299)マッド訪問③

 「ちょっと!? ユマ君、ハミル君! この対応は上司に対して、余りに不適切では無いかね!? 冗談だと思ったら、本当に燃やして埋めるなんて!」



 そう叫ぶのは、アガルティア12騎士長が一人ラシュヒ教授だ。



 彼は今……大きな公園のバーベキューエリアの中で、首から下が地中に埋まっている状況だった。


 それと、燃やされた為だろうか……髪と白衣が焦げている。



 「……流石に頑丈ね……。燃やしても埋めても平気なんて……」


 「ええ、腐っても教授は12騎士長が一人ですから」



 埋まってるラシュヒを見て早苗が呆れて呟くと、横に居たユマが答える。


 公園のバーベキューエリアは、ユマが手配したヘレナによって認識阻害されていた。



 この場には、小春達の護衛であるカリュクスの騎士であるローラ達と、アリたんがフヨフヨと浮かんでいる。


 なお、ラシュヒの護衛であるハミル少年は、公園で虫取りに励んでいた。



 「ハミル君、遊んでないで助けてくれたまえ! これは横暴だよ! 乱暴過ぎるよ!」


 「……教授……私が横暴かどうか……この場にリジェ卿をお呼びして確認致しましょうか? ガリア卿でも良いですけど?」


 「う!? い、いやーべ、別に良いかなー」



 1人で遊んでるハミル少年を見て、埋められているラシュヒは抗議の声を上げるが……横に居たユマが、満面の笑みを浮かべ問うと、彼は途端に顔を強張らせて挙動不審になって答える。



 「あ、そうそうディナ卿なら、お近くに居ますので。ローラさん達、お手数ですが呼んで来て貰えませんか?」「は、はい分りま……」


 「ユ、ユマ君! だ、大丈夫! よーく考えたら燃やされて埋められる位、大した事無かったよ! うん、間違いない!」


 「そうでしょうね……。小春様の前で、あの暴言……リジェ卿、ガリア卿そしてディナ卿が、その場に居られましたら……どうなっていたでしょう? 己が立場、ご理解頂けましたか?」


 「う、うん! よ、良く分った! 全然平気だよ!」



 ユマが低い声でラシュヒに言い聞かせると、余程ディナ達が怖い様で彼は必死になって返答する。



 「……ご理解頂いて幸いですわ、教授。ところで……燃えた所為で、お顔が汚れてしまいましたね。今、洗って差し上げますわ」


 「い、いや、別にこのままでも……。ぶあ!? ユ、ユマ君! 水を生み出して掛けるのは! あぶぶっ や、止めてくれたまえ! おぶぅ!」


 

 漸く大人しくなったラシュヒを見て、助手のユマは喜びながら水を能力で生み出して彼の顔に浴びせる。


 水を突然掛けられたラシュヒは、溺れそうになりながら文句を言うが、どことなく嬉しそうだった。



 「……止めなくて大丈夫かしら、アレ?」


 「心配しなくて大丈夫だよ、早苗っち! アレは教授とユマちゃんの日常だから~」



 燃やされた後、埋められた挙句、水を浴びせられてるラシュヒを見て……敵? ながら心配になってしまった早苗(体は小春)が、横にフヨフヨと浮かぶアリたんに問うと、彼女は何て事無い、と言った感じで答える。



 「そ、その……部外者の私が言う事では有りませんが……ラシュヒ様は、普段から色々問題を起こして、その後始末を昔から助手のユマさんが解決を……」


 「そーそー、その度にガリア様や、うちの師匠やらがブチ切れて……、あんな風にユマさんが調教する事で丸く収まるんだよ」



 アリたんの言葉を早苗の傍に居たレーネとキャロが、それぞれ補足する。



 「今回の件もユマ様に聞いたが……ディナ様の耳には居れば、間違いなく埋められる位では済まない。私でさえ怒りを感じた。

 特にラシュヒ様はエニに対しては昔からやらかしていたからな……ヘタをすればアガルティアの民全員を敵に回す事になる。そう考えると……あの程度の沙汰は手緩いと言えよう」


