290)猛獣(早苗)乱入
中学二年生の少女、小川由香は大切な友人を裏切ってしまってから……最悪とも言える状況に陥っている。
今日も、伊原恵美と取り巻きの少女達に路地裏に連れて行かれ、酷い虐めを受けていた。
行きたくも無いのに呼び出され、万引きを強要された。出来ないと断れば、突き飛ばされた挙句……髪を引っ張られ罵られたのだ。
由佳は伊原恵美達の暴力に恐怖と悔しさを強く感じながら、ある事を考えていた。
(……多分コレは私へのバツだよね……あの子に私……酷い事しちゃったから……)
小川由佳は、中学2年となったクラス分けになった際に仲良くなった少女が居た。その少女とは小春の事だった。
小春は小柄でナチュラルショートの可愛らしい姿の、優しくて穏やかで本当にいい子だった。
だから由佳は同じクラスに為った時、小春のそんな雰囲気から仲良くなりたいと思い、自分の方から話し掛けて彼女と仲良くなった。
友人として付き合うと、小春は由佳の予想通りとてもいい子だった。そして由佳はその子と由佳の友人達とで一緒に居る事が多くなる。
にも関わらず“良い友人に巡り会えた”と自分でもそう思った筈なのに、由佳は小春を手酷く裏切ったのだ。
そして……由佳は自分が裏切った事を今更ながらに後悔し、今ここに居ない小春を思う。
(……もう……許してくれないだろうけど……会って謝りたかった……ゴメンね……小春ちゃん……)
由佳が小春を裏切った切っ掛けは、同じクラスとなってしまった伊原恵美の一言からだった。
“あの子と仲良くしないで”そう言って来た伊原恵美の悪い噂を知っていた由佳は、彼女に目を付けられるのが怖くて……自分と他の友人達と共に、小春を避けて友人である事を自ら拒否したのだ。
そして予想通り始まってしまった、伊原恵美と取り巻きの少女達による小春へのイジメ……。
由佳はその事を知りながら……自分達が次の“標的”になるのが怖くて、小春が苦しんでいる事を知りながら、彼女を無視し続けた。
幸い、小春はすぐに救われた。同じクラスの大御門玲人と松江晴菜が彼女を助けたのだ。
玲人は伊原恵美達に真っ向から食って掛かり、晴菜は小春を連れて先生を呼びに行った。
結果、伊原恵美は停学となり、小春に対するイジメは二度と無くなる。
そして小春は晴菜と玲人、そして玲人の友人であるカナメと仲良くなった。
小春が救われた事は本当に良かったと由佳は思う。しかしそう思う事自体が身勝手で卑怯な事だと自分でも理解している。
そして由佳自身は、今更ながら……自分自身の弱さと愚かさを後悔していたのだ。
怖い存在であった伊原恵美に真っ向から立ち向かった玲人。そして小春の傍に寄り添い先生を呼びに行った晴菜。
玲人や晴菜が行なった行動は……本当は由佳がやるべき事だった。そうせず、伊原恵美の言いなりになって友人だった筈の小春を避けてしまった……。
許されない最低な行為だと、由佳は深く後悔した。その為、本当はすぐにでも小春に謝るべきだった。
だけど全ては今更過ぎて、正にどのツラ下げて小春の前に立てば良いか分らなかった。その出来事は由佳自身をずっと苦しめる。
小春との事が有ってから、由佳の友人達とは一緒に居ずらくなり、バラバラになってしまう。
そして、イジメの標的は小春から由佳自身に移ってしまった。
由佳は一人で過ごす事が多くなり……そんな彼女に、恵美達が目を付け……自分が虐められる対象となってしまったのだ。
万引きを強要された挙句……恵美達に、髪を引っ張られながら罵られている由佳。
今の状況は……正に自業自得。自分でも、そんな言葉がピッタリだと思う。
そんな風に由佳が、自虐的に考えていた時……。
