294)告白
駅前の小春御用達のファミリーレストラン……。ここに故在って小春と由佳は共に居た。
しかし、今……由佳は、飲み込む勢いで食べまくる小春(?)の様子に驚愕していた。
「あ、あの……! こ、小春ちゃん……あ、あんまり食べ過ぎない方が……」
「ぜーんぜん平気! んぐ! モグモグ」
余りの食べっぷりに、由佳は心配して控えめに制止するが、小春(?)は全く聞かない。
その様子を……小春当人は意識奥に設けられているシェアハウスで、早苗と共に見ながら……大いに焦っている。
どうやら、今……小春の体を使っているのは仁那の様だ。
シェアハウス内で、外の様子をオロオロしている小春の横で、早苗が何かに気が付き呟く。
「……あら……? 恵美ちゃんも往生際が悪いわね。ふう、モテる女は苦いわ……」
「早苗さん!? 何を呑気に一人語ってるんですか!? 仁邦の暴走を! 何とかしないと!」
伊原恵美にニョロメちゃんを仕込んだ早苗は、恵美が小春達に反抗的な考えを持っている事を感じ……呆れながら呟く。
そんな中、小春はレストランで大食いしている仁那に狼狽し、叫んでいた。
この状況になったのには理由がある。……切っ掛けは小春が由佳を路地裏から連れ出した後の事だった……。
◇ ◇ ◇
由佳を路地裏から連れ出した小春は、罪悪感の為か……突然ボロボロと泣き出した彼女を落ち着かせる為、駅前のファミリーレストランに入る。
なお、カリュクスの騎士であるローラ達とアリたんは……このファミリーレストランに入る時点で小春と別れた。
小春は引き留めたが、各々用事が在ると言って笑顔で去って行った。彼女は知らなかったが、護衛とサポート役である彼女達は、どんな時でも小春の傍を離れない。
由佳を慰める小春の負担にならない様に、姿を隠しただけだった。
駅前のファミリーレストランは、小春御用達のお店であり……友達と会う時は大体此処だ。
此処で友達で会っていると……何故か、厄介ごとに巻き込まれる。
最初は……親友のメイと会っている時に、この店へカリュクスの騎士であるローラ達が仮面とローブを羽織った状態で、やって来た。
ローラ達とは、今ではすっかり友達だが……奇異な格好のお蔭で騒ぎになり、小春は大いに困惑したのだ。
次は、晴菜と会っている時に、リジェが現れた。此処では騒ぎにならなかったが……後日、国立美術館での戦いに巻き込まれ、結果的に大騒ぎになった。
二度ある事は三度ある……。
何となく、そんな諺(ことわざ)が小春の脳裏に浮かんだが……泣き出した由佳の為に、すぐ近くに有った此処に入店したのだ。
脳裏に浮かんだ、嫌な予感は隅に追いやって……取り敢えず、小春は大泣きする由佳を慰めた。
ファミリーレストランのダイニングテーブルに座った途端……由佳は小春に対し、謝罪の言葉を繰り返した。
彼女が言うには、恵美と取り巻きの少女達から……小春と距離を置くよう、強制されたらしく……勇気が無かった由佳は、脅しに屈して小春を無視してしまったらしい。
どんな理由でも、小春を傷付けてしまった事に変わりは無く、由佳は涙ながらに謝罪を続けた。
小春としては、由佳から嫌われて無かった事に安堵し、この件は終わりにしようと彼女に提案する。
しかし、由佳は尚も謝罪を続けるので、小春は空気を変える為にデザートを共に食べる様に勧めた。
結果的に、これで由佳は落ち着きを取り戻し、笑顔で話せるようになったのだが……そのタイミングを見計らう様に、小春の意識奥に住まう猛獣(小姑の方)が暴れ出したと言う訳だ。
“小春ー!! 替わってー!!”
(えー? 今……由佳ちゃんを慰めてる所だから……仁那、もう少し待って!)
