295)新しい友人

 路地裏で、伊原恵美から虐められていた小川由佳を助けた小春は……彼女を由佳を落ち着かせる為にファミリーレストランへ入る。



 そこで……由佳は、小春と意識を替わった仁那から、驚きの事実を知らされた。



 小春の中に……仁那と早苗と言う別な存在が同居している、と言う秘密を。



 その秘密を聞かされ、驚き固まっている由佳に、仁那(体は小春)は一番言いたかった事を伝える。




 「あ、あのね。由佳ちゃん……。由佳ちゃんは小春に、沢山……謝ってたけど……小春なら、全然気にしてないから! 小春はね、いつだって……困ってる人の為に、凄く頑張る良い子なんだよ? ずーっと昔からそうなんだ! だから、私もお母さんも、他の人も……そして由佳ちゃんの事も助けてくれたんだ」


 「……そう、そうなのね……? 信じられ無い事だけど……に、仁那ちゃんで良いのかな? 仁那ちゃんの話は、嘘じゃないって分る……。仁那ちゃん、貴女も……小春ちゃんに助けられたんだ……」



 小春の事を伝えた仁那に、由佳は彼女が、自分と同じように助けられた事を理解した。



 「そうそう! だから、私と由佳ちゃんは、同じだよ! 私と小春は、同じ体に一緒に居るから、小春の考えが分るんだ。小春は由佳ちゃんの事、悪くなんか思ってない。だから、安心して?」


 「に、仁那ちゃん……。うぅ……。あ、ありがとう」



 自分の事を慰めてくれる仁那に、由佳は感極まって泣き出す。



 「うんうん、ね! 由佳ちゃん、私とお友達になろう! そしたら、私と一緒に居る小春とも仲直り出来るし、お母さんとも友達だよ!」


 「い、良いの? わ、私なんかで……?」


 「うん! 私、自分から名前を言ってお友達になった人、小春以外居なかったんだ! だから、私からも、お願い!」


 「う、うぐ……! うん!」



 仁那(体は小春)から手を握られて、お願いされた由佳は、涙ながらに応えたのだった。



 こうして、かつて小春と言う親友を裏切ってしまった由佳は……仁那と言う新しい友を得て、小春との友情を取り戻した。


 由佳は……もう二度と、彼女と新しい友人である仁那を、裏切らない事を誓った。




 ◇  ◇  ◇




 「ぐすっ、良かった……由佳ちゃん。それに有難う、仁那……。早苗さんの言う通り、仁那に任せて大正解でしたね」


 「まぁね、自慢の娘ですから。仁那ちゃんにとっても、今回の事は良い体験になったと思うわ。あの由佳って子は仁那ちゃんにとって、新しい友達になった訳だし……。

 所で……私も、あの由佳って子の“友達”になった訳だから……一言、挨拶しとかないとね」



 意識奥に設けられたシェアハウスの中で、外の様子を見ていた小春は……由佳が慰められた事に安堵し、涙ながらに話す。



 同じ様にシェアハウスから、仁那達の様子を見ていた早苗は嬉しそうに答えた後……低い声で意味有り気に呟いた。



 「……早苗さん、由佳ちゃんに酷い事したらダメですよ?」


 「あら、心外ね! 小春ちゃん。由佳ちゃんは、仁那ちゃんのお友達になったのよ? 酷い事なんてしないわ。だから、安心して。ちょっと仁那ちゃんと替わらせて貰うわ。

 ……仁那ちゃん! 私も由佳ちゃんとご挨拶したいわ。少し替わって貰えないかしら!」



 ジト目で問う小春に、早苗は満面の笑顔で答え……意識交代を仁那に向けて呼び掛けたのだった。




  ◇  ◇  ◇




 「……改めて、ご挨拶させて貰うわね……由佳ちゃん。私は、早苗……さっき貴女が話していた仁那ちゃんの母親よ」


 「は、はい……」



 仁那と替わった早苗(体は小春)は、向かい合って座る由佳に向けて静かに話し掛ける。


 対する由佳は、ついさっきまで話していた仁那と、明らかに違う早苗に緊張しきりだ。



 「……随分、緊張してる様だけど……流石に私が仁那ちゃんや小春ちゃんとは、違うって分る様ね?」


 「はい……だって、雰囲気とか……全然、違うから……」



 問うた早苗に、由佳は怯えながら答える。


 何故なら早苗は……仁那や小春と違い、由佳に対し友好的とは思えない、冷たい視線を向けているからだ。



 そして……仁那の話では、路地裏で恵美達を制裁したのは……他ならぬ、この早苗と言う事らしい。



 悪いのは恵美達とは言え……早苗が恵美達にして見せた制裁は、苛烈で容赦無かった。


 その事より、小春と同じ外見だが……早苗と言う女性は気安く接して良い存在とは、とても思えなかった。



 由佳が、緊張で身を固くしていると……。



 「大体、私の気持ちが分かってくれてるみたいだから……正直に話すとね。私は、貴女を助ける事に反対だったわ。だって、貴女は……少し前、小春ちゃんを手酷く見捨てたからね。そんな貴女が、どうなろうと……自業自得な、ざまぁ展開だと私は思ってた」