「ゆ、由佳ちゃんを……! は、放して……!」
路地裏に駆け込んで来た、小春の声が響いたのだった。
◇ ◇ ◇
路地裏で伊原恵美達に、罵られ虐められていた小川由佳。
彼女を助ける為、小春は路地裏に駈け込み、勇気を出して制止の声を上げた。
小春の声聞いた、恵美と取り巻きの少女達は……自分達の悪事を見られたと、ギョッとしたが声の主が小春と分った途端、気を大きくして罵り始めた。
「……はあ? 誰かと思ったら……私らにイジメられた地味子じゃん。何々……このバカと混ざりたいの?」
「良かったね、由佳ちゃーん……お仲間増えたよ」
「それじゃ、ノルマも倍増だね」
恵美に合わして、取巻きの少女達も調子に乗って嬉しそうに答える。
「……こ……小春……ちゃん……」
嫌らしく笑う恵美達の足元で、由佳が酷く怯えた様子で、泣きながら呟く。
その様子を見た、小春は怒りが収まられなくなり、恵美に問う。
「……伊原さん……由佳ちゃんに、何をしたの?」
「……知りたい……? このバカ女は、ハブられてボッチだからさ……私らが使ってやってんの。 何かさぁ……私らに奉仕したいみたいで…… コンビニから化粧品パクろうと頑張ってたトコ……。アンタも、似た者同志だから……私らが使ってやるよ」
「アハハ!」
「それ、笑えるー!」
おかしくて堪らないと言った様子で、笑いながら答えた恵美達に、小春が言い返そうとした時……小春の意識奥に居る危険な猛獣が暴れ出した。
“……小春ちゃん、もう我慢の限界……。ちょっと替わってね”
(え!? さ、早苗さん、ちょっと!?)
制御不能な危険人物である早苗は、黙って事の成り行きを見守っていたが……余りに調子付いた恵美達の態度にブチ切れ……小春の同意を得る事なく、彼女と意識を交替し……“表側”に出て来た。
そして早苗(体は小春)は、交替して開口一番に恵美たちに向け、冷たい声で言い放つ。
「……フン……バカなガキ共ね……親にタダ飯食わせて貰ってる分際が、偉そうに吠えて……」
「ああ!? お前今何て言ったよ?」
小春と意識を替わった瞬間……早苗は、恵美達を見下して吐き捨てた。
それを聞いた取り巻きの少女が、声色を低くして恫喝する。
「……お前らに言ってあげたのよ、小便臭いクソガキ共。身の程、教えてやるから……さっさと掛かって来たら?」
「お、お前! いい加減にしろよ!」
盛大に煽った早苗(体は小春)に対し、取り巻きの少女が激高して飛び掛かってきた。
しかし……。
「……吹っ飛べ」
早苗が呟きながら、指で弾くと、小女は突然後方に吹き飛び、背後のゴミ箱に激突する。
“ドゴン!”
「いぎゃあ!」
大きなゴミ箱に激突した少女は、ゴミまみれになって悲鳴を上げた。
気を失ってはいない様だが、悪臭のするゴミを全身に被り酷い状態だ。
「……次の人……カモーン! あれ? まさか、 一人やられただけで戦意喪失?」
「……何……何が?」
「はい、時間切れ! 上にも飛んで、ゴミ箱ダイブね」
いきなり一人が、後方に吹き飛んでゴミまみれになった状態に、恵美達は狼狽し戸惑う。
そんな中、早苗は明るい調子で話した後……指を"ビン"と立てる。
すると……。
「うわ、うわ……いやぁー!」
残る取り巻きの少女が、突然宙に浮き上がり……空中で皿回しの様にクルクルと回り始めた。
「はい、ゴミ箱ダーイブ!」
早苗は指を上に向けてクルクル回していたが、その指をゴミ箱の方に向け喜び叫ぶ。
すると、早苗(体は小春)の指の動きの通りに浮いていた少女は、そのままゴミ箱に頭から突込んだのだった。
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