303)マッド訪問⑦

 「決まった! 大きいだけで、あのロボット弱いよ! それとも……このアンちゃんが凄過ぎるのかな? このアンちゃんだったら……あのドルジって言うオジさんにも絶対負けないね!」


 “凄い、凄いよ! 仁那!!”

 “本当、良くやったわ、仁那ちゃん!”



 巨大なラシュヒ87854号を倒した仁那が自信たっぷりに声を上げると、シェアハウスで外の様子を見ていた小春と早苗が、意識奥から揃って彼女を讃える。




 『……満足して頂いて何よりだよ……』



 そんな中……コックピットの中からラシュヒが満足そうに呟く。



 「おじさん! おじさんのロボットじゃ、この新しいアンちゃんに勝てないよ? もう戦うの止める?」


 『女王にご心配頂くとは……光栄の極み……。ですが、ご心配無く! この遊びはまだ始まったばかりですぞ!!』



 問うた仁那にラシュヒは喜んで叫ぶ。彼の声に反応する様に両足を破壊されたラシュヒ87854号が震動を始めると……。



 “ゴバァ!!”



 大きな音を上げて、アンちゃんによって切断された巨大な右腕や両足が細かく崩れた。



 そして一瞬で、元のガラクタに戻り……倒れたままのラシュヒ87854号の右腕や両足の付け根に吸い寄せられて形を成し始める。



 どうやら破壊された腕や足が復元される様だ。


 

 吸い寄せられたガラクタは、見る間にラシュヒ87854号の腕や両足と成り……ゆっくりと巨人は立ち上がる。



 『はーはっははは! このラシュヒ87854号は、元より無数の部品で構成されている為、微塵に砕けようとも気度も復元が可能だ! しかも! 材料はまだまだ無限にある!』



 立ち上がったラシュヒ87854号の中からラシュヒが呼ぶと、灰色の空間に新しくガラクタの山が積上げられた。


 攻撃を受けて破壊される巨人のボディを修復させる為の材料とする為だろう。



 『見ての通り、人形遊びはまだまだ終る事なく続けられるよ! どうだい嬉しいだろう!?』


 「……うげえー、もういいよー」


 『君達に差し上げた、そのレリウスの能力は! まだまだ、そんなものじゃないぞ! この程度で満足してもらっては困るね! そして……このラシュヒ87854号の力も、お披露目しておりませぬ! それでは、今度はこちらから攻めさせて貰うよ! 現われよ、鉄球!』



 やる気満々のラシュヒに対し仁那(体は小春)は嫌そうに答える。


 しかしラシュヒは全く構わず叫ぶと……立ち上がっている巨大レリウスの左手が変型し、大きな鉄球に形を変えた。


 昔の工事現場に使われていた"フンドウ"と呼ばれる破砕用建設機械の鉄球に左手部位が姿を変えたのだ。


 丁度、右手の肘から先に太いワイヤーが伸び巨大な鉄球が繋がっている。


 『このラシュヒ87854号は! 材料として、取り込んだ物の特性を再現する事が出来る! 今、現して見せたのは、マールドム達が使用する原始的な建設機械。単純な構造だが、破壊力は中々だ! それを味わって頂きましょう!』



 主の叫びと共にラシュヒ87854号は、その左手を振り回し……凶悪な鉄球をアンちゃんに激突させた。



 “ゴガアア!!”



 地響きを立てて、鉄球はアンちゃんを叩き潰す。 鉄球の破壊力は凄まじく灰色の地面に大きなクレーターを生じさせた。


 この衝撃なら頑強な戦車でさえ圧潰されるだろう。




 「うわ! アンちゃんが!!」


 「落ち着きなよ、仁那っち! 教授がくれた人形が、そんな柔な訳無いよー?」


 「そうです、教授はどうしようも無い変人ですが……ご自分の仕事、いえ……趣味だけは 絶対に中途半端な事は致しません」



 潰されたアンちゃんを見て仁那は、青い顔を受かべて叫ぶが……彼女の横に浮かぶアリたんと、近くに居たユマがそれぞれ声を掛ける。



 「そ、それなら……! アンちゃん、立ち上がって!」


 

 二人の話を聞いた仁那は、彼女達を信じてアンちゃんに向かって声を上げる。彼女の命を受けたアンちゃんは……。



 “ガガアン!!”



 自らを押し潰した鉄球を細々に砕いて飛び上がり、華麗に地面に着地する。


 巨大な鉄球に叩き潰された筈のアンちゃんだったが、そのボディには全く損傷が無かった。


 以前の人類が作り出したアンドロイドでは、ラシュヒ87854号の鉄球攻筆に、一撃でバラバラに破壊されただろう。


 

 ラシュヒが自慢する通り、アーガルム族の高度な技術が使われている新型のアンちゃんは、防御性能も元のアンちゃんとは比較にならない様だ。



 「よし、いける! 今度はこっちの番だよ! はああ!」



 ノーダメージなアンちゃんを見て、勇気付けられた仁那は声を上げて巨大レリウスに攻撃を仕掛ける。



 「破岩豪拳! 豪斬掌! 豪天爆山脚!!」



仁那はアンちゃんを通じてラシュヒ87854号に向け、右正拳突きや前蹴りを連続して叩き込む。


 アーガルム族の武器である黒丸を装備したアンちゃんの攻撃は凄まじく、連撃を受けた巨大レリウスは至る所が破壊され……穴だらけでボロボロになった。しかし……。



 『素晴らしい攻撃だね! 防ぐ暇も無く、あっと言う間にやられてしまったよ! だけど……このラシュヒ87854号は、どの様な攻撃も無意味なのだ!』


 

 ラシュヒがそう叫ぶとボロボロだった巨大レリウス、背後に山積みされた無数のガラクタが独りでに浮き上がり、瞬く間に補修されてしまうのだった。



 「また、元に戻った!? だったら!」



 再生したラシュヒ87854号を見た仁那が、驚きながら叫んで次の攻撃に移る。



 「この攻撃でバラバラにして! 最後は大技で決める!」



 仁那はそう叫ぶと、彼女の意志を受けたアンちゃんは両腕を上げる。



 "キイイイン!!"



 高く上げたアンちゃんの両腕は高い音を立て 光り出す。



 「絶断豪斬破!!」



 仁那の声と共にアンちゃんは高く上げた両腕を振り降ろすと、光る腕から斬撃が放たれ巨大なレりウスを切り付けた。



 「まだまだ!!」



 仁那は休む事無くアンちゃんより、光の斬撃を連続して放った。


 巨大なラシュヒ87854号は無数の斬撃を浴びて、崩壊寸前に切り刻まれている。



 「とどめ!! 豪那虹色流星弾!!」



 無残な姿の巨大トリウスに向け、仁那が操つるアンちゃんより輝く10個の光球が放たれた。


 光球は色を変えながら超高速で飛んで、ラシュヒ87854号に突き刺さり……。



 "ゴガガガン!!“



 地を震わす豪音と共に大爆発が生じ、巨大レリウスは大きな火球に生まれた。



 その後に立ち上る豪炎の中に、ラシュヒ87854号の残骸が崩れていくのが見える。



 「……やっと倒したけど……オ、オジさん大丈夫かな……」



 炎上し完全に破壊された巨大レリラスを見て、仁那がラシュヒを心配して呟いた時……。



 『心配は不要と申し上げた筈ですよ?』



  "ゴシャア!!"



 どこからか聞こえたラシュヒの声と共に、仁那が操るアンちゃんは突然、沸いて出た巨大な何かに激突して吹き飛ばされるのだった。


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