296)3人の奇人

 自らの意志で、早苗に差し出されたニョロメちゃんを取り込んだ由佳。そんな由佳に 早苗と意識を交替した小春は、声を掛ける。



 「……由佳ちゃん、早苗さんがゴメンなさい。それで……由佳ちゃんが取り込んじゃったニョロメちゃんだけど……嫌だったら外すね」


 「ううん。それは良いよ、小春ちゃん。早苗さんって人との約束だから……このままで良いんだ。それよりも……小春ちゃん達は、魔法みたいな力が使えるんだね」


 「まぁ……色々有ってね……。でも、内緒にしてって他の人から言われてて……。能力の事だけじゃ無く……仁那や早苗さんとわたしが一緒って事も、本当は話したらダメなの。仁那が由佳ちゃんに言っちゃったけど……どうか、誰にも言わないでくれる?」


 「うん。さっきも言ったけど早苗さんとも約束したし……何より、もう二度と、小春ちゃんを裏切る様な事はしないよ」



 困った顔を浮かべて頼んだ小春に対し、由佳は迷いなく明確に答えた。



 「……有難う……由佳ちゃん」


 「お礼を言うのは私の方よ、小春ちゃん。私を助けてくれたし……。しかも……小春ちゃんと、もう一度友達になれて、新しく仁那ちゃんとも仲良くなれた。本当……今日は夢みたいな日だね」


 「わたしも! 由佳ちゃんと仲直り出来たのと、仁那と由佳ちゃんが仲良くなれた事は、本当に嬉しかった! だから……お祝いしよう!」


 「うん!」



 小春と由佳は、手を取り合い笑顔で乾杯する。


 色々な事が有り壊れてしまった友情が、もう一度復活した事は……二人に取って本当に嬉しい事だった。




 そうして小春と由佳は、今まで話せなかった互いの近況を語り合った。途中、由佳の新たな友人となった仁那と交代したりと、楽しく賑やかな時を過ごすのだった。

 


 

 「……それでね、その時は……」



 明るさを取り戻した由佳が、小春に話し掛けている最中に……小春の脳内で仁那が何やら言いだした。


 “小春ー! ちょっと!”



 対して小春は話している由佳に相槌を打ちながら、脳内で仁那に返事する。



 (仁那、さっき替わったばかりでしょ? 後で替わってあげるから、もう少しだけ待っ……)


 “違うわよ、小春ちゃん! 仁那ちゃんが言いたいのは……外の様子がおかしいって事よ”



 小春が脳内で仁那を諭している所に、早苗が割って入った。対して小春は怪訝な思いで彼女に答える。


 (……早苗さん、何言ってるんですか……外の様子がおかしいって? そんな事、何度も有る訳無いじゃ……!?)


 「ギャアア!!」


 「キャアア!」



 小春は早苗に促されるまま、ファミレスの外を見て思わず叫んでしまった。その様子を見た、由佳も小春の見ている窓を見て思わず悲鳴を上げる。



 窓の外に居たのは奇妙な三人組だ。


 特に、小春は真ん中の男を見て小春は叫んでしまった。恐らく由佳も同じだろう。



 何故ならその男の顔はドクロそっくりの顔だったからだ。正確には、目の周りを大きく真黒く塗られていたからドクロの様にしか見えなかった。



 ドクロ男の格好も奇妙で……着ているのは手術着だが、色々変だった。


 元は白色であろう手術着は赤やら青やら、蛍光色やら気持ちの悪い染みが付いていた。更に男は頭に真っ黒なシルクハットをかぶり、小春の方を一心に見つめている。



 男の右隣に居るのはまだ幼い小柄な少年だ。美しいブロンドと金色の目を持った麗しい顔だちだが、ドクロ男同様服装が変わっていた。


 ダボダボの大きな白衣を着ており裾は引き摺る様に長い。


 白衣のボタンは掛け違えておりズレたまま着ている為、サイズの合っていない白衣と相まって全く不自然だ。


 小柄な少年はその背丈に似合わない大量の荷物を持っており、大きさ的には一人の人間が持てる重さでは無さそうだが気にせず難なく持っている。



 ドクロの男の左横に居るのは、女性の様だが彼女の様子もおかしい。

 

 完全に大人の女性のボディイラインだったが、ゴスロリファッションで身を固め、豪奢な丸みのついた黒い日傘を持っている。


 そして恐らく何も見えない様な黒い板の様なアイマスクをしており、美しそうなその顔は素顔が見えない。傘を持っていない右腕には長い鞭の様なモノを持っている。




 窓の外の奇妙な3人組に驚いた小春達は、大声で悲鳴を上げてしまった。


 その様子に気付いたファミレスのバイト店員が音も無く近づいて、小春達に声を掛ける。



 「……お客様? 大変、恐れ入りますがもう少しお静かに……!? ギャアアアアア!!!」



 バイト店員は満面の笑顔で小春達を窘めようとしたが、窓の外のドクロに気が付いて、小春達以上の叫び声を店内に響かせるのであった……。




  ◇  ◇  ◇




 ファミレス女性店員である柴田友美は……夏休み中の気が重いバイトの中で、見知った顔を見つけて内心喜んだ。



 それは2人組の少女だったが、その内一人は最近良く来てくれる少女だ。



 彼女の事は忘れられない。



 最初にこの店に来た時は大騒ぎする迷惑な客だった。しかし少女は、この時に幸運を齎(もたら)したのだ。



 色々あって少女(小春)の前に現れたおかしな3人組。その3人組を窘める為に現れた憧れの美の女神シャリア先輩……。



 彼女は柴田友美が通う女学校の先輩で……美しく気高い女性である為に崇め称えられる存在で、ファンクラブも作られている。



 友美もそのファンクラブの会員であり、シャリアに異常な程に崇拝していた。



 そしてあの時、例の少女を前にシャリア先輩はあろう事か、少女(小春)で跪いたのだ! 



 次に、この少女が現れた時も……憧れのシャリア先輩は彼女に会いに来た。それも切れ目の美しい美女と共に。



 その時は、切れ目の美しい美女(リジェ)が少女(小春)に抱き着いて大喜びし、シャリア先輩も、満面の笑顔で少女を見つめていた。


 シャリア先輩とこの少女との関係は、事情を良く知らない友美から見ても……非常に親密だった。



 どちらかと言えば、少女(小春)に会う為に訪れるシャリア先輩の方が、彼女に対して強い家族の様な親愛を示していた。



 そんな出来事が続いた為……この少女が現れた今日、友美は内心小躍りした。



 (また今日も、シャリア先輩に会えるかも知れない!)



 そんな期待を胸に、接客しながら小春達の様子を伺っていると、彼女達が大声で叫んだ。



 “ヤレヤレ……、これは私の出番だ”と思い勇んで小春達の元へ向かう友美。



 満面の笑顔でいつもの営業トークを口にする。



 「……お客様? 大変、恐れ入りますがもう少しお静かに……!? ギャアアアアア!!!」



 ファミレス店員の柴田友美は、小春達に笑顔で窘めている最中に、彼女達が一心に見つめる窓を見た瞬間、絶叫した。


 


 それもその筈、ドクロ姿のリーダーとした……おかし過ぎる3人組が窓の外に居た為だった。



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