300)マッド訪問④

 「い、一体!? 何が!?」


 「うわー、始まっちゃった! これだから、教授は嫌なんだ!」



 喜喜として叫んだラシュヒに反応するかの様に……公園だった筈の場所が灰色の空間に置き換えられ、地面から巨大な何かが現れ出ようとして来る。


 そんな状況に、早苗が驚く中、アリたんが嫌そうに叫ぶ。



 アリたんの叫びの虚しく、灰色の地面から大量のガラクタの山が現れる。



 そのガラクタは良く見れば……電子レンジやパソコンと言った電気機器や何処から集めたのか装甲車やエクソスケルトンと言った兵器も見られる。


 その他にガラクタの山には、アーガルム族が使うレリウスや謎の装置がごちゃ混ぜに積み上げられていた。


 積み上げられたガラクタは小さなアパート位の高さになった。




 「……何なの、このガラクタ……」


 「これは私の私用倉庫から引張り出したコレクションの一部だよ。集め過ぎたからね、君達との“人形遊び”の為に有効利用させて貰おうと思い、持ち出した次第だ」



 大きな山となって積み上げられたガラクタを見て早苗は呟くと、ラシュヒが喜喜として答える。



 「ガラクタを寄せ集めた所で、何をしようって言う訳?」


 「……早苗様、その点は大丈夫かと。教授は御自分の趣味に関しては手は抜きませんわ。きっと……早苗様を驚かせて下さるでしょう」



 今にも崩れそうなガラクタの山を見て早苗は、呆れながら問うと……近くに居たユマが冷静に答える。


 その傍では公園で捕まえたカブトムシを持ったハミル少年も頷いて肯定した。



 「うむ! 君達を前に、そんな雑な事はしないよ。此処からは私の技で仕上げるから心配しないでくれたまえ! 先ずは分解!!」



 助手達の態度に気を良くしたラシュヒが叫ぶと、山となったガラクタが独りでに浮き上がり……細かい部品に分解され始める。


 ねじや歯車、基盤やモーターと言った部品から、アーガルム族の使用する機械類も奇怪な細かい部品に分解されていく。


 細かく分解された部品は浮き上がっている為、雲の様に広がり灰色の天井を覆う勢いだ。



 全てのガラクタがあっと言う間に分解され、天を覆う様に広がった後……ラシュヒは叫ぶ。



 「続いて再構成!!」



 ラシュヒが叫ぶと、無数の部品に分解されていたガラクタは……瞬時に集まり何かを形作ろうと蠢き始める。



 「フヒヒ! このマールドムの装置は面白いからこうして……此処の機能は外せませんね~! レリウスの駆動部とエネルギー受信装置は生かすのは当然として、装甲は……」



 ラシュヒは蠢く部品の塊りに向かい、嬉しそうにブツブツと呟きながら両手を忙しく指揮者の様に動かす。


 ラシュヒの両手に反応する様に、蠢く部品は生き物の様に形を変えながら……徐々に巨大な何かに形作られていく。



 やがて……部品は動きを止めた。無数の部品が集まって生み出されたのは……全長20mにもなる巨人だ。



 その巨人はガラクタから生み出されたとは思えない程、滑らかで継ぎ目が無く精緻な作りだった。


 ただ、所々均等にマールドムが造った装置から取り付けたであろうホイール等の機械部品が意匠の様に取り付いている。


 よく見れば、様々な種類の部品が整然と隙間なく組み上げられて構成されていた。要所に装備された装甲は、人類が使用する装甲車を部品取りして設けられている。



 ガラクタの部品から構成された巨人は、両足は短かいが腕が不自然に長く地に付きそうだ。


 頭部は双頭で片方の頭はマールドムの兵器であるエクソスケルトンの頭部が付けられており、もう片方はレリウスの頭部が付いていた。


 巨人の胸部には何かの乗物から転用されたのだろう、透明なキャノピーが装備されている。



 その巨人は、マールドムと呼ばれる人類と、アーガルム族の道具が寄せ集められて作られた人型の自律機械の様だ。


 人類が使う兵器のエクソスケルトンと、アーガルム族が使役するレリウスが融合した……そんな巨人だった。



 「ガ、ガラクタから……こんなモノが……!?」


 「驚いただろ、早苗っち! これが教授の能力だよ~。教授は全ての物体に干渉し、その構成を把握して……ああやって分解、再構成出来ちゃうんだ」



 眼前に現れた巨大な人型の機械に驚き呟いた早苗(体は小春)に対し、フワフワと横で浮かんでいたアリたんが説明する。



 「そうです……教授は“多少”言動がおかしいですが……その能力と知性は本物です。

 何せ……各種レリウス群や中央制御装置、アガルティア城に装備された兵装類も全て教授の手に依って生み出されました。

 そればかりか、13000年前のマールドムとの大戦で、忌まわしい彼等の兵器を解析し、逆にアガルティア城の防御装置へ転用したのも教授の功績。あれで、もう少し常識が有れば完璧なのですが……」


 「……“多少”以外は同意……」



 アリたんの説明の後、助手のユマが補足すると護衛のハミル少年も一言呟く。


 

 「……とんでもない人ね……! そのヤバさ理解出来たわ!」


 「そうだよ~、教授があの大戦で活躍して無かったら……マールドムとの大戦はもっと悲惨なものになっていた。教授の功績で、大戦は一方的になって早く終結したのさ!

 マニオス様が居るアーガルム族に負けは無かっただろうから……下手したら人類は一人残らず滅亡してたかもね~」



 驚きながら声を上げた早苗に、アリたんはラシュヒの功績を補足する。



 「……その反面、ラシュヒ様は色々やらかして、評判が半減しちゃうけどな」


 「今回みたいにね」「何で、いつもこんな大騒ぎにするんだろ?」



 しかし、近くに居たカリュクスの騎士であるローラ達が、顔を見合わせて困った様子で呟く。



 ガラクタで巨大な人型機械を作り上げたラシュヒは、その場に居た皆の評判やら批判をウンウンと聞いていたが……突如、目をカッと見開き叫ぶ。



 「皆の声援を受けて気恥ずかしいが! 今は小春君達との“人形遊び”を優先せねば! それでは~、とうっ!!」


 “ぴょん!”



 叫んだラシュヒは、そのまま飛び上がると……巨大な人型機械が、長い手を動かして彼を受け止める。


 そして、胸部のキャノピーの方へ手を動かすと、キャノピーは自動的に開いた。


 キャノピー内部は単座の操縦席となっていた。ラシュヒはそのまま操縦席に座りキャノピーを閉じる。



 ラシュヒが乗り込んだ巨大な人型機械は、そのボディから光を迸らせ活発に動き出した。



 『さぁ!! 早苗君達!! この人型兵器ラシュヒ87854号と“人形遊び”をしようじゃないか!!』


 “ヴォオオン!!”



 ラシュヒが操縦席から叫ぶと、全長20mにも及ぶ人型兵器ラシュヒ87854号は唸りを上げて戦闘態勢を取るのであった。

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