い出し、飛び起きて叫ぶ。だが、彼女は静かに答えた。
「……仁那様……教授は貴女様に申し上げた筈。“必配は不要”と……。アレでも教授は12騎士長が一人。何も案ずる事はありません。
私が貴女様に声をお掛けしたのは、寧ろ逆の意味です。今だ、戦いは続いております……。どうか、ご注意……」
"ドプン!!"
ユマが静かに仁那を案じて助言している最中……突然、動きを止めていたアンちゃんが底無し沼に落ちた様に、灰色の地面へと吸い込まれた。
「ア、アンちゃん!?」
地面へ吸い込まれたアンちゃんを見て、仁那は驚き叫ぶ。
「……全く……困った人ですね、教授は……。相変わらず遊び過ぎです……」
驚く叫んだ仁那の様で、ユマが呆れながら呟くと、近くに居たハミル少年も“そうだ“とばかりに何度も頷く。
ラシュヒと付き合いの長い2人は、こうなる展開が分かり切っていた様だ。つまり、仁那と早苗の凶悪な攻撃もラシュヒに取っては、どこまでも遊びなのだ。
“ズズズズ……!!”
ユマの言葉を証明するかの様に、灰色の地面よりラシュヒ87854号がゆっくりと姿を現す。
その巨体には全くダメージを受けていない。いや、正確には別空間に隠された無数のガラクタを使って新しく組上げられたのだろう。
その巨体の手にはアンちゃんが握られている。どうやら、アンちゃんを灰色の地面へと引きずり込んだのはラシュヒ87854号の様だ。
「ア、アンちゃんが!」
『……中々の連携攻撃……。この私も一瞬、肝を冷やしました。ですが……君達が狙ったコックピットには、緊急脱出装置が設けられましてね。危なくなった時には別空間に転移する、と言う訳ですが……。まさか、障壁を破られるとは思いませんでした。実にお見事です!』
巨大レリウスの手に掴まれているアンちゃんを見て仁那が驚く中、ラシュヒが嬉しそうに叫ぶ。
そして彼は、ラシュヒ87854号を動かし掴んでいたアンちゃんを床に叩き付ける。
”ガゴオオン!”
『……平(たいら)にしてあげましょう』
そう呟いたラシュヒは巨大レリウスの腕を大きなアイロンに変形させ、床に叩き付けられたアンちゃんに思い切り押し当てる。
“ジュウウ……!!”
腕が変形した巨大アイロンは赤熱した状態でアンちゃんを押し潰す。
巨体の荷重を受けたアイロンは容赦なくアンちゃんを押し潰し、灰色の地面はビキビキとヒビ割れながら高温に熱せられ煙を上げている。
「負けない!」
仁那の叫びと同時に地面に埋まっていたアンちゃんが、巨大なアイロンをひざを付きながら両手を使って持ち上げる。
「うおりやぁ!」
仁那が掛け声を上げると、巨大アイロンを支えていたアンちゃんの両腕が眩く輝き、光を放ってアイロンを貫く。
アンちゃんの放った攻撃で巨大アイロンは爆散とした。
アイロンを破壊したアンちゃんは飛んで仁那の前方に立つ。だが、アンちゃんを前に立たせた仁那は難しい顏をして呟く。
「……これじゃ……勝てない……」
“確かに……あのデカブツは何度でも再生するわね。弱点な筈のコックピットを狙っても操るドクロ博士が自由に転移出来るなら意味ないし……。仁那ちゃん、こんな無駄な遊びにとことん付き合う意味は無いわ。新しいアンちゃんを貰った事だし……さっさと帰りましょう?”
「で、でも……何か負けたみたいで悔しい……」
呟いた仁那にシェアハウスから早苗が声を掛けるが、彼女は締めきれない様だ。
そんなやり取りを仁那と早苗が行っている中……早苗と同じく外の様子をずっと見ていた小春が声を掛ける。
“……わたしなら……何とか出来るかも知れません……”
「本当!? 小春!」
“うん……多分……でも一人じゃ無理。皆、力を貸してくれる?”
「もちろんだよ! 皆であの怪物をやっつけよう!」
“私達は3人で一人……力を合わせれば無敵よ”
シェアハウスの小春から声を掛けられた仁那が声を上げると、早苗も力強く答えた。
次いで仁那から意識を替わってもらった小春は、シェアハウスの仁那と早苗にと指示を出す。
「準備に時間が掛かります! それまで、仁那と早苗さんは2人で、あの大きいロボットを押えて下さい。それじゃ、お願いします!」
“うん!”
”仕方ないわね”
小春の掛け声を受けた仁那と早苗は早速、行動を開始する。
仁那はシェアハウスからアンちゃんを操り、ラシュヒ87854号へと直接攻撃を仕掛け、早苗は黒鎖を生み出して巨大レリウスを再度縛り付けた。
そんな中、小春はマセスから受け継いだ錫杖を呼び出して目を瞑り、精神を集中させる。
小春が精神を集中させるのと同時に、彼女の体は白く光り出す。
対して……仁那と早苗による攻撃を受けていたラシュヒは、光輝く小春の身体を見て呟く。
『……この連携攻撃は、先程見せて頂きましたが……成程、本命は……小春君本人による大技と言う訳ですね! ククク……面白い、全力で受け止めましょう!』
ラシュヒは白く光り出した小春を見て彼女達の狙いを看破し、迎え撃つ段取りを始めた。
ラシュヒの叫びと共にラシュヒ87854号は変形を始める。
仁那の操るアンちゃんと、早苗の黒鎖による攻撃を受けながら、巨大レリウスは両腕を合体させ巨大な大砲へと変型し、激しく攻撃を仕掛けるアンちゃんへと狙いを定める。
早苗の黒鎖はラシュヒ87854号を縛り付けてはいるが、シェアハウスから操作している為か、巨大レリウスの全身を止める程の力は発揮出来ない様だ。
仁那が動かすアンちゃんも攻撃を続けているが、攻撃を受けたラシュヒ87854号は瞬時に復元される為に決め手に欠ける。
やがて巨大大砲はうなりを上げ銃口には眩い光が輝く。発射準備が出来た様だ。
『最大出力でお迎えします!! ヒャッハー!!』
攻撃準備が出来たラシュヒは、コックピットの中で嬉しそうに叫ぶ。
”直撃しちゃう!”
危険を感じた仁那はシェアハウスの中からアンちゃんを操作し、射線上から逃れようとしたが……。
”ガギン!!”
地面より突然現われたガラクタが大きな手と姿を変えアンちゃんを捕えたのだった。
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