301)マッド訪問⑤

 ガラクタの山から巨大な人型兵器ラシュヒ87854号を生み出した12騎士長が一人ラシュヒ。


 そのラシュヒは、自らが生み出した人型兵器ラシュヒ87854号に乗り込んで、叫ぶ。



 『さぁ!! 早苗君達!! この人型兵器ラシュヒ87854号と“人形遊び”をしようじゃないか!!』


 “ヴォオオン!!”



 叫ぶラシュヒに呼応して人型兵器ラシュヒ87854号は構えを取る。



 その様子を見た、ローラ達3人のカリュクスの騎士は一斉に早苗(体は小春)を守るべく、人型兵器の前に立ち塞がる。


 アリたんも当然と言った様子で、早苗の前に位置を変え球形の障壁を展開した。



 ローラ達3人とアリたんは人型兵器ラシュヒ87854号が、早苗達の脅威になるなら、迷いなく戦う覚悟だった。



 そんな彼女達を見た早苗(体は小春)は、ラシュヒに呆れながら文句を言う。




 「ちょっと! 遊びと言う割には、随分なハンデじゃないかしら!? それとも、此処に居る全員で戦えば良い訳!?」


 『おおっと! これは失礼した! これは“人形遊び”だ。早苗君達が使う人形を用意しないとね! ちゃーんと設計思想は有るんだよ!』



 早苗に文句を言われたラシュヒは、人型兵器の中から答える。



 『小春君達にピッタリな人形を今から造り上げるよ! 君達と“人形遊び”をする心算で……ずっと材料を集めていたんだ! そいやっ!』

 

 

 “ヴオン!”



 ラシュヒは叫んだ後、おかしな掛け声を上げた。すると低い音と共に……ボロボロの白い物体が早苗達の前に現れる。



 「こ、これは!? 何故、こんな所に!」



 現れた、その白い物体を見た早苗は思わず叫ぶ。何故なら、それはボロボロだが馴染みのあるものだったからだ。




 早苗達の前に現れた白い物体……それは、破壊されてボロボロとなった、戦闘型アンドロイド、通称“アンちゃん”のボディだった。


 バラバラになっていたが、腕や足、胴体や頭部と言った各パーツが一体分揃っていた。



 『……この人形は、小春君達が戦った際に破壊されたものを、とあるルートで一体分確保させて頂きました~!

 人形を使って戦う小春君達の姿は、大変に興味深く観察させて貰ったよ! ……私も是非一緒に遊びたいと思っていた最中……トルア君からある研究依頼を持ち掛けられてね。正に渡りに船と言う訳だよ!

 そんな訳で、君達と人形遊びする為に……小春君達が使っていた人形を入手して解析して訳だが……その人形には致命的な欠陥が在る』


 「……欠陥……?」



 アンちゃんのパーツを現したラシュヒは、うんうんと頷きながら解説を行う。


 彼の言葉で欠陥と言われた早苗は、聞き捨てならず問い返す。



 『……そう、欠陥だ。勿体ぶらず、はっきり言うと……その人形は脆すぎて、私達アーガルム族との戦いに対応出来ない。

 例えば、マニオス様と模擬戦で君達は人形で戦った際……覚醒前のマニオス様の御力にも関わらず、その人形は予備も含め大破した。

 また……ドルジ君との戦いでも、君達は人形を使って果敢に挑んだが……その脆弱構造の所為で君達は敗北し、悔しい想いを抱いた筈……違うかね?』


 「……ムカつくけど……貴方の言う通りだわ。特にドルジとの戦いでは……私達は負ける訳にいかなかった。だけど……全然本気じゃなかったドルジにあっさりと、アンちゃんは両断されたのよ……。

 でも仕方ないじゃ無い? 弘樹兄様が用意出来る最高のアンドロイドが、これしか……。うん? もしかして……?」



 アンちゃんの脆弱構造を指摘したラシュヒに、早苗も悔しげに認める。


 しかし早苗は、ラシュヒがアンちゃんの欠陥を指摘するだけで話をしたと思えず、彼に意図を問う。



 『うむ……! その人形は、今のマールドムが保有する最高技術で造られた、傑作である事は疑いは無い。しかし……アガルティアの女王が手にする武器としては……余りにお粗末! そんな、お粗末な人形でラシュヒ87854号と遊んでも私としては虚しく面白くない!

 と言う事で~アガルティア女王である小春君達に……臣下として、最強の人形を献上させて頂くよ! 現れよ、レリウス!!』


 “ヴオン!”



 ラシュヒが叫ぶと同時に、今度は円錐状の長い槍を装備した全長10mを超える、彫像の様な巨大レリウスが現れる。



 「ま、まさか……!? これをアンちゃんに……!?」


 『そうだよ、早苗君……! 流石の君でも驚いた様だ! マールドムとアガルティアの最高技術を掛け合わせた人形! それを作り上げる!! フフフ、それと……同じコンセプトで生み出したラシュヒ87854号と戦わせたら!? 

 はぁ、はぁ……考えるだけで昇天しそうだろう!? さぁっ! 分っ解っ!!』



 巨大なレリウスが現れた事で、ラシュヒの意図が分り驚き叫ぶ早苗。


 驚く早苗を見て、ラシュヒは大興奮して大声を張り上げる。



 ラシュヒの叫びと共に、ボロボロの戦闘用アンドロイド“アンちゃん”と……巨大なレリウスが……一瞬で微塵に分解され、無数の細かいパーツになった。



 人類とアーガルム族が持つ最先端技術で造られた人型兵器が、微塵の部品に分解されて霧状に広がり漂う。



 『お楽しみの! 再構成っ!!』



 ラシュヒが叫ぶと、霧状に広がっていた微塵の部品は凝縮し……人型を形作る。


 そして……。


 

 “カッ!!”



 凝縮して人型になっていた部品の塊りは、眩い光を発した。



 灰色の巨大な空間を照らす程の眩い光が迸った後、その中から姿を見せたのは……。




 そこに現れたのは小春そのものだった。いいや……正確には、小春と瓜二つの顔と白く美しいボディを持った新しいアンちゃんがそこに居た。



 そのアンちゃんの顔は、髪型も髪質も顔の造形も小春そのものだが……頬から顎に掛けて銀色のメタルパーツが装着されていた。


 身体は関節など皆無で、白いボディスーツを着せた様な造形だ。手足や脇腹に光が戦場に走るパーツが有る事より辛うじて人の身体では無い事が辛うじて分る。



 人類とアーガルム族が持つ最先端技術とラシュヒの能力によって生み出された……小春そっくりな新型のアンドロイド。


 

 それを生み出したラシュヒ本人は……。



 『フハハ! 見てくれたまえ!! マールドムの最新テクノロジーと我々の超絶技術を掛け合せた、最高の等身大レリウスだよ! 

 アガルティア城からの莫大なエネルギー供給を享受し、圧倒的な攻撃力と耐久性をこの小さな躯体に集約した! そればかりかレリウス特有の復元能力と各種兵装を転送できる仕様だ! 

 その上で、この美しさと儚さが同居する躯体! 正に女王が使役するに相応しい! このレリウスなら小春君達の能力を十二分に発揮出来るだろう! これなら、12騎士長とて遅れは取るまい! ククク……ハハハハ!!』



 生み出された小春そっくりな美しいアンドロイドを見て、ラシュヒ87854号に搭乗するラシュヒは大興奮して叫ぶのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る