297)マッド訪問①

 ドクロ姿の不気味な3人組が現れたファミリーレストラン。



 そこで働く店員の柴田友美は……その姿を見て絶叫した後、危険を感じ叫ぶ。



 「け、警察!!」



 友美が慌てて携帯端末を取り出そうとしている隙に、おかし過ぎる3人組は店内に入って来ようと入口に向かう。



 ドクロを先頭に真黒いアイマスク女、次いで白衣の少年がぞろぞろと入って来ようとしたが、少年の持つ荷物が多すぎてドアに引っ掛り入れない。



 「?…… ?……」



 白衣の少年はぐいぐい引っ張るが無駄の様だ。少年が抱える荷物はパソコン、テレビ、電子レンジ等々大量の電化製品だった。



 どういう仕組か、特に紐で縛っている訳でも無いのに一塊に纏まり、相当な重さになるであろうその荷物を、少年が片手で持っている。それだけでも異常な状況だ。



 「「「「…………」」」」



 事の成り行きをファミレス店内の客達や小春達、そして従業員の友美達が見守っていた。



 「?…… ?……」



 まだ、ぐいぐい引っ張る少年を見て、黒い板状のアイマスク姿の女性が少年に囁く。



 「……馬鹿ね……大事そうに持たず、一旦“収納”なさい……」



 店内に荷物が引っ掛って入れず不思議そうな顔をしていた少年は、女性の声を聞いてニッコリと笑って何やら呟いた。



 すると不思議な事に、少年が持っていた大量の荷物は一瞬輝き、魔法の様に搔き消えてしまったのだ。



 その様子を見たドクロは呟く。



 「……ふむ……それではいいかね?」



 そう言いながら連れ立って入ってくる3人組。対して友美は盛大に顔を引きつらせて嫌々対応する。

 


 「……あ、あの……お客様? どどど、どういったご用件で……?」



 ファミレスで用件を聞く事自体おかしいが、正直、店内に入って欲しくない友美は敢えて聞いてみた。



 するとドクロの男はすっと小春の方を指差し、呟いた。



 「……彼女に用が有るのだよ……」



 そう言ったドクロ男の言葉に、友美は“またか!?”と脳内で叫びながら、シドロモドロで頑張ってドクロ男に答えた。



 「そ、それでは……あちらの席へ……」



 そう言って、小春達が座っている席の真横の席を案内した。




   ◇   ◇   ◇




 座席に座った3人組は、全員が一斉に小春の方を一心に見つめている。



 気味の悪いドクロの男を中心に、表情の読めない黒いアイマスク女に、無表情の少年。 



 「「「…………」」」



 関連性の無さそうな、珍妙で不気味な3人組が……小春の方を無言で見つめる姿は、恐怖でしかない。



 その状況に、彼女の友人である由佳が思わず呟く。



 「……小春ちゃん……あ、あの人達、知ってる人?」



 由佳は小春に問うが、彼女は知る筈も無いので首を横に振る。



 そんな中……驚き戸惑う小春の意識奥から、早苗が声を掛けた。



 “小春ちゃん……。多分、この人達……例の連中よ?”



 早苗に言われた小春は、ハッとして問い返した。



 (!? も、もしかして……! この人達、リジェさんとかの仲間でしょうか!?)


 “ええ、間違い無いわ。小春ちゃん、危険かも知れないから、由佳ちゃんは帰らせた方が良いわね”


 (は、はい……! 分りました!)



 早苗に促された小春は、彼女に答えた後……由佳に向けて声を掛ける。



 「あ、あの! 由佳ちゃん! この人達、今思い出したけど……し、親戚の人だった!」


 「えええ!? 何だか、今創った設定っぽいよ!?」

  

