22章 キテる博士と奇跡の少女

288)かつての友人

 恋人である安中拓馬大佐の真実を知った……坂井梨沙少尉が自衛軍を去った次の日……。



 石川小春は婚約者の玲人を見舞う為に、今日も大御門総合病院に行っていた。


 

 玲人は国立美術館でフィルとアルジェと戦いの後……前世の記憶を一部思い出した影響で深い眠りに付き、そのまま大御門総合病院に入院していた。



 4日程前、ようやく眠りから覚めた玲人だったが……玲人の叔母にして医師である薫子より、長期間の入院を命ぜられ、今もまだ入院生活を続けている。



 薫子としては度重なるアガルティア12騎士長達との戦いを強いられる玲人を、少しでも休ませてあげたい、と言う愛情からの処置だった。

 

 しかし、玲人本人は一刻も早く退院を希望しており……その結果、明日には退院と言う事になった。


 

 そんな事情の中、小春は玲人入院中は毎日病院に通い詰め、明日の玲人退院時には付き添う心算だった。


 健気な小春の姿に……叔母の薫子が密かに嬉し涙を流していたが……小春本人は気にせず、玲人入院中最後のお見舞いを終え……一人帰途についた。



 大御門総合病院へは、バスで駅前に向かい、そこから歩いて自宅に戻る事になる。



 少し前まで、玲人は仁郡と共に大御門総合病院に併設された、タテアナ基地に住んでいた為、玲人は徏歩で毎日学校から通っていた。


 

 そう言う訳で歩いて大御門総合病院に行けなくは無いが、小春の足では一時間以上掛かる為、バスを使ったルートで小春は病院に通っていたのだ。



 バスに乗って駅前で降車した小春は、自宅に向かって歩き始めると……大通りの反対側に見知た少女達を見つけて、思わず足を止める。



 その少女達は、小春に取って良くない意味で強い印象を与えた少女達だったからだ。


 

 彼女達は4人で連れ立ち歩いている。小春はその組み合せに、違和感を感じた。


 その内3人は分る。いつも、その3人は一緒だからだ。だが……残る一人はどう考えても、その3人組と気が合う少女では無かったのだ。


 

 4人の内、3人は伊原恵美と、その取巻きの少女達だ。


 伊原恵美とその取巻きの少女達は、小春が通う私立上賀茂学園の同級生だった。


 中学2年生になったばかりの頃……小春は彼女達から陰湿なイジメを受けたのだ。



 その理由は……完全に誤解だったのだが、3人組のリーダー格である伊原恵美が、好意を寄せるクラスメイトの神崎敬太に……小春が色目を付けていると、感違いされた事が切っ掛けだった。



 伊原恵美達の小春に対するイジメは酷く……上履きや教科書を捨てられたりした。


 その中でも最悪だったのは……小春の机にマジックで、罵詈雑言が落書きされた事だ。



 結局、その事が切っ掛けで……玲人が伊原恵美に向かい、クラスメイト全員の前で怒ってくれて……小春と玲人の関係が大きく前進した。


 また、この事件を通じて春菜とも親友となった。



 そしてイジメの中心人物だった、伊原恵美は停学処分となって……この事件は終了した。



 その後……伊原恵美とその取巻きの少女達は、小春に絡んでくる事はなくなった。


 小春には、常に玲人や春菜やカナメ達が傍に居てくれるし、神崎敬太の事が唯の感違いだったからだろう。



 小春をイジメた事に伊原恵美達からの謝罪が無い事を、春菜は本気で怒っていたが……小春にとっては、春菜達や玲人と付き合える様になった事の方が何倍も大切な事だった。



 そんな訳で伊原恵美達3人の事は、小春自身終わった事だったが……彼女達と行動を共にしているもう一人の少女については……少し事情が違っていた。



 恵美達と一諸に居る少女の名は……小川由佳。中学2年生のクラス替えした、最初の頃……特に仲が良かった少女だった。



 恵美達からのイジメを受ける前……小春は常に由佳と一緒に、その時仲が良かった女子グループと共に居た。


 しかし……小春が恵美達よりイジメを受け始めた途端……由佳を始めとする仲が良かった女子グループの女子達は小春の事をあからさまに避け始めた。



 そして……遂には、小春はクラスで孤立してしまったのだ。



 事件が終了し、小春には晴菜と言う親友と……掛け替えの無い、玲人と言う運命の人を得て小春は救われた。


 そればかりか……もはや自分自身となった仁那と早苗、そしてマセスと同化する事で、小春は孤独と無力からは無縁の存在となった。



 そんな訳で小春の中では……恵美達同様に、由佳の事も過去の出来事となった。



 その後、由佳と仲が良かった女子グループとは、何が在ったのかは分らないが……互いに疎遠になった様で……由佳はクラスの中でも一人で居る事が多くなった。


 

 時折……由佳は、春菜と談笑する小春の方を見て、何か言いたそうな顏を見せる事はあっても、それ以上接触して来ない為……由佳と小春の関係は変わらなかった。



 小春の中では……由佳から嫌われてしまった、と言う思いから、自分の方からは声を掛けにくかったのだ。



 そんな理由で縁が切れてしまった、かつての友人である小川由佳と……自分をイジメていた伊原恵美と、その取巻きの少女達。


 

 彼女達が行動を共にしている事に、小春は違和感を感じて……由佳と恵美達の事を、じっと遠目に見る。



 良く見れば先頭で風を切って歩く伊原恵美は、意地悪そうな笑みを浮かべ……最後尾を付いて行く小川由佳の表情は暗く、足取りも重そうだ。


 彼女達を見た小春は……自然に恵美と由佳達の元へと向かおうとした。


 一目見て、由佳が何か良くない事に巻き込まれると感じたのだ。



 そんな小春の脳内に……呼び掛ける声が聞こえた。



 “……ちょっと、小春ちゃん……まさか、首を突込む心算なの?”


 (はい……早苗さん。事情は……良く分りませんが……今の由佳ちゃん、何か様子が変です。とても放って置けません)


 小春の脳内に声を掛けたのは、彼女の魂と同化した早苗だ。



 早苗は由佳達の元へ行こうとした、小春に待ったを掛けたが……小春は揺るがず決意して答える



 “……はあ……小春ちゃん、らしい……て言うか何て言うか……。あのね、小春ちゃん……。一応確認するけど……あの由佳って子は小春ちゃんの事を見捨てた子よね?

 その子が恵美って意地悪そうな子に、何かされてたとしても……自業自得って事で、ざまぁな展開じゃないの?“


 (確かに……由佳ちゃんや、伊原さんには悲しい思いをさせられましたが……だからと言って、辛そうな由佳ちゃんを放っては置けません。それに……伊原さんが悪い事をしてるなら、止めないと)



 早苗は小春の意識奥に設けられたシェアハウスの中から……彼女に至極真っ当な正論をぶつける。


 しかし、対する小春の決意は変わらなかった……。


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