メニューを見ていた小春の意識奥から、お子様の仁那が叫び出した。メニューに描かれた美味しそうなデザートや食事に我慢出来なくなった様だ。
そんな仁那に、小春は事情を話して制止するが……ここで、シェアハウスに居た早苗が口を出す。
“まぁまぁ、小春ちゃん……此処は仁那ちゃんと替わってあげて貰えないかしら? 仁那ちゃんには、同年代の子と一緒に過ごす体験が必要だと思うの……。だって、もう間も無く、二学期が始まるでしょう? 慣れるのは丁度良い機会だと思うわ”
(うーん、そう言えば、もう二学期ですね……。分りました。そう言う事なら……。仁那、替わっても良いけど……由佳ちゃんを慰める事を忘れないでね?)
“うん、分った! 任しといてよ、小春!”
早苗の言う事も、もっともだと感じた小春は仁那に声を掛けると、彼女は元気よく答えた。
そんな訳で……小春は、仁那と意識を替わったのだが……。
結果は予想通り、仁那の暴走がコントロール不能になって……いつもの様に小春が意識奥で叫ぶ状況になった、と言う訳だった……。
◇ ◇ ◇
「あー! 仁那、由佳ちゃんの目の前なのに! もう少し、大人しくして!」
「良いじゃないの、元気な証拠で。所で……恵美ちゃんの事どうしよう……。うーん、葵ちゃんも何やら企んでるみたいだしね……薫子姉様とアリたんに任せちゃおうか。どうせ、二人とも大した事出来ないし」
シェアハウスで仁那の暴走を見て、頭を抱えて叫ぶ小春に対し、早苗は少し思案していたが、どうでも良い事の様に呟く。
そんな中……。
「フフ、アハハ」
暴食する仁那(体は小春)を見ていた、由佳が笑い出した。それを見た仁那が食べるのを止めて彼女に問う。
「どうしたの? 何か面白かった?」
「アハハ! だ、だって……! 小春ちゃん、あんまり美味しそうに、いっぱい食べるから、可笑しくって」
急に笑い出した由佳に、仁那(体は小春)が問うと、彼女は面白そうに答える。
「ホントは小春にあんまり、食べちゃダメって言われるんだけど……。私は病気で14年間、何も食べれなかったから……。こうして小春の体で、食べれる様になったのが嬉しくて……」
「……え……? だって……小春ちゃん、普通に学校で昼ご飯……食べてたよね……?」
問われた仁那(体は小春)は、呟く様に答えると……由佳は学校で元気そうに過ごす小春の様子を思い出しながら、問い返す。
「今の私は、小春じゃ無いよ? 消えて無くなりそうだった私は、小春に助けて貰ったんだ。助けて貰ったのは私だけじゃ無いの。私のお母さんも、小春は助けてくれた。それで私とお母さんは、小春と一緒になったんだ。さっき、イジメッ子をやっつけたのはお母さんだよ」
「え? え? どう言う、事?」
仁那は、由佳に問いに子供っぽく答えた。対する由佳は事情が呑み込めず、戸惑い混乱する。
戸惑う由佳の様子を、意識奥のシェアハウスで見ていた小春は大慌てで制止する。
「ちょ、ちょっと! 仁那……! わたし達の秘密を他の人に話したら……」
「小春ちゃん、此処は仁那ちゃんに任せましょう? あの子なりに、由佳って子の事……何とかしよう、って思ってるみたいだから……。信じてあげて」
「……分りました。早苗さんの言う通り、仁那を信じて見ます」
早苗に優しく声を掛けられた小春は、納得するのであった。
そんな中……外の世界に居る由佳が、戸惑いながら呟く。
「……普通じゃ、考えられないけど……何でか、今の目の前に居るのは……小春ちゃんじゃ無い様な気がする。そ、そう言えば……さっきの路地裏の小春ちゃんも、全然別人だった……。まさか、貴女が言ってる事は……本当の事なの?」
「そーだよ、私の名前は仁那! さっきも言ったけど、イジメッ子をやっつけたのは私のお母さんね。今、小春の体を使ってるのは私だから、お母さんと小春は“中”で休憩中だよ」
「…………」
自己紹介をした仁那に、彼女の話が真実だと理解し始めた由佳は、驚きの余り絶句するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます