293)愚かな犬

 早苗(体は小春)に煽られて、逆上した取り巻きの少女は彼女に掴み掛かったが……。


 瞬間的に現れたローラ達、カリュクスの騎士に腕を捻られ、地面に押さえ付けられる。



 現れたローラ達に向け、早苗は声を掛けた。

 


 「……制服、似合っているわよ?」


 「うむ、世辞とは言え、感謝する……早苗殿……」


 「貴女達が来てくれたなら、もう良いかしら……。主犯の恵美ちゃんにはエロメちゃん仕掛けたから安心だし……。それじゃ小春ちゃんに替わるわね?」



  立ち上がって言い放ったローラに向け、早苗は笑顔で話した後……小春と意識を替れた。



 「……ん……全く……早苗さんは、やり過ぎるんだから……。所で、ローラ、キャロ、レーネ……。守ってくれて有難う。それとアリたんもね」



 意識を替わった小春は……ローラ達やアリたんに礼を言うと……彼女達は心底嬉しそうな顔で小春を囲む。



 小春を囲んで楽しそうに談笑するローラ達を見て、呆気に取られていた取巻きの少女達や由佳だったが……その視線に気付いたローラが、彼女達の方を向き直り話しだす。



 「我ら三人は、小春の忠実な僕(しもべ)にして護衛……。小春に害を成すと言うなら、 子供とは言え容赦はせんぞ」


 「私達も9月から小春と同じ上賀茂学園のクラスメイトだから……下手な事はしないでね?」


 「アタシらは……早苗殿程、優しくは無いぜ」



 ローラ達3人は、土下座したまま……一言も話せない恵美や、呆気に取られた取り巻きの少女達に向かって言い放つ。



 そんな中……小春は、何か居たたまれない気持ちになって小さく話す。



 「も、もう……由佳ちゃんに……悪い事しないで下さい! お願いします」



 恵美達にそう言った小春は……理解の伴わない由佳の手を掴んで、路地裏から出て行った。



 由佳は小春に連れられ……ローラ達やアリたんも、小春の後を付き従う。




 残された恵美と、取巻きの少女達は……。



 「……あの石川って奴……色々本気でヤベェ」


 「うん……何か……普通じゃない……。出来る事なら関わらない方が……」



 取り巻きの少女達は、青い顔をして話し合う。



 「もう……私ら詰んだよ……親に何て言おう……」


 「さっきからバンバン連絡来てる……。親やら、友達やら……学校にも行けないよ」


 「そうだ……! あの浮いてる変な奴、言ってたじゃん! 石川の方に付けば……晒すの収えてくれるって……!」



 彼女達の一人は話し合う内に……小春に請うて許して貰う事を思い付く。



 「だけど……許してくれるかな? さっきの石川……学校の時とは別人みたいにヤバかった……。怒らしたら、本気で私ら殺されるかも……。何か魔法みたいな力、使えるし……」


 「そうだね……それに外人のボディガードみたいなのも、子分にしてたし……。でも、何とかして貰うしか……」



 取り巻きの少女達は、小春に現われた様々な変化に、彼女が唯の女子中学生では無い事を、流石に理解した。



 しかし、この愚かな少女は違った様だ。



 「な、何言ってんのよ! こんな風に舐められたままで! 良い訳無いでしょ!!」



 そう叫んだのは伊原恵美だ。



 小春が路地裏から去った時点で、ニョロメちゃんの支配が解けた様で……強制土下座から立ち上がって息巻いている。



 しかし……恵美の取り巻き“だった”少女達の対応は、極めて冷ややかだった。



 「……恵美……アンタ何言ってんの? こんな……情けない写真まで取られてさ……」



 取り巻き“だった”少女の一人が、携帯端末の画像を恵美に見せながら疲れた様に問う。



 その画像は……恵美が由佳に対して深々と、土下座している姿が写っていた。



 しかも、その画像にはしっかりと解説コメントが記されており……“万引き強制した伊原恵美ちゃん(上賀茂学園中学2年生) 自分が虐めた少女からの逆襲により、ゴミ箱ダイブ後……許しを請うてみっともなく土下座中”と記されていた。



その画像が、アリたんによって……万引き強制中の映像や、ごみ箱にダイブしている映像と共に各種SNSやメールソフトに、投稿されてしまった。



 恵美の土下座画像を見せながら、取り巻きだった少女の一人は冷たく言う。


 

 「……自分が真っ先に土下座しておいて…… 何言ってんの? 自分から、やらかしておいて……ヤバくなったら急に態度変えるなんて……ホント、最悪」

 

 「アンタとつるんでから……ずっと落ち目だよ。改めて今日、それが分った。恵美……アンタとは、もう付き合えない」



 取り巻きだった少女達は、恵美を見下しながら言い放つ。


 

 自分の取り巻きだった少女達に、見捨てられる恵美。


 彼女は予想外の事に、戸惑い必死で弁解する。



 「ちょ、ちょっと待ちなよ! さっきの土下座も……あの石川って奴に無理矢理……」


 「どーでも良いよ、もう。アンタと一緒に居たら、ゴミまみれになるだけだわ」


 「そーそー。もう、学校でも話し掛けて来ないで。あの石川って奴に睨まれたらヤバイし」



 急に態度を変えた、取り巻きだった少女達に恵美は取り繕うとするが、彼女達は変わらず恵美を拒絶する。



 きっと彼女達は恵美と付き合う事に、限界を感じていたのだろう。


 だから切っ掛けが出来れば、関係が壊れるのは簡単だった。


 


 「もう、行こうか……私の家なら、ここから近いし」


 「ああ、先ずはシャワーだね」



 取り巻きだった少女達は、2人で話し合いながら路地裏を出ようとする。



 「待って! ま、待ちなさい!」



 恵美は彼女達を制止しようとして、少女達の一人の肩に手を掛けたが……思い切り払われ、明確に拒絶された。


 

 取り巻きだった少女達は、恵美の方を振り返りもせず、路地裏を後にする。




 一人残された恵美は……。


 

 「…………」



 恵美はしばらく放心していたが、急に我に返って叫ぶ。



 「何なのよ……何なのよ、コレ!? どうしてこうなる訳!? 何でこうなった!? 石川って奴がココに来るまで何も問題無かったのに……!

 そうか……そうよ! そうなの! 全部……! あの石川が悪いのよ! 私は悪くない!! そうに決まってる! アイツの所為で私は……! ゆ、許さない!! 絶対仕返ししてやる!」


 

 一人になった恵美は路地裏で叫んだ。



 (あの石川って地味子には、変な力がある……。超能力みたいな……。だから私は操られたんだ。それにアイツには手下が居る。……私が直接仕返しするのは無理か……)



 叫んで冷静になった恵美は、頭の中で状況を整理する。


 その結果……恵美自身では、小春に復讐するのは難しい事を理解した。



 (石川に私は手出し出来ない……。だったら……私以外がヤレばいい……。ちょっとヤバいけど……あの人に頼もう……それしかない)



 自分では小春に仕返し出来ないと分った恵美は……SNSを通じて知り合った、とある人物に電話を掛けた。



 「……"エイイチ"……? うん……私……恵美よ……」



 恵美が電話を掛けたのは、"エイイチ"と名乗る男だ。



 SNSで連絡を取り合う内に、こうして電話する仲となったのだが……付き合いを続ける内に……恵美は、このエイイチと言う男が……堅気では無い事を知った。


 

 だからこそ、エイイチが小春への復讐に使えると判断したのだ。


 

 「うん……ちょっとエイイチに頼みたい事があるんだ…….あのね……実は……」



 こうして恵美は愚かな過ちを、またも犯してしまった。



 この時、恵美は分らなかったがエイイチと言う男は、彼女が考えているより……遥かに危険な男だったのだ。



 彼女の軽率な判断により、多くの者達と自分自身が……大変な危機に陥る事になろうとは……当の恵美には知る由も無かった。

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