 「ほ、本当! だ、大丈夫だから……!」


 「で、でも……」



 小春が由佳を巻き込まない為の小春の嘘は……べた過ぎて、すぐに由佳に見抜かれた。


 言い訳した小春だが、逆に由佳から心配され食い下がられる。



 そんな様子を見ていた、ドクロ男がいきなり立ち上がり、由佳の横に立った。



 「ひぃ!!」



 悲鳴を上げる由佳に、ドクロ男は気味悪く笑って囁いた。



 「……君……“大事な用が有るんだろう? そろそろ帰った方が良いよ?“……」


 「!?……」



 ドクロ男に囁かれた、由佳は一瞬ビックリした顔を浮かべたが、途端に顔の表情が無くなり、幽鬼の様に立ち上がった。



 「ちょ、ちょっと!? 由佳ちゃん!?」



 突如、ふらっと立ち上がった由佳にビックリした小春は彼女に声を掛けるが……由佳は無表情のままで静かに話した。



 「……大事な……用を思い出した……だから……帰るね……」 



 そう呟いて由佳はフラフラとファミレスから出て行った。その様子に一瞬呆気に取られた小春だったが、慌てて呼びに行こうと立ち上がった時にドクロ男に声を掛けられる。



 「……待ちたまえ、エニ……君の友人は問題ない……“家に帰る”という用事が出来ただけだ。家に帰った後、暫くすれば思い出すから何の心配も不要だよ?」


 「あ、貴方はやっぱり……!?」



 ドクロ男に“エニ”といきなり呼ばれて小春は驚いた。エニと言う名は玲人や安中など自衛軍の一部の人しか知らない筈だ。



 にも関わらず、エニと呼んだドクロ男の正体が、早苗の予想通りであると理解した小春は、驚き叫ぶ。



 ドクロ男は、戸惑っている小春を余所に何やら呟く。



 「……しかし……モノマネしてみたけど、ディナの様にはいかないな……ぎこちなさが目立つ。やはり、操る事に関しては流石に彼女には勝てないね……」



 そう呟いた後、ドクロ男は由佳が去って空いた座席に座る。



 そして彼の横に、相次いで黒いアイマスク女と無表情な少年が改めて座った。全員、小春の前に座った所でドクロ男が挨拶する。



 「……久しぶりだね……エニ……一万と3000年振り……。私の事は覚えているかい? ほら、城で一緒に遊んだり……研究に付き合って貰って、マセス様とディナに怒られたり……」



 “ギュルルル!!”



 ドクロ男が話している途中で、横に居た黒いアイマスク女の持つ鞭がドクロ男の顔を縛り上げ、口を塞いでしまった。



 「ムグモガガ……」


 「……教授? 余計な事は言わない様にとトルア様から言付けされておりましたでしょう? もうお忘れになられのですか?」


 「多分……そう……」



 アイマスク女は静かに教授と言われたドクロ男に話し掛けた。白衣の少年は彼女の言う事に抑揚の無い声で同意する。



 教授と言われたドクロ男はアイマスク女の鞭で縛られながら、身振りで“思い出した”といった感じで左の手の平に、ポンと握り締めた右手を打つ。



 アイマスク女の一言に相槌を打って、ジェスチャーで答えた様子だ。



 その様子を見たアイマスク女は、鞭をほどいてドクロ男の顔を露出させる。



 「ふう! いきなり酷いねユマ君は! 横に居るハミル君も止めてくれたまえ! 君は一応僕の護衛なのだろう!?」


 「博士の暴走を止めるのが助手である私の仕事ですから」

 「……野暮はダメ……」



 そんな会話を続ける三人の様子を恐怖と戸惑いの目で見る小春だったが、そんな彼女の脳内に仁那の声が響いた。



 “小春ー! この人、何か危ないよ! 特に小春は近付いたらダメ! きっと捕まって解剖される!!”


 (ええ……何それ、怖い……)



 脳内から危険信号を出した仁那に対して、小春は本気で怯える。


 そんな二人のやり取りをシェアハウスで聞いていた早苗が、小春に声を掛けた。



 “小春ちゃん……目の前の奇人さん達は……私が対応してあげるわ”


 (ええ!? 良いんですか? 替わって貰って……何か怖そうですよ、あの人達……)



 早苗の提案に正直ほっとした小春だったが、アイマスク女がいきなりドクロ男を鞭で縛った事等より恐怖を感じていた。



 対して早苗は何も感じていない様で明るく返答する。



 “特に問題無いわ! 大丈夫、替わって”


 (……それじゃ、お願いします……)


 こうして奇妙な3人組の対応に早苗が替わったのだった……。


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