285)梨沙少尉の休日⑤

 

「うわあああ!!」

「こ、殺せ! コイツを早く!」


 いきなり惨殺されたリーダーの男を見て、他のテロリスト達は大声で絶叫し、一斉に安中に向けて発砲する。


 ”ダダダダダ!!”


 しかし、その銃弾は彼に届かない。又も突然現われた沢山の黒いリングが、安中の周りに浮かび放たれた全ての銃弾を吸い込み消し去ったからだ。



 「そ、そんな馬鹿な!?」「弾が届かない!」


 銃弾が全て消え去った事にテロリスト達は驚きの声を上げるが、対する安中は一向に構わず、横に居る透明な少女ヘレナに話し掛ける。



 「……外に居る彼女はアリエッタに任かして……今は、この場の制圧だ。それと、外部から邪魔が入らん様に調整して欲しい」


 「はい、トルア卿」


 「銃が効かねぇなら! コイツで!!」


 二人が話している中、テロリストの一人が持っていたナイフで安中に向け襲い掛かってきた。



 対する安中は素手でナイフを掴むと、難なく刃身を握り潰す。そして襲ってきた男を投げ飛ばした。


 “ドゴォ!!”


 投げ飛ばされた男は、砲弾の様に吹き飛びレストランの壁に盛大な音を立てて激突し死亡する。



 次いで安中は別なテロリストの背後に一瞬で転移すると、手刀でその男の背中を貫く。


 「グギャアア!!」


 手刀で貫かれた男は叫び声を上げて絶命した。



 「く、くそ! もう一回だ!」「全弾ブチ込め!!」


 あっと言う間に二人の仲間を殺した安中に向け、他のテロリスト達は叫びながら銃で応戦したが、無駄な事だった。



 放たれた銃弾は、安中を守る様に浮かぶ黒いリングに全て吸い込まれてしまうのだ。



 黒いリングの内側は、深い闇が満たされており、どうやら別空間にリングの内側は繋がっている様だ。



 安中は自身を守る黒いリングを掴むと、近くに居たテロリストの一人に斬り掛かった。


 “ズパン!”


 すると、黒いリングはそのテロリストの身体を、水が掬うが如く真っ二つに切断してしまう。


 切断されたテロリストは血肉を盛大に巻き散らして絶命した。



 テロリストの男を黒いリングで切り捨てた安中は、そのままリングを放り投げる。


 “ヒュン!!”


 投げられたリングは弧を描いて飛び、立っていた他のテロリスト達を全て切り裂いてしまう。


  「ギャアアア!!」「アギィ!」


 リングに斬り裂かれたテロリストは、絶叫して全員死亡した。リングはブーメランの様に投げた安中の手に戻る。




 僅かな間に全てのテロリスト達を惨殺した安中……。



 静かになったレストランは赤く血に染まっていた。そんな中、安中は銃で撃たれた客達を見て呟く。


 「……制圧は完了した。ヘレナ、床に転がる民間人を救済処理してくれ」


 「はい」


 そう呟いた安中にヘレナは静かに答える。そしてヘレナはレストラン店内で、銃に撃たれて横たわる客達に向かい、透明な右手を差し出した。



 すると血塗れの客達が薄い光に包まれ、見る間に癒されていく。息を吹き返した客達は意識が無い様で横たわったままだ。


 「間に合った様だな……助けた者達を連れ出してくれ」

 「はい、トルア卿」


 安中は客達が助かったのを見ると、ヘレナにレストラン外に連れ出す様指示した。



 安中に指示されたヘレナは助けた客達に対して、闇に包まれた円状のゲートで包み……空間を繋いでレストラン外へ全員転移させた。




 動く者が居なくなったレストラン店内……。死と静寂が支配するレストランにて、安中がヘレナに問う。



 「次の予定は何時だ、ヘレナ?」


 「はい、トルア卿……。真国同盟がテロを起こす予定地は、ここより300km程離れた商業施設で、決行日は2日後の予定です。内容は爆発物を使用したテロの様です。

 なお、同日に別な場所で銃器による テロ行為が計画されています。但し、このテロは真国同盟とは異なる殂間の様です。

 他には4日後に化学兵器を利用したテロが計画されています。このテロ作戦は真国同盟の下部組織ですね。場所は更に東側遠方で大型の観光ホテル……決行時間は深夜です。

 今週は今の所、この3件です。週末に掛け、いつもの様に増加すると思われますが、いかがなさいますか?」


 「……決まっている。その全てを未然に防ぐ。但し商業施設と観光ホテルは大規模故に、私が対応する。銃器によるテロ作戦に関しては、自前に計画内容を自衛軍にリークして対応させよう。 対応が遅れる様であれば、私が直接処理する。

 ヘレナ、来週以降のテロ計画を探ってくれ。自衛軍で対応出来そうな計画は、事前に情報を回す。被害が出そうなテロ計画は、いつも通り私が対応しよう……」



 淡々と説明するヘレナに対し、安中は慣れた様子で答える。そんな彼にヘレナは……。



 「……僭越ながら……トルア卿……。私は先代のアリエッタから、貴方様が行っている……この"残業"も手伝う様に言われていますが……いつまでこの"残業" を続けられる御心算ですか?

  アーガルム族である私自身には、休戦中とは言え、敵である筈のマールドム族を守る……。貴方様の"残業"の意図が、先代のアリエッタ同様理解出来ません……」


 「……だろうな……。だが、私はこの行為が無気味とは考えていない。覚醒に至る為、御館様には我ら12騎士長との戦いを行って頂く必要がある。その為にも、御館様に些末な事で心労をお掛けする訳にはいかない……。故に私が処理している」


 目を伏せながら言い難そうに問うヘレナに対し、安中は迷いなく答える。



 同じ様な問いを受けたのであろうか……その返答は予め用意された様に聞こえた。


 だが……ヘレナは安中の答えに納得せず、更に問い掛ける。


 「同じ様な話を先代のアリエッタにもされた様ですが……覚醒されたマニオス様がマールドムを全て殲滅する事となれば、貴方様の行ってきた行為は全て無駄となります。

 貴方様がそれを分らない筈が無い。にも関わらず……貴方様はこの"残業"をずっと長きに渡り、陰ながら行われています。

 同胞であるアーガルム族からは誰一人理解されず、非難される事は在っても評価される事の無い、この“残業”は……私から見れば貴方様なりの贖罪に見えます。他でも無い、マールドムに対しての……」


 そう言ってヘレナは辛そうな顔をするのであった。


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