 「だね~、甘々だよ~」



 レーネとキャロに続きローラが自分の考えを言うと、アリたんも同意した。


 余程、このラシュヒと言う男は、普段から色々問題を起こしているのだろう。この場に誰一人、彼の味方は居なかった。



 そんなラシュヒを哀れに思ったのだろう……。意識奥のシェアハウスから外の様子を見ていた小春と仁那が、早苗に向かい助け舟を出した様で、早苗がユマに声を掛ける。



 「……あー、もう良いわよ……。私の意識奥から小春ちゃんや仁那ちゃんが“許してあげて“って言ってるし。それよりも、此処に貴女達が来た目的を教えて貰えないかしら?」


 「流石にエニやマセス様は御優しいですね……。と言う事で、教授。そろそろ本題をお願いします」


 「待ってましたよ!! ならば、脱出! とぅっ!!」


 

 早苗から許す様言われたユマは仕方なしに、埋まっているラシュヒに声を掛けると……彼は変な叫び声を上げて、土中から飛び上がった。



 「シュタッ!! 見事なジャンプだろう? 10点満点! 甘いな、ユマ君……この私は、埋められた位では屈しないよ! その気に為ればいつでも脱出出来たのだ! 

 だが、請われた以上は仕方が無い! 超天才の私が、この地に来た真の理由をお伝えしよう!」


 「「「「…………」」」」

 


 許して貰った途端、態度を変えて調子に乗るラシュヒを見て、この場に居た者達は呆れて言葉を失った。



 「……貴女達が言う事、良く意味分った。あの人、反省して無いわ。やっぱり誰か呼ぶ?」


 「この程度の事で他の方を巻き込む訳には参りません。大丈夫、コレはお約束の対応ですから」



 暫く沈黙した後、早苗が呆れ果てながら助手のユマに問うと、彼女は答えながら慣れている様子で鞭を取り出し……。



 “ぎゅるる!!”



 「むご!? ふぐぐ!」


 「はい、教授……。許して貰って嬉しいのは分りますが、時間が惜しいので抑えて貰えますか? さっさと本題へ参りましょう?」


 「むぐ! ふが!」


 鞭を生み出したユマは、ラシュヒを縛り上げて優しく問うと、縛られて涙目になった彼は必死で頷き同意するのであった。




 ◇  ◇  ◇




 「……色々アクシデントが在って、無駄な時間を要したが……漸く本題を伝えられるね! ユマ君、次はもっと段取り良く頼むよ!」


 「申し訳有りません、教授……。所で鞭の縛り加減はどうですか?」


 「も、もう少し緩めて貰うと助か……ふぐ!? いいや、全然良いよ、良い塩梅だよ!」



 自らの事は棚に上げて助手のユマに文句を言ったラシュヒだったが……彼女の鞭で更に縛られ、あっさりと折れる。



 二人のコントを見せられていた早苗は、呆れながら脱力して呟く。



 「……アガルティアの12騎士長にも、こんなに気の抜ける人が居るって分って安心したけど……」


 「油断はしない方が良いよ、早苗っち。ドルジ卿やリジェ卿の様にバトルジャンキーじゃ無いけど……教授は在る意味、彼等よりヤバいから」



 呟いた早苗に対し、横に居たアリたんが静かな声で答える。



 「とても……そうは見えな……」「さぁ、教授。改めて本題の程を」



 アリたんの意外な言葉に、早苗が聞き返そうとした時……丁度、ユマがラシュヒに声を掛ける。



 「う、うむ! それでは述べさせて貰おう! この私が、君達の前に現れた理由……正確にはエニだった小春君の能力の為に来たのだ! 正確には小春君が生み出すモノ……つまり彼女の目玉を是非とも調べたいのだよ! その為に……」



 “ズゴゴゴゴ……!!”



 促されたラシュヒが目的を話している途中、突然大地が揺れ始めた。そして彼を拘束していたユマの鞭も空気に融ける様にゆっくりと消えてしまう。



 “パキキキキ!”



 それと同時に、ガラスが割れるかの様な音と共に……周りの風景が侵食されるが如く、灰色で染められた駄々広い空間に置き換えられていく。



 「その為に……君達は、この私と……“人形遊び”をして欲しいんだ!」



 置き換えられていく空間を余所に、ラシュヒは両手を広げて叫ぶ。



 その叫びに答える様に……変わってしまった空間の床から、何かが蠢き現れようとするのだった。


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