298)マッド訪問②

 奇妙な3人組の対応をする為に小春から替わった早苗。そんな彼女にドクロ男は話し掛ける。



 「……ふむ? 初めましてと言うべきか……確か貴女は早苗君とか言ったかな?」



 小春から早苗に替わった事をドクロ男は何故か察知し、問うて来た。対して早苗は特に不思議に思わず冷静に返答した。



 「ええ、そうよ……小春ちゃんと今は替わっているわ……。奇天烈な貴方達の相手は、お子様な彼女は負担でしょうから。貴方達……随分おかしな格好してるけど……リジェさんのお仲間でしょう?」


 「ああ、その通りだよ! 早苗君は理解が早くて助かるね。先ずは自己紹介と行こうか! 私はラシュヒ。向こうで学者をやっている。そして隣の彼女は……」

   


 ラシュヒと名乗ったドクロ男は横の女性を差す。すると彼女は涼やかに答えた。



 「……私はユマ……教授の助手を務めています。そして私の横に居るこの子は、ハミル……。こう見えて護衛を務めていますわ」


 「……うん……」



 ユマと名乗ったアイマスク女は自分の隣の少年を紹介する。ハミルと呼ばれた少年は一言だけ呟いた。



 紹介を受けた早苗はラシュヒと名乗った男に問い掛ける。



 「どうも。ご紹介頂いた所で……そのおかしな恰好はワザとかしら?」



 早苗にそう言われた3人組は向き合って何やらボソボソ言い合ってから真ん中のラシュヒが答えた。



 「ふむ……衣装については、ここに居る彼らの常識が分らなくてね。記憶転写は受けてはいるが……どうにも嗜好が理解出来ない。元々我々自身が、そう言った装いには拘らない習性だからだろうが……そこで……彼らが配信する映像資料から我々の衣裳を参照したのだが……やはり奇異に見えるのか……」



 ラシュヒの言葉を聞いた早苗が額に手をやって呆れながら呟いた。



 「……一体、何の映像を見たらそうなるのかお聞きしたいわ。まぁ、服装はどうでも良いのよ。貴方達はここに何しに来たのかしら? やっぱり、貴方達も覚醒の儀とかで……玲君と戦う為に?」



 声を低くして問い詰める早苗に、3人組は先程と同じ様に向き合って何やらボソボソ言い合ってからラシュヒが答えた。



 「確かに、アガルティア12騎士長の務めとしては覚醒の儀に参加すべきだが……私は見ての通り戦いは不得手でね。従って私の目的は別に有る。

 その一つは、この世界の……マールドムが築いた文明社会の情報取集かな。ハミル君が持っていた荷物もその一環で集めたモノだよ。随分と周り込んだ事を成す装置の様だが……どういった意図と機構で其れを成すのか解明したいと考えていてね。

 まぁ、我々からすれば完全に時間の無駄なんだが……確認したくなるのが私の性分なんだ」


 「……なるほど、お土産ツアーって事ね。随分変わり者のアーガルムの人みたいだけど……。玲君と戦う目的じゃ無いなら……どうして私達の前に現れたのかしら?」



 隠す事無く嬉しそうに自らの目的を話すラシュヒに、早苗は少々気が抜けた様子で尋ねる。



 早苗は、最初にラシュヒ達を見た時……ドルジやリジェ達と同様に、玲人と戦う心算で現れたと予想した。



 その為、最大限の警戒を持って接した訳だが……このラシュヒと言う男は、どうやら覚醒の儀が目的で来た訳では無さそうだった。



 「……良くぞ聞いてくれた!! 私が君達の前に現れたのは……君達にもの凄く興味が有るのだよ! それこそ閉じ込めて頬ずりしたい位に! 一度やって良いかね? はぁはぁ……」


 「「「…………」」」



 興奮して、とんでも無い事を言い出したラシュヒに、彼以外の者は全員絶句したが……。



 ラシュヒの横に居たアイマスク女のユマが、鞭を繰り出しラシュヒの顔を縛り上げた。



 “ぎゅるるる!!”



 「もがむむぐ!!」


 「……大変失礼しました早苗様。教授は興奮すると言語機能が麻痺してしまうので、不適切な発言が飛び出した様です。助手として代わりにお詫びします。どうか気を悪く無さらないで下さい」



 ラシュヒを縛り上げたユマは、頭を下げて丁寧に早苗に侘びた。傍に居た護衛の居た無口なハミル少年も頭を下げる。



 そんな中、意識奥に設けられたシェアハウスで、外の様子を見ていた仁那と小春本人が騒ぎ出す。



 “お母さん! この人、何か嫌な感じするよ! 私の前世でも悪い事したんだ、きっと!”


 “わたしも、昔……悪い想い出が有る様な……。とにかく危険です!”



 前世で、エニだった小春はラシュヒに研究目的で連れ去られた過去が有り、エニの義母であるマセスが強くラシュヒを咎めた経緯がある。


その過去により小春とマセスだった仁那が、ラシュヒ本人に嫌悪感を抱いている様だった。



 「あらあら……珍しく、仁那ちゃんや小春ちゃんまで臨戦体制よ? よっぽど、そこの博士がヤバいのね。と言う事で……燃やしていい?」


 「!? ンググゴ!」



 自分を虐めていた恵美でさえ許す小春と仁那が、揃って怒るのは初めての事だった。


 その事より、ラシュヒが危険人物だと察した早苗が、燃やそうとすると……縛られたラシュヒが涙目で身悶えする。



 「この店を出た後ならご自由にどうぞ。こんな素敵なお店に御迷惑を掛けたくありませんから……。燃やすのはご自由ですが、教授は腐っても12騎士長が一人……。燃やした位なら大したダメージを受けません。

そこで、燃やした後……土の中に埋めてしまいましょう。僭越ながら、この私も横に居るハミルも揃って、ご協力させて頂きます。我々が来た目的は埋めた後にお伝えしますわ」


 「もご! うごごむぐ!?」



 ユマは、あっさりとラシュヒを見捨てると、ハミル少年も何度も頷き上司を裏切った。


 部下に揃って裏切られたラシュヒは、必死な顔で盛大に暴れるが、強力に縛られた鞭で抵抗できない。



 「……この辺りで、博士を燃やせて埋めれる程の広場は有りますか?」


 「それなら、公園のバーベーキューエリアなら大丈夫よ。でも、流石に目立たない?」


 「大丈夫です、ヘレナ様に御願いして認識阻害を掛けて貰います。ヘレナ様も教授の早苗様達に対する無礼を知れば……進んで協力頂けれるでしょう……」



 焼き芋を焼く様な感覚で、ラシュヒの処刑場所をユマは早苗に問う。


 早苗が思い付いた公園を懸念天と共に伝えると、ユマはすぐさま対応策を返した。



 「……貴女は、そんな恰好してるけど……話が分かる人ね? 気に入ったわ」


 

 「有難う御座います。教授の至らぬ所のフォローをして長いものですから。今回の件も御会いしていきなり教授が暴言を吐いてしまいましたが、早苗様にご理解頂き何よりですわ……。ですが、けじめは必要です。さぁ行きますよ、教授」


 「むぐお!? うぐぐ!」



 早苗は、色々と気が効くユマを気に入り褒めると、彼女はラシュヒの仕出かしたフォローが長い様で淡々と答えた後……ラシュヒを引き摺ってファミレスを後にした。



 早苗も溜息を付いて、ユマ達に同行するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る