 「!? そ、その通り……だと、思います……。う、うぅ……」



 ズバッと本音を言った早苗に、由佳は身を震わせながら涙を浮かべ答える。



 「そうね、だから私は……貴女を助けようとした小春ちゃんを止めたのよ? だけど、小春ちゃんと仁那ちゃんに押し切られちゃったわ。

 ……うん? 小春ちゃん、ちょっと静かにしてよ。別に虐めようって訳じゃ無いんだから。仁那ちゃんまで、一緒になって……! 大丈夫、お母さんに任せてね?

 フフフ……。ふぅ、ゴメンなさい。頭の中で、小春ちゃんと仁那ちゃんが……二人して、私を止めるのよ? “由佳ちゃんを虐めないで”ってね」


 「……そうなんですか……。小春ちゃんと仁那ちゃんが……」



 由佳にキツイ言い方をする早苗に対し、意識奥から小春と仁那が制止している様で……早苗が苦笑する。


 それを聞いた由佳は、小春達に感謝しながら呟く。



 「……貴女は恵まれているわね? 小春ちゃんと仁那ちゃんが助けてくれるのだから。本当は貴女の前に、私は出てくる心算は無かったんだけど……仁那ちゃんが私達の秘密を話しちゃったから……保険は必要かなって思って」



 そう話した早苗は、上に向けて人差し指をピンと立てる。すると、その指先に一つ目の人魂の様な形をしたニョロメちゃんが現れた。



 「それは……確か、路地裏で……」


 「そう、これで……あの恵美って小娘を犬にした、絶対に外れない犬の首輪……。私達の秘密を知った貴女を野放しには出来ないわ。

 貴女は小春ちゃんと仁那ちゃんのお友達だけど、私に取ってはそうじゃ無い。私が一番、大切なのは家族よ。だから……その家族である小春ちゃんを裏切った貴女の事を、私は信用する気になれない。

 小春ちゃんに本気で侘びる気が有るなら、こんな首輪、どうって事無いでしょう?」



 生み出されたニョロメちゃんを見て、由佳が思い出した様に呟くと、早苗はニッコリと笑いながら問う。



 

 そんな様子をシェアハウスから見ていた小春と仁那が、我慢出来ずに声を上げる。




 “早苗さん! 由佳ちゃんに酷い事しないって約束だったでしょう!? そんな脅しみたいな事、止めて下さい!”


 “お母さん、由佳ちゃんを虐めないで!”


 (ダメよ、二人共。あの由佳って子が私達の秘密を知った以上……放っては置けない。それに……このエロメちゃんは、あの子を守る為……)



 小春と仁那から反発を受けた早苗が、彼女達に反論している時だった。



 由佳は、少し動きを止めた早苗(体は小春)の手を掴んだかと思うと……。



 “グイッ!”



 その手の先に浮いていたニョロメちゃんを、自分の胸に押し付ける。すると……ニョロメちゃんは抵抗なく、由佳の体に吸い込まれた。



 「こ、これで良いんですか!? 早苗さん、貴女の言う通り、私は犬になる為の首輪なんて平気! そんな事より……小春ちゃんや仁那ちゃんと友達になれる方が大事です!」


 「フン……それなりに本気の様ね。……まぁ良いでしょう。私は貴女にどう思われても平気だけど、一応誤解が無い様に言っておくわ。

 今、貴女の中に仕込まれたエロメちゃんだけど……操る以外に、別な役割が有るの。それはね、貴女の居場所を知らせ、私達が意志を働かせば貴女自身を守る事も出来る」



 由佳は自分の体にニョロメちゃんを取り込んだ後、早苗に向けて宣言する。


 対して早苗(体は小春)は、彼女にニョロメちゃんを仕込んだ理由を伝えた。



 早苗としては……由佳を縛る目的よりも、小春の親友メイの時みたいに、彼女自身を守る為の保険としてニョロメちゃんを仕掛けた様だ。



 「私は気にしないけど……由佳ちゃんは小春ちゃんと仁那ちゃんの友達になったでしょう? 仁那ちゃん達の為に、貴女の事もついでに守ってあげる。私の用事は終わりよ……。今、小春ちゃんに替わるわ」



 早苗は、由佳に言い放って小春と意識を交替したのであった。


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