283)梨沙少尉の休日③

 駅前のレストランに居た梨沙……白昼堂々のテロに巻き込まれた梨沙だったが、人質となった少女が殺されそうになった為、単独で抗い状況を打破しようとした。



 しかし、人質達を銃を向けたテロリストに屈するしか無く、銃撃を受けて梨沙は死亡するところだったが……。



 テロリスト達の銃弾は、梨沙を貫く事無く……空中にピタリと停止していた。



「……あ、あれ? こ、これ……冷人が?」



ピタリと浮かぶ銃弾を見て、梨沙はここに居る筈のない冷人の名を口にする。こんな事が出来るのは、梨沙の身内では彼だけだからだ。



「な、なんだ!? 何が起こっている!?」



 銃弾が空中で浮かんでる状況にテロリストの一人が混乱して叫んだ。



 「くそ!! もう1回だ!」



 そう言いながらテロリストの男は銃を梨沙に向けたが……。



 “バガン!!”



 大きな音がしたかと思うと、銃を向けたテロリストの男が上に吹き飛ばされ、天井に上半身が突き刺さる。


 赤い血の染みがしたたり落ちている事より、一瞬で絶命した様だ。



 男の死と同時に 空中に浮かんだままの銃弾が一斉に地面へと落下して散らばる。



 「うおおお!!」「お、おい! 止めろ!」


 “ダダダダ!”


 いきなり死んだ仲間に混乱した別なテロリストが四方八方に向けて、めちゃくちゃに発砲した。


 別な仲間が声を上げて制止したが、その男は興奮している為か止まらない。



 そんな事をすれば流れ弾で集めた客や自分の仲間すら死んでしまう様な撃ち方だったが……何も起きなかった。




 何故なら、またしても放たれた銃弾は空中で止まっていたからだ。




 銃弾は……今度は地面に落下せず、撃ったテロリストに向け一斉に音よりも早く動き出す。


 ”キュキュン!”


 その動きは銃で発砲した時よりも早く、超高速で動いた銃弾は撃ったテロリストの体を穿つ。



 「ぎい!!」



 自分が挐た銃弾に貫かれた男は、叫び声を上げ血塗れになって死んだ。




 (……この力……玲人……じゃないよな……)



 梨沙は目の前で行われているテロリストの処刑が、玲人の能力に似た攻撃である為……彼の事がまたも脳裏に浮かんだ。



 だが、病院に居る筈の玲人が此処に来れる訳も無くあり得ない事より、すぐにその考えを否定した。




 そんな中……。




 「あーあ……担当頭にきちゃってるね、これは……。まぁ大事なお姫様が危ない目に遭わされたからなー」



 間延びした可愛らしい声が、突然梨沙の横から聞こえた。



 ギョッとした梨沙が声の方を見ると、みかんを模した格好の10Cm位の可愛らしい少女がふのふよと浮かんでいる。



 「お、お前……確か……美術館で、小春ちゃんの傍に居た奴だな!?」

 「大正解……! あたしは小春専用下僕のアリたんだよー!」

 「な、何で、こんな所に……」



 梨沙の問いにアリたんは元気良く答えた。意味が分らない梨沙は再度、アリたんに問おうとした時……。



 「おい! 隠れて攻撃している、陰気ヤロー!! 姿を現せ! そうでないと……!」


 謎の攻撃により、2人の仲間を失ったテロリストのリーダーは激しく怒り、客である少女を掴んで立たせ銃口を向けた。


 「キャアア!」


 銃口を向けられた少女は恐怖で泣き叫ぶ。



 「脅しでは無いぞ! 5つ数える間に姿を見せなければ、このガキは殺す! 5……4……3……」



 “ヴン!”



 リーダーの男がカウントダウンを始めた最中……忽然とローブを着た男が現われた。




 その男はドルジと同じく単眼を象った金属性のマスクを被り、緑色のローブの下には紋様が刻まれた金属性の胸当てを装備している。



 顔を見せてはいないが、背丈や体付きより男だと判別出来た。



 (!? ……この姿……に、似ている……)



 その現れたローブの男を見た時、梨沙は衝撃を受ける。


 素顔は見せていないが、ローブの男の背格好が恋人である安中に似ていたからだ。




 そんな状況を余所に、現れたローブ姿の男に向け、テロリストのリーダーは大声を張り上げる。



 「お前の仕業か!! よくも仲間を……! 殺してや……」



 ローブ姿の男に、テロリストのリーダーは怒り狂いながら銃を付けたが、それ以上の言葉は続かなかった。



 何故ならテロリストのリーダーが叫んでいる最中に、ローブ姿の男は一瞬で間合いを詰め、リーダーの男を片手で掴んで仲間目掛けて投げ飛ばしたからだ。



 「ぐああ!!」「うぎぃ!」



 投げ飛ばされたリーダーの男は、ぶつかった他のテロリスト達と同時に痛みで叫ぶ。




 「や、野郎!!」


 リーダーが投げ飛ばされたのを見て、別なテロリストがローブ姿の男に銃を向けて叫んだ。



 しかしローブの男が手を差し出すと……そのテロリストは、手をブルブル震わせながら銃を自分の頭に向けた。


 「な、何だぁ!? て、手が勝手に!?」



 どうやら、そのテロリストは自分の意志に反して、銃を頭に向けさせらている様だ。


 「ま、拙い拙い拙い! このままじゃ……!!」 



 銃を自分の頭に向けてしまっている男は、必死に抗い叫ぶが、全く自由が効かない様だ。遂にテロリストの男は抗い切れず発砲してしまう。


 “ダダダ!”


 「おげぇ!!」

 

 何かの力に操られ自分の頭を銃で撃ち抜いた、テロリストの男は、悲鳴を上げて絶命した。




 頭を打ち抜いたテロリストの男は、血を大量に流して床に倒れた。



 男の凄惨な死に様に客やスタッフ達は、恐怖の余り捕まっていた客達は絶叫する。



 「ギャアアアア!!」「うわああ!!」


 

 客達は混乱し一斉に立ち上がって逃げ出そうとする。



 それを見たローブの男はすっと右手を差し出すと……黒いリングが捕まっている客やスタッフ達全員の頭上に現われた。



 「お、おい やめろ!」



 捕まっていた客達の頭上に黒いリングが現われたのを見て、梨沙はイヤな予感がして叫ぶが……彼女の頭上にも黒いリングが現われる。



そして現われた黒いリングは一瞬で梨沙や客達を包んだかと思うと……。



 “ヴオン!!”



 音と共にレストラン内に居た梨沙や客達は一瞬で、全員姿を消したのだった。




 

  ◇   ◇   ◇





 “ヴオン!!”


 「うわ!?」



 音と共に梨沙は姿を現す。



 但し、先程まで居たレストランと違い……レストラン向かいの大通りにだ。



 梨沙だけでは無く、今まで一諸に居たレストラン内の客達やスタッフも全員、その大通りに現れた。



 彼らは突然の状況変化に戸惑い、しばらく困っていたが……自分達がレストランの外に居て危機を脱した事を理解した途端、大声で泣き出したり、歓喜の余り叫び出した。



 大通りには、レストランの騒動に集まった沢山の野次馬が居たが、いきなり現れて大声を上げる客達を遠巻きに見ている。



 「い、一体……何が起こったんだ……!?」



いきなりレストランの外に放り出された梨沙は……安堵し喜ぶ客達を見ながら、呆然としながら呟くのだった。


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